萩原朔太郎詩集「月に吠える」正規表現版 すえたる菊
すえたる菊
その菊は醋え、
その菊はいたみしたたる、
あはれあれ霜つきはじめ、
わがぷらちなの手ほしなへ、
するどく指をとがらして、
菊をつまむとねがふより、
その菊ばつむことなかれとて、
かがやく天の一方に、
菊は病み、
饐(す)えたる菊はいたみたる。
[やぶちゃん注:初出は『詩歌』大正四(一九一五)年一月号。「いたみしたたる」が「傷みしたゝる」(「傷」にはルビはない)、「ぷらちな」に傍点「ヽ」、「つまむ」が「摘まむ」、「つむ」が「摘む」、「かがやく」が「かゞやく」、最終行が「なやめる菊は傷(いた)みたる」となっている他、一篇目の「竹」と同じく、詩の最後で改行して下方に『――淨罪詩篇――』と記すのは注目する必要があろう。これによって、前の二篇目の「竹」に接いだような無題の奇妙な詩篇が、前(「竹」第一篇を含む)と後ろから響き合うように配置されているのだとも言えよう。
なお、筑摩版「萩原朔太郞全集」第一巻の『草稿詩篇「月に吠える」』には、本篇の草稿として『すえたる菊(本篇原稿五種五枚)』としつつ、ただ一篇(標題はただの「菊」)がチョイスされて載る。以下に示す。「1」から「10」に至るアラビア数字は総て朔太郎が附したもの。表記は総てママである。
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菊
1 その菊はすゑ→酸醋え
2 その菊はいたみしたゝる
3 あはれあれ霜月はじめ
4 わがぷらちなの手はしなえ、
するどく指を とがらして きづゝけて
おゆびの針を光らしむ→するどく針を光らしむ
5 するどく指をきづゝけてとがらして
とがれる針を光らし む め
6 菊をつまんと願ふよりする勿れ
7 菊をばつむこと勿れとて
8 かゞやく天の一方に
9 その菊はすゑ、
10そのなやめる菊はいたみしたゝるたる。
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抹消部と数字を除去してみると、
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菊
その菊は醋え
その菊はいたみしたゝる
あはれあれ霜月はじめ
わがぷらちなの手はしなえ、
するどく指をとがらして
菊をつまんと願ふより
菊をばつむこと勿れとて
かゞやく天の一方に
その菊はすゑ、
なやめる菊はいたみたる。
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決定稿にいよよ近いことが判る。]
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