和漢三才圖會第四十二 原禽類 白頭翁(せぐろせきれい) (セキレイ)
はくとうをう
せぐろせきれい 脊黒鶺鴒
白頭翁
ペツテ◦ウフヲン
三才圖會云白頭翁形似鶺鴒其飛似燕頡頏頭上有
白毛身蒼色宋魏野有白頭翁
△按有脊黑鶺鴒者頭腹白而背黑有原野池沼乃水禽
鶺鴒屬也疑所謂白頭翁是乎
*
はくとうをう
せぐろせきれい 脊黒鶺鴒(セグロセキレイ)
白頭翁
ペツテ◦ウフヲン
「三才圖會」に云はく、『白頭翁は、形、鶺鴒に似て、其の飛ぶこと、燕の頡頏(とびあがりとびさがる)に似る。頭の上、白毛有り。身、蒼色。宋・魏〔の〕野に、白頭翁、有り』〔と〕。
△按ずるに、脊黑鶺鴒(せぐろ〔せきれい〕)といふ有り。頭・腹、白くして、背、黑く、原野・池沼に有り。乃〔(すなは)〕ち、水禽〔の〕鶺鴒の屬のなり。疑ふらくは、所謂、白頭翁、是れか。
[やぶちゃん注:良安は珍しくちょっと困った感じで記しているが、本邦種として知られる、
スズメ目セキレイ科セキレイ属タイリクハクセキレイ亜種ハクセキレイ Motacilla alba lugens(北海道及び東日本中心)
同亜種ホオジロハクセキレイ Motacilla alba leucopsis(西日本)
セキレイ属セグロセキレイ Motacilla grandis
セキレイ属キセキレイ Motacilla cinerea(九州以北)
の四種はぱっと見では似ているから、寧ろ、ここで一緒くたにして記載しているのも無理はないと言えそうだ(そうでなくても、「本草綱目」や「三才図会」記載の鳥類は日本に棲息しないものも多いし、これから後に出るように、実在しない架空の鳥さえも含まれているのであるからして、良安の同定比定の苦労は我々の想像を絶するものがあるのである)。亡き三女のアリスが大好きだった(決して脅かさなかったが、見つけると、いつも静かに後を追った)ハクセキレイから(ウィキの「ハクセキレイ」を引く)。『世界中に広く分布するタイリクハクセキレイ(学名 Motacilla alba)の一亜種』。『英名では、タイリクハクセキレイ各亜種を総称して』White Wagtail『と呼ばれるとともに、特に』本邦のハクセキレイ『を指す際には』Japanese (Kamchatka) Pied
Wagtail』或いは『Black-backed Wagtail』『と呼ばれる』(後で出すセグロセキレイは、単に Japanese Wagtail)。『ロシア沿海地方・ハバロフスク地方の沿岸部、カムチャツカ半島、千島列島、樺太、日本列島(北海道、本州)および中国東北部に分布する留鳥または漂鳥。冬場の積雪地でも観察される』。『日本では、かつては北海道や東北地方など北部でのみ』、『繁殖が観察されていたが』、二十『世紀後半より』、『繁殖地を関東・中部などへと拡げ、現在は東日本では普通種になっている』(うちの裏山にもゴマンといる)。『また、西日本ではタイリクハクセキレイに容姿が似る』、『ホオジロハクセキレイ』『も観察される』。体長二十一センチメートルほどで、『ムクドリよりやや小さめで細身。他のタイリクハクセキレイ亜種より』も『大型になる』。『頭から肩、背にかけてが黒色または灰色、腹部は白色だが胸部が黒くなるのが特徴的である。顔は白く、黒い過眼線が入る。セグロセキレイと類似するが、本種は眼下部が白いことで判別できる』。『セグロセキレイやキセキレイと同様、尾羽を上下に振る姿が特徴的である』。『主に水辺に棲むが、水辺が近くにある場所ならば』、『畑や市街地などでもよく観察される』。『河川の下流域など比較的低地を好む傾向があり、セグロセキレイやキセキレイとは、夏場は概ね棲み分けている』。『冬場は単独で、夏場は番いで縄張り分散する。縄張り意識が強く、特に冬場は同種のほか、セグロセキレイ、キセキレイと生活圏が競合する場合があり、その際には追いかけ回して縄張り争いをする様子もよく観察される』。『食性は雑食で、一旦高いところに留まって採食に適した場所を探し、水辺や畑などに降りて歩きながら』、『水中や岩陰、土中などに潜む昆虫類やクモ、ミミズなどを主に捕えて食べる。ただし』、『本種は都市部などの乾燥した環境にも適応しており、分布域の広がった近年ではパン屑などの人間のこぼした食べ物を食べる様子も観察されている。また郊外の工場などで小型の蛾を捕食することもある。壁面に留まっている蛾をホバリングして捕まえる』。『寒冷地では年』一『回、暖地では年』二『回繁殖する。地上で羽を広げて求愛ダンスを行う。地上の窪みや人家の隙間などに、枯れ草や植物の根を使って皿状の巣を作り、日本では』五~七月に一腹四~五個の『卵を産む。抱卵期間は』十二~十五日で、『主に雌が抱卵する。雛は』十三~十六日で『巣立ちする。巣立ち後も親鳥と行動を共にし』、三、四羽『程度の集団で行動することもある』。『足を交互に出して素早く歩く。人間のそばにも比較的近く(』三メートル『程度の距離)まで寄ってくる。歩行者を振り返りながら』、『斜めに歩く。夜は近隣の森などにねぐらを取るが、市街地では建築物などに取る様子も観察される。秋になると』、『照明近くの街路樹に集団を作ることがある』。『地鳴きは「チュチン、チュチン」、飛翔時は「チチッ、チチチッ」と鳴く。巣立ち後の幼鳥は独り言或いはつぶやきともとれる長めの鳴き方をすることがある。ごく希であるが』、『成鳥が縄張宣伝で長め(』三『秒程度)の鳴き方をすることがあり、とても美しい声である』。
