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2018/09/20

大和本草卷之十三 魚之上 泥鰌(ドヂヤウ) (ドジョウ)

 

泥鰌 海鰌ハクジラ也極テ大ナリ泥鰌ハ極テ小也ナレ

 𪜈形ハ相似タリ性温補脾胃ヲ助ク但峻補乄塞氣

 然煮之有㳒○一種京シマドヂヤウ一名鷹ノ羽

 トチヤウト云アリ又ホトケトチヤウ共云筑紫ニテカタビ

 ラトチヤウト云泥中ニハヲラス沙溝淸水ニ生ス本草

 時珍曰生沙中者微有文采ト是也ドヂヤウノ白色

 ニテ有文采者也○泥鰌ノ羹先米泔ニテ能煮ア

 フラ浮ヒタルヲスクヒテスリミソヲ入一沸スレハ氣ヲ不塞乄

 ツカエス煮鰌法也

○やぶちゃんの書き下し文

泥鰌(ドヂヤウ) 海鰌は「クジラ」なり。極めて大なり。泥鰌は極めて小なり。なれども、形は相ひ似たり。性、温補して、脾胃を助く。但し、峻補〔(しゆんほ)〕して、氣を塞ぐ。然〔れども〕之れを煮〔るに〕、㳒〔(はふ)〕、有り。

○一種、京、「シマドヂヤウ」、一名「鷹ノ羽ドヂヤウ」と云ふあり。又、「ホトケドヂヤウ」とも云ふ。筑紫にて「カタビラドヂヤウ」と云ふ。泥中にはをらず。沙・溝・淸水に生ず。「本草」、時珍曰はく、『沙中に生ずる者、微かに文采〔(もんさい)〕有り。』と。是〔(これ)〕なり。「ドヂヤウ」の白色にて文采有る者なり。

○泥鰌の羹〔(あつもの)は〕、先〔(まづ)〕、米〔の〕泔〔(ゆする)〕にて、能く煮、あぶら浮びたるをすくひて、「すりみそ」を入れ、一沸〔(ひとわかし)〕すれば、氣を塞がずして、つかえず。鰌を煮る法なり。

[やぶちゃん注:脊索動物門脊椎動物亜門条鰭綱骨鰾上目コイ目ドジョウ科ドジョウ属ドジョウ Misgurnus anguillicaudatus が本邦産の代表的一般種。属名「ミスグルヌス」はヨーロッパドジョウ(Misgurnus fossilis:英名European weatherfish or European weather loach)を指す古い英語名に基づき、種小名「アンギリカンダトウス」は「ウナギの尾のような」の意。但し、市販されているもの及び料理屋で供されるそれらは多くがドジョウ属カラドジョウ(唐泥鰌)Misgurnus dabryanus であることが多くなったという(ぼうずコンニャク氏の「市場魚貝類図鑑」のカラドジョウのページによるが、泥鰌好きの私も強くそう感ずる)。同種はアムール川からベトナムまでの中国大陸東部・朝鮮半島・台湾が原産地であるが(ここはWEB図鑑「カラドジョウに拠る)、ぼうずコンニャク氏によれば、カラドジョウは『日本では関東地方、東海地方、近畿地方、愛媛県などで確認されている。日本では国外外来種で、要注意外来生物。群馬県、栃木県、埼玉県、神奈川県、長野県、愛知県、岐阜県、滋賀県、山口県、香川県、愛媛県などで定着』してしまっているとあり、WEB魚図鑑「カラドジョウ」には、『本種は食用として輸入されたドジョウに混ざって逃げ出した、あるいは遺棄され日本に定着したものとされている』。『しかし、日本列島ではふたつの異なる遺伝的集団があることが報告されており、そのうちの一つは中国のものと同じ集団とされる(移植され』て『定着したものと思われる)が、もう一つの集団は他の地域で見られない集団であると』され、『現在』、『研究が進められているところである』とある。なお、私も若い頃はよくやったが、恐るべき有棘顎口虫の中間宿主となることがあるから、「踊り食い」などの生食はやめたがいい。

