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2018/10/22

和漢三才圖會第四十二 原禽類 伏翼(かうもり) (コウモリ)

Kahahori

かうもり  蝙蝠 天鼠

かはほり  仙鼠 飛鼠

      夜燕

伏翼

      【和名加波保利

ホツ イ   今云加宇毛利】

 

本綱蝙蝠生山川谷及人家屋間形似鼠灰黑色有薄肉

翅連合四足及尾如一夏出冬蟄晝伏夜飛食蚊蚋自能

生育或云鼉虱化蝠鼠亦化蝠蝠又化蚶恐不盡然或云

燕避戊巳蝠伏庚申此理之不可曉者也

白蝙蝠 有純白如雪頭上有冠者仙經以爲服之千百

 歳令人不死者乃此方士誑言也唐陳子眞得白蝙蝠

 大如鴉者服之一夕大泄而死鳴呼書此足以破惑矣

肉【鹹微熱有毒】 去肉上毛爪腸炙入藥【古方多用然性能瀉人宜斟酌】

――――――――――――――――――――――

夜明砂

    天鼠屎 鼠法 石肝 黑砂星

    卽蝙蝠屎也采得以水洶去灰土惡氣取細

 砂晒乾妙用其炒乃蚊柄眼也【辛寒】主治小兒疳及目

 盲障醫【蝙蝠肉夜明砂共厥陰肝經血分藥】

                  慈鎭

 拾玉かうもりは夜も戸たてぬ古寺にうちそともなく飛まかふ也 

按伏翼身形色牙聲爪皆似鼠而有肉翅蓋老鼠化成

 故古寺院多有之性好山椒包椒於紙抛之則伏翼隨

 落竟捕之若所嚙手指則難放急以椒與之卽脱焉其

 爲鳥也最卑賤者故俚語云無鳥之鄕蝙蝠爲鳥王

 

 

かうもり  蝙蝠 天鼠

かはほり  仙鼠 飛鼠

      夜燕

伏翼

      【和名、「加波保利」、

ホツ イ   今、「加宇毛利」と云ふ。】

 

「本綱」、蝙蝠は山川・谷及び人家屋の間に生ず。形〔(かた)〕ち、鼠に似て灰黑色、薄き肉の翅、有り。四足及び尾を連合す。一つのごとし。夏、出で、冬、蟄す。晝は伏し、夜(よる)は飛びて蚊-蚋〔(か)〕を食ひ、自〔(おのづか)〕ら能く生育す。或いは云はく、『鼉虱、蝠〔(かうもり)〕に化して、鼠も亦、蝠に化して、蝠も又、蚶(あかゞい[やぶちゃん注:ママ。])に化す』〔とするも〕、恐らく盡〔(ことごと)〕く〔は〕然るにあらず。或いは云はく、『燕は戊巳〔(つちのとみ/キシ)〕を避け、蝠は庚申〔(かのえさる/コウシン)〕に伏す』と。此れ、理の曉〔(あきら)か〕ならざるなり。

白蝙蝠 純白にして雪のごとく、頭上に冠〔(さか)〕有る者、有り。「仙經〔(せんきやう)〕」に以爲〔(おもへ)〕らく、『之れを服〔さば〕、千百歳、人をして死せざらしむ』と。乃〔(すなは)〕ち此れ、方士の誑言〔(たぶらかしごと)〕なり。唐の陳子眞といふもの、白蝙蝠を得て、大いさ、鴉のごときなる者、之れを服して、一夕、大泄して死す。鳴呼(あゝ)、此れを書して、以つて惑ひを破るに足れり。

肉【鹹、微熱。毒有り。】 肉の上毛・爪・腸を去り、炙りて藥に入る【古方に多く用ふ。然れども、性、能く人を瀉〔せば〕、宜しく斟酌すべし。】。

――――――――――――――――――――――

夜明砂〔(やめいしや)〕

    天鼠屎 鼠法 石肝 黑砂星

卽ち、蝙蝠の屎〔(くそ)〕なり。采〔(と)〕り得て、水を以つて洶(ゆ)り、灰土・惡氣を去りて、細き砂を取り、晒し乾し、炒りて用ふ。其砂、乃〔(すなは)〕ち、蚊-柄〔(か)〕の眼なり【辛、寒。】。小兒の疳及び目盲・障-醫〔(そこひ)〕を治することを主〔(つかさど)〕る【蝙蝠の肉、「夜明砂」と共に、厥陰肝經〔(けついんかんけい)〕の血分〔(けつぶん)〕の藥なり。】。