次に、ウィキの「セグロセキレイ」を引く。『主に水辺に棲む』。体長は二十~二十二センチメートル、翼開長約三十センチメートル、体重二十六~三十五グラムで、『ハクセキレイと同大』。『頭から肩、背にかけてが濃い黒色で、腹部が白色で胸部は黒色。ハクセキレイと見分けがつきにくい場合があるが、本種は眼から頬・肩・背にかけて黒い部分がつながるところで判別できる』(リンク先に比較画像有り)『またハクセキレイやキセキレイと同様に尾羽を上下に振る姿が特徴的である。雌雄ほぼ同色だが、雌は背中が雄に比べると灰色みがかっている。幼鳥は頭から背中まで灰色である。ただし、ハクセキレイの様々な亜種に似ている部分白化個体の観察例もあるので』、『ハクセキレイとの識別には注意を要する。本種の地鳴き、「ジュジュッ、ジュジュッ」に対し、ハクセキレイでは、「チュチュッ、チュチュッ」と聞こえるので、声による識別は可能である』。『日本(北海道、本州、四国、九州)では普通に見られる留鳥または漂鳥。積雪地でも越冬する場合が多い』。『日本の固有種として扱われることが多いが、ロシア沿海地方沿岸部、朝鮮半島、台湾、中国北部沿岸部など日本周辺地域での観察記録もあり、まれに繁殖の記録もある。韓国では西海岸地域を除く河川で留鳥(局地的)に生息しているとの報告もある』。『水辺に住むが、水辺が近くにある場所ならば』、『畑や市街地などでも観察される。好む地形はハクセキレイに近いが、比較的河川の中流域などを好む傾向がある。瀬戸内海の大きな河川の少ない地域では、海岸沿いの堤防・波消しブロック上、干潟・砂浜で見られることも多い。ハクセキレイやキセキレイとは』、『概ね』、『棲み分けている。 ただし』、『最近では主にハクセキレイの分布拡大により』、『生息地が重なるようになって』きている。『一年を通し、単独または番いで縄張り分散する。縄張り意識がとても強く、同種のほかハクセキレイ、キセキレイと生活圏が競合する場合には』、『追いかけ回して縄張り争いをする様子がよく観察される。なお、他のセキレイと競合した場合に本種が強い傾向がある』。『食性は雑食で、採食方法などもハクセキレイに似るが、本種は水辺の環境に依存しており、畑など乾いた場所での採食行動はあまり見られない。夜は近隣の森などに塒を取る』。繁殖は通常は年一回であるが、二回の場合も『ある。川岸の植物や岩の下、崖地の陰などに枯草などを用いて椀状の巣を作り』、三~七月に四~六卵を『産む。抱卵期間は』十一~十三日で、『主に雌が抱卵する。雛は』十四『日ほどで巣立つ』。『飛翔時に鳴き、地鳴きは「ジュビッ、ジュビッ」などでハクセキレイに似るが』、『濁るところで判別できる。 さえずりも同様に少々濁って聞こえる』。『本種はタイリクハクセキレイ』『の近縁種であるものの、かつては地理的に分離された日本(北海道、本州、四国、九州)の固有種であったと考えられている』『近年、ハクセキレイ』『およびホオジロハクセキレイ』『が日本へと分布を拡げる反面、本種の分布域はハクセキレイに押されるように縮小しているとの指摘がされていた。それを受けて日本野鳥の会が 』一九八〇『年に全国調査を行い、その傾向が明確に記録されている』。『一方、本種も少数ではあるが』、『朝鮮半島・台湾・中国へと渡りをするものが観察されており(それらの地域では冬鳥)、また』、『ロシア沿海地方などでは繁殖も観察されている。そのため』、『飛翔能力などが劣るとは考えられていないが、本種は水辺の環境に強く依存しており、川原で過ごす時間がハクセキレイより明らかに長い(ハクセキレイは畑などでも採食し、市街地の建築物などにも塒を取る様子がよく観察される)ことなどから、都市化が進む環境に適応できずに』、『勢力を狭めているものと考えられている』。『なお、ハクセキレイと本種は近縁種であるが、今のところ』、『概ね』、『交雑することなく』、『棲み分けていると考えられている。また、本種の生息適地においてはハクセキレイよりも本種の方が強い傾向にあるが、離島などにおいてはハクセキレイの侵入により本種が姿を消した地域があるとも指摘されている』とある。
荒俣宏「世界博物大図鑑」の第四巻「鳥類」(一九八七年平凡社刊)の「セキレイ」によれば、属名「モタキラ」(Motacilla)は造語で「小さな動くもの」を意味したが、ローマの学者がこれを「尾が動くもの」と誤って説明して以来、誤解されて wagtail(「尾振り」)などの名称が生じてしまい、それだけでなく、属名末尾の指小接尾辞に過ぎなかった「-cilla」も「尾」の意味として通用するようになってしまったという驚くべきことが記されてある。しかし本邦は或いは確信犯の罪作りで、「日本書紀」にある通り、伊耶那岐・伊耶那美が「みとのまぐあひ」の仕方を知らなかったのを、セキレイが飛んできて尾を上下するのを見て知ったという異伝を載せるのだから、驚くべきは寧ろ、身内にか。]
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