「ドヂヤウ」ウィキの「ドジョウによれば、『多くのドジョウ料理店などでは「どぜう」と書かれていることもあるが、字音仮名遣に従った表記では「どぢやう」が正しいとされている。大槻文彦によれば、江戸後期の国学者高田与清の松屋日記に「泥鰌、泥津魚の義なるべし」とあるから「どぢょう」としたという。「どぜう」の表記は越後屋初代・渡辺助七が「どぢやう」は』四『文字で縁起が悪いとして縁起を担ぎ』、三『文字の「どぜう」を用いたのが始まりといわれる』とあり、私の行きつけの「駒形どぜう」の主人もそう言っていた。

『海鰌は「クジラ」なり』例えば、かの曲亭(滝沢)馬琴の描いた鯨図譜の題名は「海鰌圖說」(かいしゅうずせつ:現代仮名遣)である。早稲田大学図書館古典総合データベースのこちらで全図見られる。但し、現在、本邦には「海泥鰌」「海鰌」「うみどじょう」の名を標準和名に持つ。骨魚綱条鰭亜綱側棘鰭上目アシロ目アシロ亜目アシロ科ヨロイイタチウオ属ウミドジョウ Loach brotula がいるので注意されたい。ぼうずコンニャク氏の「市場魚貝類図鑑」のウミドジョウのページをリンクさせておく。それによれば、無論、海水魚で水深三十~二百メートルのやや深い砂泥地に棲息し、分布は千葉県外房から九州南岸の太平洋沿岸、新潟県から九州西岸の日本海・東シナ海、及び東シナ海大陸棚斜面から上部で朝鮮半島東岸・済州島・山東省から海南島の中国沿岸、オーストラリア北岸・東岸・西岸とあり、『食用として認知されていない』とある。ちょっと漫画っぽい風体である。

「クジラ」脊索動物門脊椎動物亜門顎口上綱哺乳綱獣亜綱真獣下綱ローラシア獣上目 Laurasiatheria 鯨偶蹄目 Cetartiodactyla 鯨凹歯類 Cetancodonta、或いはその下位の鯨反芻亜目クジラ目Cetacea に属するクジラ類。

「形は相ひ似たり」おいおい! 似てませんって! 益軒先生! と叫ぼうと思ったら、後に示すように「本草綱目」の受け売りだったのね、先生。

「峻補して、氣を塞ぐ」狭義には、漢方医学に於いて補益力の強い薬物を用いて、気血の激しい虚なる状態や陰陽の気が孰れかに暴走している事態を急激に変化させる療法を指すが、ここはそうした薬効作用が甚だ強いため、精神面での副作用を起こし、気鬱になるという意味であろう。

「然〔れども〕之れを煮〔るに〕、㳒〔(はふ)〕、有り」「㳒」は「法」の異体字。後述されている。

「シマドヂヤウ」「鷹ノ羽ドヂヤウ」日本固有種である、ドジョウ科シマドジョウ(縞泥鰌)属シマドジョウ Cobitis biwae であるが、近年同種からCobitis sp. として「オオシマドジョウ」・「ニシシマドジョウ」・「ヒガシシマドジョウ」「トサシマドジョウ」(どれの異名かは不詳であるが、「スジシマドジョウ」の名もあるようである)の四亜種が分離されているらしく(ぼうずコンニャク氏の「市場魚貝類図鑑」のニシシマドジョウのページに拠る)、それらも当然、「タカノハドジョウ」の異名を引き摺って保有していると考えねばならぬし、ほかにもヤマトシマドジョウ Cobitis matsubarae もおり、それも含めた方が無難である(後で示すサイト川のさかな情報館シマドジョウ属も参照のこと)。また、ウィキの「シマドジョウ」によれば、他にも「カワドジョウ」「ササドジョウ」「スナサビ」「スナメ」などの異名や地方名が多いとあり、『山口県西部・四国南西部を除く』、『ほぼ日本各地の淡水域に生息している。河川の中流域の砂礫底に多く見られる』とある。