  「拾玉」            慈鎭

 かうもりは夜も戸たてぬ古寺にうちそともなく飛びまがふ也

按ずるに、伏翼(かうもり)、身・形・色・牙・聲・爪、皆、鼠に似て、肉の翅(つば)さ、有り。蓋し、老鼠の化して成る。故に古き寺院、多く、之れ、有り。性、山椒を好む。椒を紙に包みて、之れに抛(はふ)れるときは、則ち、伏翼、隨ひて落つ〔れば〕、竟〔つゐ〕に、之れを捕ふ。若〔(も)〕し、手の指を嚙まるるとき〔は〕、則ち、放(はな)ち難し。急に椒を以つて之れに與ふれば、卽ち、脱す。其の鳥爲〔(た)〕るや、最も卑賤なる者なり。故に俚語に云ふ、「鳥無きの鄕(さと)にて、蝙蝠、鳥の王と爲す」と。

[やぶちゃん注:彼らは「禽」類ではないが、こいうところが、寧ろ、古典博物学の面白さである。まずは本邦で最も一般的に我々に馴染みのそれは、

脊索動物門脊椎動物亜門哺乳綱獣亜綱真獣下綱ローラシア獣上目翼手(コウモリ)目小翼手亜(コウモリ)亜目ヒナコウモリ上科ヒナコウモリ科 Vespertilioninae 亜科 Pipistrellini 族アブラコウモリ属 Pipistrellus 亜属アブラコウモリ Pipistrellus abramus

