甲子夜話卷之四 33 假養子願書を取替たる事
4-33 假養子願書を取替たる事
予が親類の一侯、在所に往とて、亡父の時、其弟の末家を繼せたるを假養子に願置て立しが、間もなく在所に於て沒したり。定て家頼抔の所爲か、假養子の願書を申下して、別人を願替て、沒後に、某氏、養子となり、養父の忌服を受たり。然ば假養子の願書は自筆調印の例なるが、印は人も押すべし。自筆は誰が書せしにや。近來の新事と云べし。
■やぶちゃんの呟き
末期養子のすり替え例(当主が既に死亡しているにも拘わらず、周囲の者がそれを隠して当主の名に於いて養子縁組を行って家督を存続させた違法行為)ではあろうが(ウィキの「末期養子」を参照されたい)、この話、私が馬鹿なのか、今一つ、関係がよく呑み込めない。弟は継いでいた分家が困るから養子縁組に難色を示していたものか、或いは、家臣たちが理由は判らぬが実弟の養子縁組に実はもともと反対だったのか? どなたか、判り易く解説して下されよ。語注だけしておく。
「往とて」「ゆくとて」。
「末家」「ばつけ」。分家。
「立しが」東洋文庫版「立(たち)しが」とルビ。
「定て」「さだめて」。
「家頼」「家來」に同じい。家臣。
「願替て」「ねがひかへて」。
「然ば」「しからば」。
「假養子の願書は自筆調印の例なるが」仮養子願いの上申書は養父の本文自筆の上、本人の書き判が定めであるが。