反古のうらがき 卷之三 ふちがしら
反古のうらがき 卷之三
○ふちがしら
刀脇差の小道具は、物好(ものずき)多く、いろいろの美を盡(つく)す中に、古(ふ)るき品々取合せて作りたるは、殊に見所多き物也。されば、「大小の刀、同じ品揃ひたるは、物好(ものこの)まぬ人のする態(わざ)」とて、ことさらに別樣の物を用ゆる人、多し。かゝれば品がら、時代或は模樣よく出合(いであひ)たるは、あたへも貴(たか)く賣買することとなりぬ。此頃の人の尤(もつとも)物好する人は、いかなるよき品とても、揃ひたる物は深く惡(にく)みて買取らず、かたくなに似合(にあひ)の品ども取集めて、「よく出合たり」と誇りあへりけり。あき人、これを惡めども、せん方なく、是迄の揃ひたる品は、自然(おのづと)、あたへ、いやしく賣(うり)けり。其中に、わるがしこき者ありて、一揃ひの品を、先(まづ)、片方を持行(もちゆき)てうりけり。扨、これが取合せを求る樣(さま)を見て、後に又、片方を出(いだ)して賣(うり)ければ、「よく出合たり」とて、よろこびて買(かひ)とり、あたへも甚(はなはだ)たかく賣たるとなり。かく、あき人は、かしこく人を欺くなるに、「我は欺かれまじ」とて、あき人のごとく品物取扱ひ、多く見覺へ・聞覺へなどする人ぞ、あさまし。さまでに物好みの心はやみ難きものなるにや。あたへたかくよき念入(ねんいり)の品々は、誰(たれ)にもしり易きものぞ。かゝるゑせ[やぶちゃん注:ママ。]ごとして『貴き品にもまさらん』とする心の賤しきより、あざむかるることも多く出來(いでく)ることぞかし。
[やぶちゃん注:標題「ふちがしら」は「緣頭」で、刀の柄の頭の部分及びそこに付ける金具類を指す「柄頭(つかがしら)」に同じい。
「あたへ」ここは「價」であるから、「あたひ」が正しいが、「あたひ」が転じて「あたえ」「あたい」となった経緯から、すでにこの時代には誤記とは言い難い。
「ゑせごと」「似非事・似而非事」。鑑定家の(レベルの低い・間違いだらけの・杜撰な)真似事。歴史的仮名遣は「えせごと」でよい。]
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