反古のうらがき 卷之二 頓首
○頓首(ぬかづき)[やぶちゃん注:底本のルビ。]
ぬかをつくことの極(きはめ)て長き人と、極て早き人と出合ひて、先づ、互にぬかをつく、早き人、先づ、もたげて見てあれば、ながき人は未だつきもはてず、まして、もたぐるはいつの頃といふさへしられねば、再びつきなをし、又、擡(もたげ)て見れども、なを、いつ、つきはつべきともおぼへねば、ただ見てあり。やがて、はつる頃、又、一度(ひとたび)、ぬかづきて、互ひに一度に擡てければ、永き人はあざむかれぬれども、早き人もこうじ果たるが、おかしかりき【醉雪老人、話。】。
[やぶちゃん注:「醉雪老人」「魂東天に歸る」その他で複数回既出既注。桃野の母方の叔父。先手与力で火付盗賊改方も勤めた。]