である。何故なら、彼らだけが日本に棲息する中では、唯一の住家性、則ち、人の家屋のみを棲み家とするコウモリだからである。私は実際には小学校を卒業して富山の高岡市伏木に移り住んで初めて、夕暮れとともに飛び交うコウモリを初めて見た。それが、彼らであった。驚くべきことに、ウィキの「コウモリ」等によれば(下線太字やぶちゃん)、全世界で一千種或いは約九百八十種ほどが報告されているが、その種数は哺乳類全体の四分の一近くを占め、哺乳綱真主齧上目グリレス大目 Glires 齧歯(ネズミ)目 Rodentia に次ぐ大きな多種グループであり、『極地やツンドラ、高山、一部の大洋上の島々を除く世界中の地域に生息している』。日本でも形勢は全く同じで、移入された哺乳類種を除く、約百種の在来哺乳類の内、約三分の一に当たる、三十五種(但し、種数は分類説により、若干、変動する)をコウモリ類が占めており、約四分の一に当たるネズミ目(齧歯類)二十四種を抑え、最多種数を擁している。『また、近年は琉球列島の島々に固有種が発見されている』とあった。以下、「特徴」の項。『コウモリ目は翼をもち、完全な飛行ができる動物である。前肢が翼として飛行に特化する形に進化しており、多くの鳥類と同様、はばたくことによって飛行するが、コウモリの翼は鳥類の翼と大きく構造が異なっている。鳥類の翼は羽毛によって包まれているが、コウモリの翼は飛膜と呼ばれる伸縮性のある膜でできている。哺乳類では、他にもムササビ(本邦産は日本固有種リス科リス亜科 Pteromyini 族ムササビ属ホオジロムササビ Petaurista leucogenys)・モモンガ(齧歯目リス科リス亜科モモンガ族モモンガ属モモンガ Pteromys momonga)・ヒヨケザル(真主齧上目真主獣類皮翼(ヒヨケザル(日避猿))目 Dermoptera:別名コウモリザル。東南アジアの熱帯地方に棲息するサルに先行する、キツネザルに似た頭部を持つサル様の動物。首から手足及び尾の先端にかけて「飛膜」を有し、百メートルほど滑空出来る)『などの飛膜を広げて滑空する種が知られているが、鳥類に匹敵するほどの完全な飛行能力を有するのはコウモリ目のみである』。『コウモリの前肢(前足)は、親指が普通の指の形で鉤爪あることをのぞけば、すべて細長く伸びている。飛膜はその人差し指以降の指の間から、後肢(後ろ足)の足首までを結んでいる。腕と指を伸ばせば』、『翼となって広がり、腕と指を曲げればこれを折りたたむことができる。さらに後ろ足と尾の間にも飛膜を持つものも多い。また、鳥と異なり、後ろ足は弱く、立つことができない。休息時は後ろ足でぶら下がる。前足の親指は爪があって、排泄時など、この指でぶら下がることもできる。また、場合によってはこの指と後ろ足で這い回ることができる』。『ココウモリ類』(小蝙蝠類:microbat:概ね、翼手目 Chiroptera から現生種の大翼手(オオコウモリ)亜目オオコウモリ上科オオコウモリ科 Pteropodidaeのオオコウモリ類を除いた種の総。小翼手類)『は超音波を用いた反響定位(エコーロケーション)を行うことでよく知られている。種によって異なるが、主に30kHzから100kHzの高周波を出し、その精度はかなり高く、ウオクイコウモリ』翼手目アシナガコウモリ科ウオクイコウモリ科  Yangochiroptera 亜目ウオクイコウモリ科ウオクイコウモリ属ウオクイコウモリ Noctilio leporinus。名前が示す通り、主に魚類を摂餌する。メキシコ・アルゼンチン・パラグアイ・ブラジル・小アンティル諸島に分布し、洞窟・岩の割れ目。樹洞などに棲む。爪で水面近くを泳いでいる全長二~八センチメートルほどの魚を捕える)『のように微細な水面の振動を感知し、水中の魚を捕らえるものまでいる。コウモリの存在する地域における夜行性の昆虫やカエルなどは反響定位対策となる器官や習性を持つものも多く、その生態系ニッチの大きさがうかがえる。ただし、大型のオオコウモリの仲間は反響定位を行わない種が多い』。『竹竿(和竿)の先に鳥黐を付け、それを振ってコウモリをおびき寄せ、接着させて捕獲することができる。しかし』、『コウモリは狂犬病をはじめとする様々な人獣共通感染症のキャリアとなりうるため』、『危険性』を認識しておく必要がある。他にも、日本脳炎・リッサウイルス感染症・ニパウイルス感染症・ヘンドラウイルス感染症・重症急性呼吸器症候群(SARS などの原因となるウイルスの保有が報告されており、『日本国内のコウモリから新種のアデノウイルスやヘルペスウイルスの発見も報告されている』。比較的知られた話としては、二〇一三年から二〇一六年にかけて、『ギニアをはじめとする西アフリカ諸国でエボラ出血熱が流行した』際も、『自然宿主の可能性が有るオオコウモリとの接触が原因となった可能性が指摘されている』。『熱帯においては、花の蜜や花粉を食べる種があるため、それに対する適応として花粉の媒介をコウモリに期待する、コウモリ媒の花がある』。『コウモリは目の前の獲物だけでなく、次の獲物の位置も先読みしながら』、『最適なルートを飛んでいる』。以下、「進化」の項。『恐竜の栄えた中生代において、飛行する脊椎動物の主流は恐竜に系統的に近い翼竜と恐竜の直系子孫である鳥類が占めていた。中生代の終結において、恐竜とともに翼竜は絶滅し、鳥類も現生の鳥類に繋がる新鳥類以外の系統が絶えた。これにより、飛行する脊椎動物という生態系ニッチには幾分か「空き」ができた。ここに進出する形で哺乳類から進化したのが』、『コウモリ類である。コウモリが飛行動物となった時点では、鳥類は既に確固とした生態系での地位を得ていたため、コウモリはその隙間を埋めるような形での生活圏を得た』。