諸國里人談卷之三 狸火
○狸火(たぬきび)
攝津國川邊郡東多田村の鱣畷(うなぎなはて)に燐(おにび)あり。此火、人の容(かたち)あらはし、ある時は、牛を牽(ひき)て、火を携へ、行〔ゆく〕也。これをしらぬ人、其火を乞(こひ)て、煙草をのみて相語るに、尋常(よのつね)のごとし。曾(かつ)て、害をなさず。おほくは雨夜(あめのよる)に出〔いづ〕るなり。所の人は「狸火なり」と云。
[やぶちゃん注:「攝津國川邊郡東多田村の鱣畷」現在の兵庫県川西(かわにし)市東多田(ひがしただ)附近らしい。ここ(グーグル・マップ・データ)。]