譚海 卷之二 蒔繪師筆の事
蒔繪師筆の事
○蒔繪師の用(もちひ)る漆筆は人髮也。但(ただし)關西の人の毛髮を用ゆ。關西の人の髮は細くして腰つよし。關東の人の髮は毛太くして腰よはき故(ゆゑ)用がたしとぞ。
[やぶちゃん注:「蒔繪」漆工芸の装飾法の一種。加飾しようとする面に漆で文様を描き、その上に金・銀・錫の粉末や色粉を蒔いて固めたもの。通常、漆地の上に施すが、木地その他にも応用される。奈良時代の末金鏤(まっきんる)は蒔絵の原初的な形と考えられているが、「まきゑ」の名が記録に現われ、作品としても残っているのは平安以後である。特に平安中期以降に貴族の間で流行し、寺院建築・家具調度・文房具などの装飾に応用されたが、時代が下るにつれ、武家や庶民の間にも広く愛用されるようになった。蒔絵の技法は工程上から研出(とぎだし)蒔絵・平蒔絵,・蒔絵の三種に大別され、粉の種類により、消粉(けしふん)蒔絵・平極(ひらぎめ)蒔絵・丸粉蒔絵(本蒔絵)の区別もある。また、文様以外の地に粉を蒔く塵地(平塵)・平目地・梨地・沃懸地(いかけじ)などの技法や、螺鈿・象眼(ぞうがん)・平文(ひょうもん)・彩漆(いろうるし)なども併用され、複雑な装飾文様が作られる(以上は「ブリタニカ国際大百科事典」に拠る)。]