『コウモリの直系の祖先にあたる動物や、コウモリが飛行能力を獲得する進化の途上過程を示す化石は未だに発見されていない。恐らく彼等は樹上生活をする小さな哺乳類であり、前肢に飛膜を発達させることで、樹上間を飛び移るなど、活動範囲を広げていき、最終的に飛行能力を得たと思われる。確認される最古かつ原始的なコウモリはアメリカ合衆国ワイオミング州産のオニコニクテリスで、始新世初期』(約五千二百万年前)『の地層から化石が発見されている。この時期には既に前肢は(現生群に比べ短いなどの原始的特徴が目立つものの)翼となっており、飛行が可能になっていたことは明白である。化石から耳の構造を詳細に研究した結果、反響定位を持っていなかったことが判明し、コウモリは』、『まず』、『飛行能力を得たのちに、反響定位を行う能力を得たことが分かっている』。以下、「文化」の項。『一般にコウモリといえば』、『西洋では吸血鬼につながるイメージがあるが、実際には他の動物の血を吸う種』(翼手目ウオクイコウモリ下目ウオクイコウモリ上科チスイコウモリ科チスイコウモリ属ナミチスイコウモリDesmodus rotundus:一属一種。哺乳類の血を吸血するが、ヒトを襲うことは稀)『はごくわずかであり、たいていは植物(主に果実)や虫などの小動物を食べる。そもそも吸血性のコウモリは中央アメリカから南アメリカにかけてのみ分布し、旧大陸にそれについての知識が伝わったのも』、『吸血鬼との同一視も、ヨーロッパ人の新大陸進出後の』、『比較的新しい事象でしかない。東洋では歴史的にコウモリを嫌忌する伝統はない。むしろ、中国語で「蝙蝠」 (biānfú) の音が「福が偏り来る」を意味する「偏福」 (piānfú) に通じるため、幸運の象徴とされている。またキューバの絶滅した先住民タイノス(タイノ族)族はコウモリが健康、富、家族の団結などをもたらすと信じており、同地で創業した世界的ラム酒バカルディのロゴマークに採用されている』。『日本では蚊食鳥(カクイドリ)とも呼ばれ、かわほりの呼称とともに夏の季語である。蚊を食すため、その排泄物には難消化物の蚊の目玉が多く含まれており、それを使った料理が中国に存在するとされる』、とあるが、ウィキの「四川料理」によれば、『夜明砂は実在する生薬だが、夜明砂で作った四川料理は存在するかどうか疑問だ』とある。『「強者がいない場所でのみ幅を利かせる弱者」の意で、「鳥無き里の蝙蝠」という諺がある。また、織田信長はこれをもじって、四国を統一した土佐の大名、長宗我部元親を「鳥無き島の蝙蝠」と呼んだ』。『この「鳥無き島の蝙蝠」のフレーズは、古くは、「未木和歌抄」の『巻第二十七に平安末期の歌人和泉式部の歌に「人も無く 鳥も無からん 島にては このカハホリ(蝙蝠)も 君をたづねん」とあり、鎌倉期の』説話集「沙石集」の巻六「説教師ノ言(ことば)ノ賤(いやしき)事」にも『鳥無キ島のノカハホリニテ」と『あることから、少なくとも』十二『世紀には』よく知られて『いたものとわかる』。『沖縄の八重山人は蝙蝠の子孫を称していた(厳密には、クビワオオコウモリ』(オオコウモリ科オオコウモリ属クビワオオコウモリ Pteropus dasymallus)『の亜種であるヤエヤマオオコウモリ』(Pteropus dasymallus yayeyamae)『の子孫ということになる)。この他、琉球諸島の各島々の伝説では、人間以外の生物に起源を求めるものが多く、蝙蝠起源はその内の一つである。島民は自らの先祖である動物を敬い、大切にしたが、各島民が互いに悪口をいう際は、「○○の子孫が」といった風になったという』。『コウモリは分類学上は哺乳類であるが、鳥と同様に翼を持ち飛行することが可能である。これを参考にしたイソップ寓話「卑怯なコウモリ」がある。獣と鳥が争う中、コウモリはどっちにもいい顔をし、結果どちらからも嫌われてしまう童話であり、現在でもどっちつかず、八方美人的な人や行動を比喩する表現として「コウモリ」を使用することがある。しかし、イソップ寓話の原典に戻ると、鼬に捕まったときに自分は鳥ではなく鼠だと言って放免してもらい、鼠はみな仇敵だと言う別の鼬に捕まった時には、自分は鼠ではなく蝙蝠だと言ってまたも逃がしてもらうというエピソードを通じて、「状況に合わせて豹変する人は、しばしば絶体絶命の危機をも逃げおおせる、ということを弁えて、いつまでも同じところに留まっていてはならない」という見習うべき教訓を象徴する動物とされていることが分る』。『中国では、コウモリ(蝙蝠)の「蝠」の字が「福」に通ずることから、幸福を招く縁起物とされる。百年以上生きたネズミがコウモリになるという伝説もあり、長寿のシンボルとされている。そのため西洋の影響を受ける明治中期ごろまでは日本でも中国の影響で縁起の良い動物とされており、日本石油(現:JXTGエネルギー)では』一九八〇『年代初頭まで商標として用いられ』、『また』、『福山城のある蝙蝠山を由緒とする広島県福山市の市章の使用例や長崎のカステラ店福砂屋などはコウモリを商標としている。日本では、使用例は少ないが、コウモリの家紋も存在する』。『上記の通り』、『吸血種のみがクローズアップされて吸血鬼の眷属、あるいはその化身として描かれることもあり、また天使が背中に白い鳥の翼を持つとされるのに対し』、『悪魔は背中にこのコウモリの翼を生やしているとされる。日本では仮面ライダーシリーズに登場する蝙蝠男(蝙蝠系の怪人)がその例といえる。一方で、黄金バットやバットマンのように正義のヒーローのモチーフとして扱われることもある(大衆正義のスーパーマンに対し、バットマンは個人正義に例えられる)』とある。

