醜奴兒 書博山道中壁 辛棄疾
醜奴兒 書博山道中壁 辛棄疾
少年不識愁滋味
愛上層樓
愛上層樓
爲賦新詞强説愁
而今識盡愁滋味
欲説還休
欲説還休
却道天涼好個秋
醜奴兒(しうぬじ)
博山道中の壁に書(しよ)す 辛棄疾(しんきしつ)
少年は識らず 愁ひの滋味を
愛(この)みて層樓に上る
愛みて層樓に上り
新詞を賦するに强(しひ)て愁ひを説(い)ふ
而今(じこん) 識り盡くす 愁ひの滋味を
説(い)はむと欲して還(ま)た休(や)む
説はむと欲して還た休め
却つて道(い)ふ 天涼しくして好き秋なり と
醜奴兒
博山への道中の壁に書(しる)す 辛棄疾
少年の頃は知らなかった 本当の悲しみの味なんてもんは
好んで高いところに登ったもんさ
好きで高いところに登ったもんさ
そうして 新しい唄を詠もうと わざわざ「哀しみ」を詠じたもんさ
でも もう今は 哀しみはいやになるほど知っちまった
何か語りたいとも思うけど 止める
訴えたいと思うけど いや 止める
そうして 寧ろ 言おう 「天は涼やかで、なんと、いい秋なんだろう」って……
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・辛棄疾(一一四〇年~一二〇七年)は金・南宋の政治家で詩人。

