フォト

カテゴリー

The Picture of Dorian Gray

  • Sans Souci
    畢竟惨めなる自身の肖像

Alice's Adventures in Wonderland

  • ふぅむ♡
    僕の三女アリスのアルバム

忘れ得ぬ人々:写真版

  • 縄文の母子像 後影
    ブログ・カテゴリの「忘れ得ぬ人々」の写真版

Exlibris Puer Eternus

  • 吾輩ハ僕ノ頗ル氣ニ入ツタ教ヘ子ノ猫デアル
    僕が立ち止まって振り向いた君のArt

SCULPTING IN TIME

  • 熊野波速玉大社牛王符
    写真帖とコレクションから

Pierre Bonnard Histoires Naturelles

  • 樹々の一家   Une famille d'arbres
    Jules Renard “Histoires Naturelles”の Pierre Bonnard に拠る全挿絵 岸田国士訳本文は以下 http://yab.o.oo7.jp/haku.html

僕の視線の中のCaspar David Friedrich

  • 海辺の月の出(部分)
    1996年ドイツにて撮影

シリエトク日記写真版

  • 地の涯の岬
    2010年8月1日~5日の知床旅情(2010年8月8日~16日のブログ「シリエトク日記」他全18篇を参照されたい)

氷國絶佳瀧篇

  • Gullfoss
    2008年8月9日~18日のアイスランド瀧紀行(2008年8月19日~21日のブログ「氷國絶佳」全11篇を参照されたい)

Air de Tasmania

  • タスマニアの幸せなコバヤシチヨジ
    2007年12月23~30日 タスマニアにて (2008年1月1日及び2日のブログ「タスマニア紀行」全8篇を参照されたい)

僕の見た三丁目の夕日

  • blog-2007-7-29
    遠き日の僕の絵日記から

サイト増設コンテンツ及びブログ掲載の特異点テクスト等一覧(2008年1月以降)

無料ブログはココログ

« 譚海 卷之二 平賀源内ヱレキテルを造る事 | トップページ | 進化論講話 丘淺次郎 第十七章 變異性の研究(六) 六 住所の廣さによる變異 / 第十七章 變異性の研究~了 »

2018/07/17

進化論講話 丘淺次郎 第十七章 變異性の研究(五) 五 特殊なる習性の變異

 

     五 特殊なる習性の變異

 

Sanbagaeru

[産婆蛙]

[やぶちゃん注:講談社学術文庫版を用いた。後の「黑山椒魚」も同じ。]

 

 次に圖に示したのは、ヨーロッパの南部に普通に産する産婆蛙と名づける奇妙な習性のある蛙であるが、之に就いてもヴィーンの生物學試驗所で極めて面白い實驗を行つた。元來この蛙は産卵の際に、雄は雌を背の上から抱いて、雌が産卵すれば、直に之を自身の腿の邊に卷き附ける。卵は恰も蟇の卵の如くに寒天樣の物に包まれ、紐の如き形をなして生れ出るが、その際雄は幾分か之を雌の體より引き出して助けるから、それで産婆蛙といふ名が附けられたのである。さてかやうに卵の紐を腿に卷き附けた雄は、雌の體を離れ、石の下や草の蔭などに隱れて、暫くは出て來ず、卵が梢々發育して蝌斗[やぶちゃん注:「おたまじやくし(おたまじゃくし)」。蝌蚪。]の形になつて、將に水中に泳ぎ出でんとする頃になると初めて匍ひ出して、近所の池か沼に入り、子供を悉く水中に泳ぎ出さしめて、この時漸く身輕になるのである。かやうな他に類のない一種特別の習性を有するものであるが、カンメレルはこの蛙を飼養する場處の溫度を高めて、日本の土用の日中よりも尚暑い程にして置いた所が、以上の習性に大變化が生じた。卽ち蛙は暑さに堪へ兼ねて、大抵水の中に居て、産卵も水の中でするやうになつたが、さて、水中では、卵を包む寒天樣の物が水を吸つて、ぬらぬらになり、如何に雄が卵を自身の腿に卷き附けようとしても、滑つて到底粘著せぬ。それ故止むを得ず卵は水中に産れたまゝとなり、初から水中で發育し、蝌斗は早くから水中へ泳ぎ出すやうになる。次にかやうに初から水中で發育した蛙の生長したものを、普通の溫度の所で飼ふて置いて、如何に産卵するかを試した所が、面白いことには、やはり親と同じく水中で産卵した。それのみならず、この卵から發生した孫蛙までも、生長後同じく水中へ産卵した。卽ち親蛙は人爲的に高い溫度の所で養はれ、止むを得ず從來の習性を改めて、水中に卵を産むといふ新な性質を獲たのであるが、その子の代には、以上の性質が親から傳はつて、生れながらこの性質を有し、普通の溫度の所で飼ふて置いても、自ら水中に産卵するやうになり、且孫の代までもこの新な性質が續いたのである。