 次に、身近なアブラコウモリ。和名が不審で調べて見たが、古くから、少なくとも(以下の引用では全国的とある)北九州でこのコウモリのことを「あぶらむし」と呼んでいたらしく、それを以下の通り、シーボルトが命名する際に用いたことからの和名らしい。しかし、何故「あぶら」なのかは調べ得なかった。アブラムシ同様、油で灯を灯す夕暮れ以降に活動を活発にさせるからか? 識者の御教授を乞うものである。やはりウィキの「アブラコウモリから引く(一部で先の引用と重なる)。『日本では人間にとって最も身近なコウモリであると言え』、住家性という『その習性から、イエコウモリ(家蝙蝠)の別名がある。史前帰化動物とする説もある』。『また、別名をアブラムシともいい、abramus という種小名はこれに由来する。アブラコウモリは、シーボルトが長崎で入手した標本によって西洋に紹介されたが、当時、九州北部で「アブラムシ」と呼んでいたために、その名称と共にヨーロッパへ渡ることとなった』。「日本動物誌」にも『Vespertilio abramus として記載されており、長崎の建物の屋根裏などに見られることなどとともに、"Son nom japonais est Abramusi (insecte du lard)"(日本名は Abramusi(脂の昆虫)という)と説明されている。江戸時代には、この呼称は全国的にも一般的であったとされる』。大きさは、前腕長 三十・三~三十五・五ミリメートル、頭胴長 三十八~六十ミリメートル、尾長二十九~四十五ミリメートル、体重五~十一グラム。歯を有する。『体毛は黒褐色から暗灰褐色。皮膜は灰褐色または明るい褐色。幼獣は黒っぽい。雄の場合は、多種と比べて長い陰茎が目立つ(陰茎骨は十~十一ミリメートルである)。『市街地を中心として、平野部に広く分布する。東京都心をはじめとする都市部の市街地にも数多く棲息し、夕刻の空に普通に見られる。人家のない山間部などには棲息せず、自然洞窟などでの記録は、まれにしかない』。一・五センチメートル『ほどの隙間があれば出入りすることができ、家屋の瓦の下、羽目板と壁の間、戸袋の中、天井裏、換気口など建物の隙間などを主な棲息場所(ねぐら)とする。都市部では、高層ビルの非常口裏などのほか、道路・鉄道等の高架や橋の下、大型倉庫内などもねぐらとなる』。『数頭の家族単位(雌と幼獣)で暮らすことが多いが、幼獣を含む雌の繁殖集団では』、五十~六十『頭、時には』二百『頭にもなる』が、『成獣の雄は』一『頭で暮らすことが比較的多い』。『夜行性で、昼間はねぐらで休み、日没近くから夜間に飛び回る。カ、ユスリカ、ヨコバイなどの小型昆虫類を主食とし、ウンカ、甲虫なども捕食する。活動は日没後』二『時間程度が最も活発。河川などの水面上や田畑・駐車場などのオープンスペース、あるいは街灯の近くなどを、ヒラヒラと不規則に飛び回り、飛翔昆虫を捕食する。都市部では、有機物量の多い汚濁河川から大量に発生するユスリカ』(昆虫綱双翅(ハエ)目糸角(長角・カ)亜目亜目カ下目ユスリカ上科ユスリカ科 Chironomidae)『が重要な食物となっていることが多い』。『日本では』、十一『月の中ごろから冬眠に入る。暖かい場所に多数が集まって冬越しをする』。三『月中下旬に冬眠から覚め、活動を開始する。冬眠期間中でも、暖かい日には飛翔する姿が見られることもある。近年、都市部では冬眠しないものも現れている』。『雌は満』一『歳から出産し』、七『月初旬に』一~四頭(通常は二、三頭)の『仔を産む』。三十日『程度で離乳して巣立つ』。十『月に入ると』、『交尾を行う。精子は雌の生殖器官に貯えられたまま冬を越す。冬眠あけの』四『月下旬になってから排卵が起こり、受精・妊娠する。寿命は雄で』三『年、雌で』五『年ほどと、他のコウモリと比べると短い。雄は』一『年以内に死んでしまうことが多い』。『シベリア東部からベトナム、台湾、日本。日本国内では、北海道道央部以北を除くほとんど全国に分布する。すなわち、北海道道南部、本州、四国、九州、壱岐島、対馬、口永良部島、口之島、宝島、奄美大島、徳之島、沖縄島、慶良間島、宮古島、伊良部島、西表島などである。ただし』、『伊豆諸島や南西諸島などには棲息の確認されていない島もある』。『日本に分布するものとアジア大陸に分布するものを別種とし、後者を Pipistrellus javanicus とする説もある。その場合、本種』(Pipistrellus abramus)『は日本固有種ということになる』。『人家周辺を飛ぶ蚊などの害虫を捕食するため、アブラコウモリには益獣としての側面がある。一方』、一『か所に暮らす個体数が多い場合、人家を住処とすることもあって、糞や尿による落下汚染とそれに伴う臭いやダニの発生、または夜間の騒音によっても、人間生活に被害とみなされる影響を与えることがある。近年、このような苦情は増加傾向にあり、忌避剤の使用やコウモリ駆除の依頼をする家庭もある』。『かつては、家に棲みついたり入ってきたりすると』、『縁起がよいとされたコウモリだが、伝統的なイメージが忘れ去られるとともに、現代では、単に気味が悪いという理由で嫌がる人もある。もともと東アジアでは、コウモリの漢語蝙蝠(へんぷく/ビェンフー)の「蝠」の字音である「ふく/フー」が「福」に通じるとして縁起のよい動物とされており、日本ではさらに、子宝に恵まれるというイメージもあって、めでたい動物として親しまれた。図柄としても好まれ、江戸後期には歌舞伎役者・七代目市川團十郎が蝙蝠の柄を流行らせたという記録も残っている。しかし、西洋の怪奇小説などに由来する「コウモリは不吉な動物」であるとの概念が浸透して、旧来の概念が薄れたのである』。『ヒートアイランド現象によって高い気温が保たれ、餌となる小型昆虫の多い都市部は、アブラコウモリにとって有利な生存環境であり、都市部では近年、その数が増加している。住宅街等でも容易に観察することのできる身近な哺乳動物として、貴重な存在と言える』とある。

