反古のうらがき 卷之二 儉約法
○儉約法
或人、遊女にふけりて、多く、金銀、失ひしとて、俄に身をつゝめ、金銀を貯へしが、婦妻といぬるにも、ことあるごとに、錢百文づゝ竹筒に入(いれ)て置(おき)けり。二月(ふたつき)、三月して傾(かたぶ)け出(いだ)して見しに、思ひの外、多く積りて、外(ほか)の儉約より遙(はるか)に多く延びけり。それがおもしろさに、いよいよ筒に入て、積るを喜びしとぞ、夜のこといかにかはげみけん、おかしや【隣人、話。】。
[やぶちゃん注:隣人の話とは言うものの、色めい言辞をコーダとするのは、本書では非常な特異点である。
「つつめ」は「気がねする・憚る・遠慮する・慎む」の「愼(つつ)む」であろうが、これは他動詞マ行四段活用であるから、せめても「つゝみ」とあるべきところである。
「婦妻といぬるにも」妻と外出する際にも(ということは単独で外出する際は勿論のことという、添加の係助詞「も」である)。出費が嵩むのはまず、外出した出先でのそれに従うから、かく、したものであろう。]