[やぶちゃん注:両生綱無尾目ミミナシガエル科サンバガエル属サンバガエル Alytes obstetricans。外観はヒキガエルに似ているが、遙かに小型で四~六センチメートルにしかならない。耳腺がなく、瞳孔は縦長の菱形で夜行性の特徴を示す。春から初夏にかけての繁殖期に、は雌の腹部を刺激して産卵を促し、産み出された紐状の卵塊を自分の後肢に巻きつけ、約 五十日間に亙って運んで歩く。孵化が近づくと、は水中に入り、オタマジャクシを解放する。ヨーロッパ西部~中部に分布する。

「ヴィーンの生物學試驗所」既出既注

「カンメレル」既出既注。なお、リンク先にも記したが、彼、カンメラーはこのサンバガエルを使った実験を通して、獲得形質の遺伝を主張したのであるが、データ捏造の疑いをかけられた直後にピストル自殺(一九二六年)をしている(但し、自殺の理由は不明である)。それは前にリンクさせたサイト「研究倫理(ネカト)」のこちらで考証されており、他にもくる天氏のブログ「水のよう・・」の『形質は「獲得」されたのか』でも考察されている(それによれば、『カンメラーの死から数年を経てソ連で彼をモデルに「サラマンドラ」という映画が作られ』ているともある。これはСаламандра(ソ連・ドイツ合作。一九二八年公開。監督Георгий Гребнер(グレゴリイ・ロシャル)・Анатолий Луначарский(アナトリイ・ルナチャルスキイ)である。ロシア語同作ウィキと、英語ウィキをリンクさせておく。また、今回、別にブログ・サイトサイエンスあれこれサンバガエルの謎が解けた?を発見、これは哲学者アーサー・ケストラ「サンバガエルの謎」(原題:The Case of the Midwife Toad)によって一九七二年に書かれた科学史本(日本語訳は再刊本が岩波現代文庫で二〇〇二年刊)のレビューなのだが、同書は、『サンバガエルを使った実験を通して、獲得形質の遺伝を主張したオーストリアの生物学者パウル・カンメラーが、データー捏造の疑いをかけられ、最終的には自殺にまで追いこめられた様子を、権威主義的な当時の科学界を批判する立場から書かれた意欲作で』あるとあり(一部のリンクを引用元を参照に附した)。

   《引用開始》

獲得形質の遺伝というのは、生きている間に、その環境の中で生き抜くために必要とされ、発達した身体の器官やその特長(獲得形質)が、次世代へと遺伝することにより、生物は進化するのだという主張です。カンメラーは、陸生のサンバガエルを無理やり水中で飼育すると、大半の次世代は生き残れないが、わずかに生き残った次世代は、水中生活に適応し、それはさらに次の世代にも伝わり、何世代か後には、水生のカエルの特徴であり、水中での交尾の際の滑り止めの役割を果たす、前足のこぶまで出現したと主張しました。

一方で、正統的なダーウィン説では、あらゆる形質の変化は、あくまでもランダムな遺伝子の突然変異により規定されていて、その環境の中で不利ではなかった形質をもつ個体のみが、次世代に子孫を残せるので、結果的にその形質は遺伝すると主張します。言い換えれば、いくら頑張って、その環境に適応できるように形質を変えることができても、それが遺伝子によってあらかじめ決められていない形質だった場合、それは一代限りの形質であり、次世代へと遺伝することはないというわけです。遺伝子が形質を変化させると主張するダーウィン派にとって、形質が遺伝子を変化させると主張するカンメラーはどうしても受け入れがたい存在でした。そこで、ダーウィン派の学者たちは、カンメラーの実験はでっち上げだという決定的な証拠を入手したと公表したのです。前足のこぶは、インクを注入して作られた偽者だと・・・。著者であるアーサー・ケストラは、これは、権威を守ろうとしたダーウィン派による陰謀だとしていますが、真偽のほどは、もちろん現在も分かっていません。

