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2018/10/31

萩原朔太郎詩集「月に吠える」正規表現版 ありあけ

 

  ありあけ 

 

ながい疾患のいたみから、

その顏はくもの巢だらけとなり、

腰からしたは影のやうに消えてしまひ、

腰からうへには籔が生え、

手が腐れ、

身體(しんたい)いちめんがじつにめちやくちやなり、

ああ、けふも月が出で、

有明の月が空に出で、

そのぼんぼりのやうなうすらあかりで、

畸形の白犬が吠えてゐる。

しののめちかく、

さみしい道路の方で吠える犬だよ。 

 

[やぶちゃん注:これもしい月夜」に続いて、本詩集名の由来する一篇。或いは、こちらの詩集の方が具体なヴィジュアル性の高さから、「月に吠える」のイメージとしては相応しいように思われる。因みに、私は「月に吠える」というと、何故か、後のジョアン・ミロJoan
Miro
)の一九二六年の作品「Dog Barking at the Moon」を思い出すのを常としている((英文サイト))。私は凄愴たる絵より、朔太郎が生きていたら(彼は昭和一七(一九四二)年五月十一日に急性肺炎で亡くなっている)、きっと気に入ったに違いないとさえ思っている作品である。初出は『ARS』(創刊号)大正四(一九一五)年四月号。初出形を以下に示す。

   *

  ありあけ

ながい疾患のいたみから、

その顏は蜘蛛の巢だらけとなり、

腰から下は影のやうに消えてしまひ、

腰から上には竹が生え、

手が腐れ、

しんたいいちめんがぢつにめちやくちやなり。

ああ、けふも月が出で、

有明の月が空に出で、

そのぼんぼりのやうなうすあかりで、

畸形の白犬が吠えて居る。

しののめちかく、

さむしい道路の方で吠える犬だよ。 

 

   *

「ぢつに」はママ。個人的には断然! 「籔」より「竹」だ!

 なお、筑摩版「萩原朔太郞全集」第一巻の『草稿詩篇「月に吠える」』には、本篇の草稿として『ありあけ(本篇原稿五種五枚)』とし、二篇(前者は標題「黎明の散步」で、後者は無題)が載る。以下に示す。表記は総てママである。

   *

 

  有明の 步行

  黎明の散步

ありやけ月のうす白み

月かげのさびしきことは限りなし

み空をながれああわれの病おもたく

あらゆるところに疾みを登し

我のこの→人の→その右の手は白み

鼻白み

電線くもの巢のごとくからみ顏にはくもの巢がかゝり

腰から下のごときはもつともじつにめちやくちやなり

ああこの地面に鋭どき柱をたて

ましろき象牙をたて

常夜の闇を步かしめ

霜の夜天に尖れるものを

人肉の上にも光らしめ、

みよ、いたるところに遊行し

ありやけの人間は人體は血みどろなり

 

 

  

 

病氣のその靑い顏は蜘珠だらけになり

腰から下のごときもつともはやはらかくなりて消えてしまひ

腰から上には竹が生え

長い疾患のいたみから

あたまは光る金屬になり

しんたいいちめんじつにめちやくちやなり

ああけふも月が出て

有明の月が空にさむざむいでさむざむ→しろじろと淚ながるゝ

いたるところに遊行し淚

さぞやさむしかろうとおもへど

そのさむしさに淚ながしつゝあれど

畸形なる病氣病犬とつれだちてあゆむなり

有明の月はしろじろと墓場の上に

 

 

 

そのぼんぼりのやうなうすあかりで

しみじみと

畸形な白犬が吠え居るのをきき、

 

   *

以上の後者の「有明の月はしろじろと墓場の上に」と「そのぼんぼりのやうなうすあかりで」の間については、編者注に『空白がある』という記載があるため、敢えて三行空けた。或いは前のパートの終りの部分の、別詩想に基づく並置残存でもあるのかも知れない。他に、『「有明の月と犬有明の月と白い犬」と題をつけた別稿がある。また、末尾に「三月十六日」と制作月日を示した原稿もある。』とある。]

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