甲子夜話卷之五 16 評定所食膳の事
5-16 評定所食膳の事
評定所にて奉行に出る食膳、平椀も味噌汁をいるゝと云。珍しき爲方なり。蓋古の遺るか。
[やぶちゃん注:「平椀」(ひらわん)は懐石食器の「四つ椀」の一つで、浅めの大振りな塗椀で、胴に帯状の「かつら」と称される加飾挽きが施されたもの。普通、これには煮物などが盛られる。形状は、参照した茶道サイトのこちらの画像を見られたいが、そこに江戸中期の旗本で伊勢流有職故実研究家でもあった伊勢貞丈(享保二(一七一八)年~天明四(一七八四)年)の故実書「四季草」から、「椀に平皿、壷皿、腰高といふ物あり。式正の膳には、さいも皆かはらけにもるなり。煮汁の多くある物は、かはらけにてはこぼる』ゝ『ゆゑ、杉の木のわげ物に盛なり。そのわげ物の平きをかたどりて、平皿を作り、其わげ物のつぼふかきをかたどりて、つぼ皿を作りたるなり。そのわげ物にかつらとて、白き木を糸の如く細く削りて、輪にしてわげ物の外にはめるなり。平皿、壷皿の外に、細く高き筋あるは、かのかつらを入たる体をうつしたるなり。腰高の形は、かはらけの下に、檜の木の輪を台にしたる形をうつして作れるなり。かはらけには必輪を台にして置く物なり。是を高杯と云ふなり」と引かれてある。これが静山の言う古式の名残のヒントになるかも知れぬ。
「爲方」「しかた」。
「蓋古の遺るか」「けだし、いにしへの」習慣の「のこれる」もの「か」。]
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