「ホトケドヂヤウ」記載ではシマドジョウの異名のようにしか見えないが、現行ではシマドジョウとは科レベルで異なる全くの別種である。コイ目タニノボリ科フクドジョウ(福泥鰌)亜科ホトケドジョウ(仏泥鰌)属ホトケドジョウ Lefua echigonia。日本固有種。シマドジョウのような有意な縦縞はなく、体色も全体に茶褐色から赤褐色を呈して(黒点散在)いて、全く似ていない。分布域は青森県を除く、東北地方から三重県・京都府・兵庫県。但し、フクドジョウ属フクドジョウ Noemacheilus barbatulus の方は、縦縞があり、ややシマドジョウに似てはいる。しかし、フクドジョウは国内での自然分布域は北海道のみで、近代以降に福島県・山形県米沢市に移入、他にはシベリアから中国東北部・朝鮮半島・サハリンに分布する北方種であり、益軒の頃の認識世界の外にいた種であるから、考える必要はない。

「カタビラドヂヤウ」「帷子泥鰌で、先の仏泥鰌の異名だろう」と思っていたが、ちゃんと調べようと思って検索してみて、驚いた! これは何と! この「大和本草」のこの部分の記載(!)によって、九州の有明海へ流入河川に固有の種として、アリアケスジシマドジョウ Cobitis kaibarai という学名(種小名に注目!)が与えられているものの、福岡県での他種とのヤマトシマドジョウ Cobitis matsubarae  などとの混称異名である。この事実を発見したのは、サイト川のさかな情報館シマドジョウ属で、そこには、『筑紫(現在の福岡県)で初めてシマドジョウ類(カタビラトチヤウ)を記録した本草学者「貝原益軒」にちなむ』とあるのである!

「泥中にはをらず。沙・溝・淸水に生ず」シマドジョウ類は『河川の中流域の砂礫底に多く見られ』(ウィキの「シマドジョウ」)、ホトケドジョウも『水温が低く流れの緩やかな河川や湿地、水田等に生息する。あまり底層には潜らず、単独で中層の水草の間を泳ぎ回ることが多い』(ウィキの「ホトケドジョウ」)とあるから、棲息域は孰れでも齟齬はない。

『「本草」、時珍曰はく、『沙中に生ずる者、微かに文采〔(もんさい)〕有り。』と』「本草綱目」巻四十四の「鱗之三」の「鰌魚(しゅうぎょ)」(下線太字はやぶちゃん)。

   *

鰌魚【音酋。「綱目」。】

釋名泥鰍【俗名。】。【「爾雅」。】。時珍曰、按、陸佃云、鰌、性酋健、好動善優、故名。小者名鰌魚。孫炎云、者尋習其泥也。

集解時珍曰、海鰌生海中、極大。江鰌生江中、長七八寸。泥鰌生湖池、最小長三四寸、沈於泥中。狀微似鱓而小、銳首肉身、靑黑色、無鱗。以涎自染、滑疾難握。與他魚牝牡、故「莊子」云、『鰌與魚游。』。生沙中者微有文采。閩廣人去瘠骨、作臛食甚美。「相感志」云、燈心煮鰌甚妙。

氣味甘、平。無毒。景曰、不可合白犬血食。一云凉。

主治暖中益氣、醒酒、解消渴【時珍。】。同米粉煮羮食調中、收痔吳球。

附方新五。消渴飮水、同泥鰌魚【十頭陰乾、去頭尾、燒炭。】乾荷葉等分。爲末。每服二錢、新汲水調下、日三。名沃焦散【「普濟方」。】。喉中物哽、用生鰍魚、線縳其頭、以尾先入喉中、牽拽出之。【「濟普方」。】。揩牙烏髭、泥鰍魚槐蕋狼把草各一兩、雄燕子一箇、酸石榴皮半兩、搗成團入瓦罐内、鹽泥固濟、先文後武、燒炭十觔取研、日用一月以來、白者皆黑普濟陽事不起、泥鰍煮食之【「集簡方」。】。牛狗羸瘦、取鰌魚一二枚、從口鼻送入、立肥也【陳藏器。】。

   *

『「ドヂヤウ」の白色にて文采有る者なり』それで通属性を言うというのは、ちょっと無理。

「泔〔(ゆする)〕」米のとぎ汁、或いは、強飯(こわめし)を蒸した後の湯を指す。かつてはこれで頭髪を洗い、また髪を梳(くしけず)る際に濡らす水として一般に用いられた。]

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