「蚊蚋〔(か)〕」中国語ではこの二字で「蚊」(昆虫綱双翅(ハエ)目糸角(長角・カ)亜目カ下目カ上科カ科 Culicidae)を意味する。

「自〔(おのづか)〕ら能く生育す」蚊のような微細な動物の摂餌であるにも拘らず、のニュアンスであろうか。

「鼉虱」不詳。「鼉」は鰐(爬虫綱双弓亜綱主竜型下綱ワニ形上目ワニ目 Crocodilia)の一種を指すが、「虱」と熟語になっており、ワニではないと思われる。識者の御教授を乞う。

「蚶(あかゞい)」」翼形亜綱フネガイ目フネガイ上科フネガイ科アカガイ Scapharca broughtonii

「燕は戊巳〔(つちのとみ/キシ)〕を避け」先行する「燕(つばめ)」を参照。因みに、東洋文庫版は「燕」でもここでも『戊己』とするのであるが、底本は「燕」では明らかに「戊巳」であり(本条は熟語記号と重なっているが、明らかに「己」ではなく、上には突き出て「已」か「巳」である)これはおかしい(東洋文庫版編者の誤判読)と思う。以下で「庚申」と対にしてあるからである。そもそもが「本草綱目」の原本を見ても「戊巳」なのである。

「仙經」固有書名ならば、長生不死の神仙術を説いた道教の書で、南北朝期の僧で中国浄土教の開祖とされる曇鸞(どんらん 四七六年?~五四二年?)大師は、陶弘景(とうこうけい 四五六年~五三六年:六朝時代の医学者・科学者で道教茅山派の開祖。「本草綱目」には彼の記載が多く引用される)から「仙経」十巻を授けられたとされている。単に「仙術を記した諸書」の一般名詞かも知れぬ。