前置きが長くなってしまいましたが、ある程度生物学をかじったことのある方なら、獲得形質の遺伝は、生物のメカニズム的にありえないと、正しく理解されていると思うのですが、面白いことに、一見獲得形質が遺伝したかのようにみえる現象というのは、数多く報告されています。そのひとつがエピジェネティックス変異[やぶちゃん注:epigenetics とは、一般的には「DNA塩基配列の変化を伴わない細胞分裂後も継承される遺伝子発現あるいは細胞表現型の変化を研究する学問領域」を指す語。]です。これは、遺伝子自体は変異していなくても、その遺伝子をON/OFFさせることができるメカニズムのことで、一見その遺伝子が変異したかのようにみえます。エピジェネティックス変異は、生育環境の影響を受け、世代を通して遺伝することが知られています。これが、獲得形質の遺伝とは言えないのは、エピジェネティックな制御を受けるかどうかは、環境が規定するが、その制御を受けられる遺伝子かどうかは、最初から遺伝情報として決まっているという点で、厳密には獲得した形質が遺伝するわけではないからです。

カンメラーの事件から80年以上たった現代において、当時知られていなかった、そしてダーウィン説とも矛盾しない、このエピジェネティックス変異によって、サンバガエルの謎が解明できるのではないかという提案が、The journal of experimental zoology誌に掲載されました(無料で全文PDFのダウンロード可能)。つまり、カンメラーの報告は、獲得形質の遺伝を証明するものではなかったが、れっきとしたエピジェネティックス変異の報告だった可能性があるというものです。ただし、この論文で触れているのは、可能性の提案であり、実際にカンメラーの実験を追試したわけではありません。どれだけ苦労しても、自分が第一発見者でなければ、何も報われない科学界において、卓越した技量と忍耐を要するカンメラーの実験を追試しようと思う科学者がいるとは思えないので、汚名回復できないカンメラーは少しかわいそうな気がしますね。

   《引用終了》

と述べておられる。この本、是非とも読みたくなった!]

 

Kurosansyouuo

 [黑山椒魚]

 

 斑紋性山椒魚のことは前にも述べたが、ヨーロッパには尚一種普通の山椒魚がある。之は山間の溪流に住み、全身暗黑色である故、黑山椒魚と名づける。この二種は習性にも著しく異なつた所があり、斑紋性の方は數十疋の小さな蝌斗を水中に産み落し、その蝌斗は暫時水中に生活したる後、體形を變じ、親と同じ姿となつて陸上に出るのであるが、黑山椒魚の方は、每囘たゞ二疋の完全に發育した大形の子を直に陸上に産む。尤も黑山椒魚でも、親の胎内には初め澤山の子が出來るが、その中二つだけが發育して大きくなり、他のものは漸々溶解して二疋を生長せしめるための養分となつてしまふのである。之は恐らく高山では溫い季節が短く、その間も水が頗る冷たいから、普通の蠑螈[やぶちゃん注:「ゐもり(いもり)」。]・山椒魚の如くに水中に産卵したり、幼兒を水中に産んだりしては、到底子が發育することが出來ぬ所から、自然にかやうな習性が生じたものと見える。カンメレルはかやうな考から、試に斑紋性山椒魚を水のない溫度の低い處で飼つて置いた所が、止むを得ず子を成るべく長く胎内に留まらしめ、發育の進んだものを陸上に産み落し、その數も漸々減じて後には每囘僅に二疋の大きな子を産むやうになつて、全く黑山椒魚と同樣な習性を獲るに至つた。之と反對に、黑山椒魚の方は溫度を高めて、止むを得ず水中に入らしめ、水中で産卵するやうにいて育てたら、漸々發育の不十分な小さな幼兒を數多く産み落す習性が生じた。而して面白いことには、陸上に胎生する習性を獲た斑紋性山椒魚の産んだ子が生長してから、之を普通の處で養うても、餘程發育の進んだ大きな子を數少く産み、その一部は陸上に産み落した。之も親が新に獲た性質が子に遺傳した一例と見倣すべきものであらう。

