萩原朔太郎詩集「月に吠える」正規表現版 およぐひと
およぐひと
およぐひとのからだはななめにのびる、
二本の手はながくそろへてひきのばされる、
およぐひとの心臟(こころ)はくらげのやうにすきとほる、
およぐひとの瞳(め)はつりがねのひびきをききつつ、
およぐひとのたましひは水(みづ)のうへの月(つき)をみる。
[やぶちゃん注:初出は山村暮鳥個人誌『LE・PRISME』(第二号)大正五(一九一六)年五月号(誌名については、先行する「椅子」の私の注を参照されたい)。初出形は以下。
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およぐひと(泳ぎの感覺の象徴)
およぐひとのからだはななめにのびる、
二本の手はながくそろへてひきのばされる、
およぐひとの胴體はくらげのやうに透きとほる、
およぐひとのこころはつりがねのひびきをききつつ
およぐひとのたましひは月をみる。
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四行目末尾の読点なしはママ。
なお、筑摩版「萩原朔太郞全集」第一巻の『草稿詩篇「月に吠える」』末尾には、本篇の草稿として『およぐひと(本篇原稿二種二枚)』と記すものの、一篇も活字化していない。ただ、『或る稿の末尾に「プリズム.I.」と附記されている』と注記がある。]
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