「以爲〔(おもへ)〕らく」ここは「謂うことには」の意。

「方士」「道士」に同じい。

「誑言〔(たぶらかしごと)〕」読みは私が勝手に附した。音なら「キヨウゲン(キョウゲン)」。

「陳子眞といふもの、白蝙蝠を得て……」宋の李石撰の「続博物志」(江蘇巡撫採進本)の十巻に、

   *

摘其既云劉亮合仙丹得白蝙蝠服之立死。又云陳子眞得蝙蝠大如鴉。食之一夕大泄而死。乃更云丹水石穴。蝙蝠百歳者倒懸。得而服之。使人神仙。自相矛盾。

   *

とある。「陳子眞」なり人物は不詳。

「大泄」激しい下痢。

「此れを書して、以つて惑ひを破るに足れり」ここでも時珍は仙道の不老不死術への強い批判を示している。

「肉」ここでは薬用のみを記すが、御存じとは思うが、現在でもコウモリ食は世界各地にある。ウィキの「食用コウモリによれば、『アジア・オセアニア・アフリカなどで食されるポピュラーな食材のひとつである。食用は、大型のコウモリであるフルーツコウモリ(フルーツバット、いわゆるオオコウモリ)』(熱帯雨林に棲息するオオコウモリ上科オオコウモリ科 Pteropodidae の類。同類にはCynopterinae 亜科コバナフルーツコウモリ属 CynopterusEpomophorinae 亜科クビワフルーツコウモリ属 MyonycterisHarpiyonycterinae 亜科ケナシフルーツコウモリ属 Dobsoniaシタナガフルーツコウモリ亜科のシナダカフルーツコウモリ属 Macroglossus や同亜科のハナフルーツコウモリ属 SyconycterisNyctimeninae 亜科テングフルーツコウモリ属 Nyctimene など、実際に「フルーツコウモリ」を和名に持つものが多くいる)『がよく食される』。『多くの南の国や地域で、食用コウモリはレストラン、食堂、或いは屋台、そして家庭で利用されている。また、一部の地域では高級食材として扱われる。地域によっては、まるごと一頭の、串焼き、姿焼き、姿煮などで提供されるが、頭や内臓まで食べることができる』。『インドネシア・北スラウェシ州のミナハサ族には』「パニキ」(コウモリ)の『家庭料理(マナド料理)があ』り、『ミナハサ族の料理法で調理されたパニキは、毛を焼いてローストし、カレー風に仕上げたもので、骨付き肉である。また、ココナッツミルクや、ハーブや香辛料を用いて、カレーのようなスープ料理にもなる。肉の味は牛肉のようで、この民族の料理は、味付けに唐辛子を用いることもあり、辛い料理とされている』。『ラオスなどの東南アジアでは』、『屋台で売られるほど』に『ポピュラーで、おやつとして食されてもいる。毛が付いたまま串焼きをした屋台料理もある。カンボジアではライルオオコウモリ』(オオコウモリ科オオコウモリ属 Pteropus lylei)『や小型のコウモリが食され、野菜と一緒に煮込む料理がある。ほかに、小さく刻んだコウモリを煮て、エキスを滋養・強壮の薬として飲むこともある』。『ベトナムでは、かゆの中にコウモリを入れる家庭料理が伝わる。このさい、コウモリは毛を取って料理する』。『中国の南部にもフルーツコウモリが生息するため、その食文化があり、広東料理では高級食材として扱われる。台湾では屋台で焼いたコウモリが売られる』。『パラオやバヌアツでも食される。パラオでは、捌いたコウモリの肉をココナッツミルク、生姜、及び香辛料で煮込んだ料理が伝わる。一部のレストランでは、日本で客が魚を選ぶように、客が自らコウモリを選んで、さばいてもらえる店もある。 また、日本の中学校にもパラオで、食用コウモリを食す研修がある』。『バヌアツではラプラプ料理のひとつにフルーツコウモリも用いたものがある』。『グアム島やマリアナ諸島(サイパンなど)のマリアナオオコウモリ』(Pteropus mariannus)『も美味しいため、チャモロ料理となり、よく食べられた。現在は数が減ったため、別の場所からオオコウモリを輸入して、食文化が存続している。グアムで食用コウモリが激減して消費に追いつかなくなった際、オガサワラオオコウモリ』(Pteropus pselaphon)『やサモアオオコウモリ』(Pteropus samoensis)『のような他の場所のオオコウモリがグアムに輸入された。日本の小笠原諸島はアメリカの施政権下に置かれた歴史があるが、ちょうどその時代に島民がオガサワラオオコウモリを網などで捕獲していた』。『パプア・ニューギニアにもスープ料理がある。ここのカラン族(Karan)はコウモリ狩りをし、食する。肉はチキンのようで、スープの味付けはインドネシアとは異なり、淡泊であるという』。『オーストラリアのアボリジニーは伝統的にコウモリを食す。アボリジニーの伝統的な食材をブッシュ・タッカーといい、コウモリを食すなどの、ブッシュタッカーを体験するツアーも行われる。アボリジニーの神話に『ボッビ・ボッビ』(Bobbi-bobbi)というものがあり、アボリジニーがコウモリを食べるようになったわけや、ブーメランでコウモリを捕えるわけが伝承されている』。『アフリカのブルキナファソにコウモリを食する習慣がある。狩猟が行われ、銃や空気銃を用いたり、木の枝とゴムの、パチンコで撃ち落とす』。『また、インド洋のセーシェルでもフルーツコウモリを用いた、クレオール風のカレー料理がある』。『食用コウモリは養殖がされていないため、狩猟により捕獲する。食用コウモリがいる国や地域では、パチンコ(スリングショットなど)やブーメランのような簡単な道具や、銃や空気銃、または網、補虫網などを用いて狩猟をする。フィリピンのアエタ族(Aeta、又はアイタ族:Ayta)や、バヌアツのタンナ島の狩猟採集民ニャマル』『は弓矢を用いる。ニューカレドニア』『では観光客がハンティングを行える』。『コウモリを捕獲している地域では、コウモリが人を警戒し、人間に近寄らないが、捕獲していない地域では、コウモリは人間のことを気にしないとされている。そのため、オオコウモリを捕獲するのに森に入る場合がある。反対に、オオコウモリを捕獲しないスリランカ(の植物園)では、人のそばで、インドオオコウモリ』(Pteropus giganteus)『が大きなコロニーを形成していたりする』。『コウモリを食用とする地域がある一方、様々な国や地域でコウモリはタブー視され、食されない。キリスト教の影響の濃い欧州では、コウモリの売買と食肉を禁じる国際法まである』。『コウモリを食する文化の無い日本では、コウモリは鳥獣保護法の保護対象となっており、捕獲には許可が必要となっている』。『規制以前の小笠原では前述の通り』、『グアムへの輸出のために、網などで、オガサワラオオコウモリを捕獲したことがある』。『グアムではマリアナオオコウモリが食べられたが、グアムの幾つかの島で絶滅したり、絶滅寸前にまで追い込まれてしまい、その捕獲は制限され、現地の方が文化として食する程度である。日本の「コウモリの会」によると、グアムのマリアナオオコウモリの絶滅又は激減などのような現象は、主に観光客が興味本位にコウモリを食すことに由来し、現地人が一月に数回、食べる分にはコウモリ(資源)が減ることは無かったと主張している』。『フィリピンの一部地域に生息するネグロスケナシフルーツコウモリ』(オオコウモリ科ケナシフルーツコウモリ属ネグロスケナシフルーツコウモリ Dobsonia chapmani)『は、森林破壊や糞(グアノ)採取を目的とした騒乱、狩猟により生息数を急速に減らした。一時は絶滅と信じられていたほどである』。『中国では』、二〇〇二年から二〇〇三年に『重症急性呼吸器症候群(SARS、サーズ)が流行したが、食用コウモリが感染ルートとされている。SARSの原因となったSARSコロナウイルスは、コウモリを介して、人に伝播する感染ルートが知られている。そのため、コウモリを含む野生動物を食べないように注意喚起されることもあった』。二〇一四年の『西アフリカエボラ出血熱流行においてエボラ出血熱の発生源地域のひとつであるギニアのゲケドゥ県では、エボラウイルスの媒介動物であるウマヅラコウモリ』Epomophorinae 亜科ウマヅラコウモリ属ウマヅラコウモリ Hypsignathus monstrosus。私は本種の顔を見ると、思わず、鼻行類の飛翔型かと思ったりしたものだ。ウィキの「ウマヅラコウモリ」の図を見られたい。但し、実物はかなりモンストロムである。グーグル画像検索「Hypsignathus monstrosusをリンクさせておくが、首だけの画像もあり、ややエグいのでクリックは自己責任で)『とフランケオナシケンショウコウモリ』(Epomophorinae 亜科 Epomops Epomops franqueti)『の狩猟が盛んで』は『あった』(但し、エボラ出血の感染源については、未だ不明な点も多い)。『そのほか幾つかの感染症がコウモリ由来と考えられている』。『一方、日本にも食用になるフルーツコウモリが琉球諸島や小笠原諸島に生息するが、食する習慣は無い。そもそも日本のフルーツコウモリは生息数が極めて少なく、琉球・小笠原のいずれにおいても絶滅危惧種で捕獲も禁止されている』とある。

