和漢三才圖會第四十二 原禽類 矮雞(ちやぼ)
ちやぼ
【俗云 知也保】
矮雞
矮【鴉棤切短也不長也】
本綱矮雞出江南脚纔二寸許也
△按矮鷄嘴脚黃色者爲上但脚有毛者不佳尾長勾届
頸後復曲埀者謂之佐志尾翅潤張者並佳
南京矮鷄 初來於南京最小而脚及眼色黃甚賞之
同白矮鷄 純白有尨毛冠黑者最勝焉其冠赤者呼曰
地南京次之
加比丹矮雞 眼色黑脚亦帶黑次之
凡矮雞不能高飛聲亦小然告時不異諸雞也矮雞交
于和雞所生者形小而脚不甚矮曰之半矮爲下品
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ちやぼ
【俗に「知也保」と云ふ。】
矮雞
「矮」は【鴉棤の切。「短」なり。
「長からず」なり。】
「本綱」、矮雞は江南より出づ。脚、纔かに二寸許りなり。
△按ずるに、矮鷄、嘴・脚、黃色なる者を、上と爲す。但し、脚に毛有る者、佳ならず。尾、長く、勾(まが)りて頸の後〔(しり)〕へに届(いた)る〔もの〕、復た、曲〔り〕埀〔たる〕る者、之れを「佐志尾〔(さしを)〕」と謂ふ。翅、潤〔(ひろ)〕く張〔れ〕る者、並びに佳なり。
「南京矮鷄」 初め、南京より來〔(きた)〕る。最も小さくして、脚及び眼の色、黃なり。甚だ之れを賞す。
同じく「白矮鷄」 純白で尨毛〔(むくげ)〕有り。冠〔(さか)〕、黑き者、最も勝れる。其の冠、赤き者を呼びて「地南京」と曰ふ。之れに次ぐ。
「加比丹矮雞〔(かびたんちやぼ)〕」 眼の色、黑く、脚も亦、黑を帶ぶ。之れに次ぐ。
凡そ矮雞は高く飛ぶこと能はず。聲も亦、小さし。然れども、時を告ぐるは諸雞に異ならず。矮雞、和雞(しやうこく)に交〔(つる)〕〔みて〕生む所の者、形、小さくして、而〔れども〕脚〔は〕、甚だ矮(ひく)からず。之れを「半矮(〔はん〕ちや)」と曰ひ、下品と爲す。
[やぶちゃん注:ニワトリの品種チャボ(矮鶏)。既に述べた通り、「天然記念物」に指定されている。ウィキの「チャボ(鶏)」より引く。『多くの品種を持ち、観賞用として古くから愛好されてきた』。『東南アジアと貿易を行った朱印船や南蛮貿易、あるいはそれ以前において』、十七『世紀まで存続したチャンパ王国』(一九二年~一八三二年:ベトナム中部沿海地方(北中部及び南中部を合わせた地域)に存在した王国)『の鶏品種を日本で改良し作出したと考えられている。名前の由来はチャンパ王国の主要住民であったチャム人か、そのままチャンパが訛ったとされる。当時は雑色のものであったらしい』。『「矮鶏」という漢字表記からも分かるとおり、他の品種に比べて小型であり、オスで』七百三十グラム、メスで六百十グラム『程度が標準的な体重である。また足が非常に短く、尾羽が直立していることが外見上の特徴である』。『また海外でもジャパニーズ・バンタムと呼ばれ愛好されている。こちらの由来は現在のインドネシアのバンテン州にあったバンテン王国』(十六世紀から十九世紀にかけてジャワ島西部バンテン地方に栄えたイスラム国家)『やその異称バンタムから。なお、チャボに限らず』、バンタム『と呼ばれる品種のうち』、『「真のバンタム」(true bantam)と呼ばれる品種は』、『小柄な品種が多く、格闘技の体重別階級における軽い選手の属する階級であるバンタム級の由来にもなった』とあり、以下、品種の羽色の変異等が続くが、それはリンク先を見られたい。また、『神戸大学経済経営研究所「新聞記事文庫」』の「畜産業(4-087)」の『中外商業新報』(昭和六(一九三一)六月十日発行)で電子化されている、「日本ちゃぼ倶楽部」総務三井高遂氏談の「日本ちゃぼの起原とその発達」が非常に勝れている。必見。
「佐志尾〔(さしを)〕」前注の三井氏の談話の中に『菖蒲尾(又は佐志尾)は立尾であり、謡羽』(うたいばね:尾の中で真ん中の長い一群の尾羽を指す語)『に添尾のあるのを八ツ尾といっている。車尾は下品とされている』とあるから、ショウブの葉或いは花(外花被片(前面に垂れ下がった花びら))に擬えたものであろう。
「南京矮鷄」個人サイト「大多喜軍鶏 田舎 暮らし 千葉県 大多喜町」の「矮鶏と小軍鶏」で画像が見られる。但し、この名では特定出来ないという記載も見かけたので、この中には、これまた、多数の品種がいるらしい。前注の三井氏の談話の中には『「南京」は小さいという意味』とある。確かに江戸以前は小さくて可愛いものであったり、珍しいものに「南京」という名称をつけていた。
『同じく「白矮鷄」』「同じく」は後に掲げた「地南京」の名前からも、「南京矮雞」と同系の品種であることを指す。
「加比丹矮雞〔(かびたんちやぼ)〕」やはり前注の三井氏の談話の中に、『「加比丹」が舶載して来』た『という意味からであろう』とある。
「和雞(しやうこく)」前章「雞」に出た「小國」の当て訓。
「而〔れども〕脚〔は〕、甚だ矮(ひく)からず」文脈上から少し私が補填して訓読した。全体が有意に小さい割には、それほど短くない、と謂うのである。
「半矮(〔はん〕ちや)」ルビに疑義があるが、一応、かく読んでおいた。]