[やぶちゃん注:「黑山椒魚」これはイタリア北東部のアルプス高地とオーストリア及びスイスに跨るアルプス山脈とそれに続くジナルアルプス山脈にのみ棲息する両生綱有尾目サンショウウオ亜目サンショウウオ科サンショウウオ科アルプスサンショウウオ Salamandra atra で、基亜種 Salamandra atra atra頭部から背中が黄色みを帯びたSalamandra atra auroraeaurorae はイタリア北東部のある地域にのみ棲息)がいる。全長十四センチメートルで黒色を呈し、先に出た「斑紋山椒魚」=ファイアサラマンダー Salamandra salamandraよりも細身で、全身が黒色を呈する。棲息分布は高地に行くに従って、ファイアーサラマンダーに取って代わる、と個人サイト「両生類AMPHIBIANS) びっきぃ  やまどじょうの「アルプスサラマンダー」(Alpine Salamanderページにある。]

 

Yanaginohanisuwotukuruga 

[柳の葉に巢を造る蛾]

 

 習性の變異に關する他の例か一二擧げて見るに、米國のシュレーデルといふ人が、一種の小形の蛾について行つた面白い實驗がある。この蛾は柳の葉に巢を造るが、初め口から絲を出し、之を用ゐて葉の先端を裏の方へ曲げ、次に兩側の孔を塞いで、その内に閉ぢこもるのが常である。シュレーデルは試に柳の葉の先端を悉く橫に切り落して、その枝にこの蛾を飼つて巢を造らせた所が、蛾は常の如くに葉の先端を裏に曲げようとしても先端の部がない故、止むを得ず流儀を變へて、葉の兩側の緣を縱に卷いて巢を造つた。かやうに新工夫の巢を造つた蛾の生んだ子を育てて、再び先端を切り捨てた葉を與へて、同じやうな巢を造らせ、その産んだ子、卽ち最初に試驗したものから算へて三代目の子に至つて、再び完全な葉を與へて、如何なる巢を造るかと試した所が、一部のものは昔からの習性に戾つて先祖と同樣な巢を造つたが、他のものは一二代前に止むを得ず造つたのと同じやうに、葉の側緣を内に卷いた巢を造つた。

[やぶちゃん注:「柳の葉に巢を造る蛾」図の形状と、柳の葉に巢を作る(幼虫がヤナギ類を摂餌する)という観点から調べてみると、ヒゲナガキバガ科ヒロバヒゲナガキバガ亜科 Scythropiodes 属或いはその近縁種辺りか?

「シュレーデル」不詳。]

 

 またシュレーデルは滑な葉を有する柳に著いて、その葉を食する一種の小さな甲蟲の幼蟲を取つて、之を毛の生えた葉を有する別種の柳に移した所が、幼蟲は頭で毛を分けながら、その葉を食して無事に成長したので、滑葉の柳と毛葉の柳との枝を竝べて、孰れへでも勝手に産卵させた所、約三分の二は滑葉の方へ、約三分の一は毛葉の方へ産み附けた。一體ならば、全部滑葉の方ばかりに産卵して、毛葉の方へは一つも卵を産み附けぬのがこの蟲の性質である。幼時より毛葉の方で飼養せられたから、習性に變異が起つて、斯く一部のものは毛葉の方へ産卵するやうに成つたのである。次に之から孵化した幼蟲をまた毛葉の方で飼育し、前と同樣の方法で産卵せしめたら、このたびは半數以上は毛葉の方に産んだ。更に同樣の試驗を續けた所が、三代目には五分の四以上が毛葉の方に産卵し、四代目になつては悉く毛葉の方に産卵して、祖先からの食物なる滑葉の柳の方には一つも産卵するものがなくなつた。之も一代每に少しづゝ後天的の性質が子に傳はり、代を重ねるに隨つて、その結果が著しくなつたと考へるのが至當であらう。

« 譚海 卷之二 平賀源内ヱレキテルを造る事 | トップページ | 進化論講話 丘淺次郎 第十七章 變異性の研究(六) 六 住所の廣さによる變異 / 第十七章 變異性の研究~了 »