萩原朔太郎詩集「月に吠える」正規表現版 卵
卵
いと高き梢にありて、
ちいさなる卵ら光り、
あふげば小鳥の巢は光り、
いまはや罪びとの祈るときなる。
[やぶちゃん注:この詩篇は右(二十四ページ)にあり、その左に、田中恭吉「冬の夕」「夕は「ゆふべ」と読むか)が配されてある。大正三(一九一四)年の作。紙にインク・鉛筆。取り込み時に黄変したので、補正を加えてあるが、原版よりも見易い感じには仕上がっている。詩篇の初出は『地上巡禮』大正四(一九一五)年一月号。「ちひさなる」が「ちいさなる」、「あふげば」が「あほげば」、「罪びと」が「つみびと」で、最終行末は句点ではなく、読点となっている以外には変更はない。但し、これにも詩の最後で改行して下方に『――淨罪詩扁――』(「扁」は「篇」の誤植であろう)と記すのは注目する必要があろう。なお、本詩篇を以って「竹とその哀傷」パートは終わっている。
なお、筑摩版「萩原朔太郞全集」第一巻の『草稿詩篇「月に吠える」』には、本篇の草稿として『卵(本篇原稿五種四枚)』としつつ、一篇の無題がチョイスされて載る。以下に示す。表記は総てママである。
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○
よるのやみのなかのくひくやみ
たましひのそこよりいづるわれのいのりを
あきらかに樹ぬれいとたかき木ずゑにありて
雀のちいさなる卵は光り
よるのやみのひとのいのりを
いまはたかきはやつみびとのいのるときなる、
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編者注があり、『別稿の題名に「光る卵 罪人」とある。また「罪びと」と題し、末尾に「十二・二十七」と附記した別稿がある。』とある。
さらに、同全集の『習作集第九卷(愛憐詩集ノート)』に、「つみびと」と題した本篇と酷似する以下がある。
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つみびと
いと高き木ずゑにありて、
ちいさなる卵等光り、
あほげば小鳥の巢は光り、
いまはや罪びとの祈るときなる、
*]
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