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2018/11/01

萩原朔太郎詩集「月に吠える」正規表現版 肖像

 

  肖  像 

 

あいつはいつも歪んだ顏をして、

窓のそばに突つ立つてゐる、

白いさくらが咲く頃になると、

あいつはまた地面の底から、

むぐらもちのやうに這ひ出してくる、

ぢつと足音をぬすみながら、

あいつが窓にしのびこんだところで、

おれは早取寫眞にうつした。 

 

ぼんやりした光線のかげで、

白つぽけた乾板をすかして見たら、

なにかの影のやうに薄く寫つてゐた。

おれのくびから上だけが、

おいらん草のやうにふるへてゐた。 

 

[やぶちゃん注:「ぢつと」はママ。

「早取寫眞」(はやどりしやしん(はやどりしゃしん))は、スナップ・ショットのこと。瞬間を捉えて撮影した写真の意。

「おいらん草」(おいらんさう(おいらんそう))は「花魁草」で、この場合はクサキョウチクトウ(ツツジ目ハナシノブ科フロックス属クサキョウチクトウ Phlox paniculata)の異名。草夾竹桃は世界的に知られる観賞用植物で花は通常、六、七月咲きで、直径二センチメートルほどの合弁花が数十輪、比較的密な円錐花序を作って開花し、花序は上手く手入れをすれば、十数センチメートルから二十センチメートル以上にもなる(ここはウィキの「クサキョウチクトウを参照した)。花色には青紫、藤色、紅、白などがあり、筒の部分が白く抜けるものもある。なお、「花魁草」は別にゴゼンタチバナ(バラ亜綱ミズキ目ミズキ科ミズキ属ゴゼンタチバナ亜属ゴゼンタチバナ Cornus canadense)の異名でもあるが、草体も花も小さく、このブレた自分の頭部の画像の比喩には向かない。

 初出は『詩歌』大正四(一九一五)年六月号。以下に初出形を示す。

   * 

 

  肖像

 

あいつはいつも歪んだ顏をして、

窓のそばに突つ立つてゐる。

白いさくらが咲く頃になると、

あいつはまた地面の底から、

むぐらもちのやうに這へ出してくる。

ぢつと足音をかぞへながら、

あいつが顏を出したところを、

おれは早取寫眞にうつした。 

 

ぼんやりとした光線のかげで、

白ぽけた乾板をすかして見たら、

なにかの影のやうに寫つてゐた。

おれのくびから上だけが、

おいらん草のやうにふるへてゐた。 

 

   *

「這へ出して」はママ。

 なお、筑摩版「萩原朔太郞全集」第一巻の『草稿詩篇「月に吠える」』には、本篇の草稿として『肖像(本篇原稿五種五枚)』として三篇(標題は最初は「鼠」、次は「鼠殺し。」、最後は無題)がチョイスして載る。表記は総てママである。

   * 

 

  

 

鼠があるいてる

くろい[やぶちゃん注:前後よりも事前削除。]

そこにも

こゝにも

 

   *

ここに編者注があり、この断片は以下の「鼠取り殺し。」と『同一の原稿用紙の右上半分に書かれており、その發想のもとになったものと思われる。』とある。

   *

 

  取り殺し。

 

の男いつは鼠とりの名人だをとる人だ

あいつは毒藥黑い瓶をもつて居る

あいつのほそい手にかゝつては

どんな鼠でも殺される

あいつはいつでも白い歪んだ顏をして

部屋のまん中窓のそばにつつ立つて居る

あいつはまたむぐらもちやうに

地面の下からでも★を//からでも★あるいて居るくる[やぶちゃん注:「★」「//」の記号は私が附した。二候補が並置残存していることを示す。]

ぢつと足音をきゝながら

あいつが鼠を殺してるところを

おれは早取寫眞にうつした

そしてだが白ぼけた乾板には

馬鹿 氣のぬけた顏をした顏ばかりうつつた

ぢつとすかして見たとき

ひつそり藥をかつてみた

ゆうれいのやうに

氣のぬけたやうな

Aぼんやりしたおれの→男のおれの顏ばかり

Aかげのやうに浮んだうつつて居た。

B氣のぬけたおれの男の顏が

Bおれわたし自身のかげ顏が

Bゆうれいのやうにうつつて居た、

Cぼんやりした顏が光線で

Cわたしの顏ばかりだけが

Cかげのやうに映つて居た。

Dうすぼんやりした光線で

Dかげのようにうつつて居た

Dわたしのおれのまつしろい顏が

Dおれのくびから上だけが

Dうす氣味わるく

Dさむそうにほゝえんで居た。→笑つて居た、ふるへて居た。

[やぶちゃん注:以上の「A」~「D」と「/」は私が附した。「A」「B」「C」「D」の四つのフレーズ(連)群が並置残存していることを示す。]

 

 

  

 

白い櫻が咲くころになると

あいつはいつも歪んだ顏をした

おれの窓のところそばにつつ立つてゐる

白いさくら……

あいつはまた地面の下から

むぐらもちのやうに步いてくるはひ出してくる

ぢつと足音をきゝながら

あいつがうしろをむいた 草から顏を出したところを

おれは早取寫眞――

だが白ぼけた乾板には

うすぼんやりした光線の作用で

なにかのかげのやうにうつつて居た

おれのくびから上だけが

おいらん草のやうにふるへてゐた、

 

   *

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