和漢三才圖會第四十二 原禽類 鶡雞(かつけい) (ミミキジ)
かつけい
鶡雞【音曷】
アツキイ
本綱鶡雞狀類雉而大黃黑色首有毛肉如冠性愛其黨
有被侵者直徃趣鬪雖死猶不置故武人以爲冠象此也
性復粗暴毎有所攫應手摧碎【凡物黃黑色者曰褐】此鳥褐色故名
鶡 一種青黑色者名曰䲸性耿介也
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かつけい
鶡雞【音、「曷」。】
アツキイ
「本綱」、鶡雞、狀、雉に類して大に〔して〕、黃黑色。首に毛〔の〕肉有りて、冠のごとく、性、其の黨〔(たう)〕を愛す。侵さるゝ者有れば、直〔(ただち)〕に徃〔(ゆ)〕き趣きて鬪ふ。死すと雖も、猶を[やぶちゃん注:ママ。]置かず。故に、武人、以つて冠〔(くわん)〕と爲(す)ること、此れを象〔(かたど)〕るなり。性、復〔(ま)〕た、粗暴なり。毎〔(つね)〕に攫(つか)む所有れば、手に應じて、摧-碎(くだ)くる【凡そ、物、黃黑色の者、「褐」と曰ふ。】。此の鳥、褐(きぐろ)色なる故、「鶡」と名づく。
一種、青黑色の者、名づけて「䲸〔(かい)〕」と曰ふ。性、耿介〔(こうかい)〕なり。
[やぶちゃん注:キジ目キジ科ミミキジ(耳雉)属ミミキジ Crossoptilon mantchuricum。中国の河北省及び陝西省の高地性の固有種(同種の中文ウィキを見ると、北京周辺の山地も生息域とする。北京は河北省の内にあるが、直轄市で省と同格)。全長九十六センチメートル~一メートル。翼長は♂で二十七~三十一・二センチメートル、♀で二十六・五~二十九センチメートル。体重は♂で一・六~二・五キログラム、♀で一・五~二キログラム。尾羽の枚数は二十二枚。頬から後方へ羽毛が伸長し、全身は褐色の羽毛で被われている。頭頂・頸部は黒や濃褐色、腹部は淡褐色の羽毛で被われている。腰・尾羽基部の上面(上尾筒)は白い羽毛で被われ、尾羽の色は白く、先端は紫みを帯びた褐色を呈する。顔には羽毛がなく、赤い皮膚が露出し、嘴の色は赤みを帯びた黄色。後肢は赤い。標高千三百~三千五百メートルにある森林・岩場・草原などに棲息し、雑食で植物の根・果実・種子・昆虫・ミミズなどを捕食する(以上は主にウィキの「ミミキジ」に拠った)。なお、中文サイトの「鳥與史料」の「鶡雞」も非常に参考になる。必見。良安は附言をしていないので、短い「本草綱目」の記載(但し、上記は総てではなく、抜粋の、順列の組み替えが行われてある)の形態・生態及び色彩の叙述から、本邦には産しない鳥と判断したのであろう。
「其の黨〔(たう)〕」同種の仲間たち。
「侵さるゝ者」他の鳥獣(前で「其の黨を愛す」(広義の同種総ての意で採る)と言っている以上、そう理解する)で、彼らの一部の縄張りを犯して侵入或いは攻撃してくるもの。
「徃き趣きて」「往き赴きて」に同じい。
「死すと雖も、猶を置かず」相手が退かぬ限りは、死に至るまで闘いを止めない。
「武人、以つて冠〔(くわん)〕と爲(す)ること、此れを象〔(かたど)〕るなり」東洋文庫版現代語訳では、『それで武人はこの鳥の羽毛を冠の飾りとして勇猛の象徴としているのである』とある。
「攫(つか)む所有れば、手に應じて、摧-碎(くだ)くる」後肢に触れて摑(つか)むことの出来る対象物が存在すれば、必ず、それを即座に強く摑み獲ると、完膚なきまでに粉砕してしまう。
「䲸〔(かい)〕」不詳。ミミキジの近縁種か。「説文」には「出羌中」とあるから、中国西北部の羌(きょう)族(西羌。現在のチャン族)の住んでいる地域に棲息しているらしいから、やはり高地性である。
「耿介〔(こうかい)〕」堅く志や節を守ること。別に「徳が光り輝いて偉大なさま」の意もあるが、ここは前者。]
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