譚海 卷之三 同御所作同御近侍
同御所作同御近侍
○今上の御近侍はすべて女房を召仕るゝ、皆何某佐(なにがしのすけ)と稱す。月水(うわつすい)の時御番を缺(かく)事多ければ、老女をまじへ仕るゝ也。此佐達兩手ことごとく胼胝(たこ)ならぬ人なし、御衣(おんぞ)を奉らんとして手を洗(あらひ)てつかふまつり、終りて又手をあらふ。一事に兩度づつ手をあらふ事にて、尤(もつとも)水を用(もちふ)る事なれば、更衣配膳盥漱(くわんそう)しげき故(ゆゑ)然りといへり、又禁中伺公の公家衆、寒中といへども素足也。六拾以上の老人ならでは足袋を許るゝ事なし。因て公家衆みな足の表裏、あかぎれなきはなしとぞ。
[やぶちゃん注:禁裏の仕来たり三連投であるが、実はこの巻之三は全体が皇室・公家方及び京都の事物と慣習風俗に特化した特殊な一巻なのである。標題「同御所作同御近侍」は「同じく御所作、同じく御近侍」の謂い。
「月水」「げつすい」とも読む。月経。生理。
「盥漱」(現代仮名遣「かんそう」)手を洗い、口を漱(すす)ぐこと。身を清めること。
「伺公」「伺候」に同じい。]