「性、能く人を瀉〔せば〕」よく人に下痢を発症させる性質があるので。

「斟酌」条件などを考え合わせて上で適切に処置すること。おぞましい首相のおかげで、この語、厭な言葉に変質してしまったのは、日本人として実に嘆かわしいことと思っている。

「夜明砂〔(やめいしや)〕」「株式会社ウチダ和漢薬」公式サイト内の神農子氏の書かれた「生薬の玉手箱」の「ヤミョウシャ(夜明砂)」(平成二六(二〇一四)年一月十日号より)より引用する(ピリオド・コンマを句読点に代えさせて貰った)。

   《引用開始》

基源:ヒナコウモリ科(Vespertilionidae)のユビナガコウモリMiniopterus schreibersi Kuhl,ヒナコウモリVespertilio superans Thomas、ウサギコウモリPlecotus auritus L.、又はキクガシラコウモリ科(Rhinolophidae)のキクガシラコウモリRhinolophus ferrumequinum Schreber 等の糞便を乾燥したもの

 音楽の都ウィーンを代表する作曲家,ヨハンシュトラウス世が作曲したオペレッタといえば,真っ先に「こうもり」が挙げられます。この作品は大晦日から元日にかけての出来事という設定のため、ドイツ語圏で年越しに良く上演されるそうです。今回はそんなコウモリから得られる生薬の話です。

 コウモリは唯一空を飛ぶことができる哺乳類(ムササビなどは滑空のみ)であり、世界中の極地を除く至る場所に分布しています。世界に4000種程度の哺乳類が知られていますが、そのうちのおよそ4分の1をコウモリの仲間(翼手目)が占め、ネズミなどの齧歯類(齧歯目)についで種数の多いグループです。日本では33種が確認されており、移入種を除けば哺乳類全体の約3分の1を占め、最も種数の多いグループを形成しています。このうち21種は環境省作成のレッドデータブックにおいて絶滅危惧種に指定されています。

 食虫性のコウモリは、昆虫やクモなどの節足動物を大量に補食することが分かっています。その量は、一晩に蚊を約500匹とも言われており、蚊食鳥との別名があるくらいです。これら節足動物の外皮は、主にムコ多糖の一種であるキチンで構成されています。コウモリの仲間にはキチンの分解酵素(キチナーゼ)があることが最近明らかになりました。キチンの分解によって得られる単糖やオリゴ糖は高効率でエネルギーへと変換することができるため、コウモリの栄養源となっていることが容易に推察できます。コウモリの糞であるヤミョウシャにもキチンやその分解産物が含有されている可能性が高いと考えられますが、ほとんど研究が行なわれていないため詳しいことはわかりません。一部資料には大量の尿素、尿酸を含むとの記載があり、コウモリの糞を主体とする資材がバットグアノという有機肥料として用いられていたのも頷けます。

 ところで、コウモリの仲間の中には狂犬病の原因となるウイルスを持つものが知られています。狂犬病はラブドウイルス科リッサウイルス属のウイルスに感染し潜伏期間を経た上で発病します。感染した動物に嚙まれ,その唾液と傷口が接触することで感染が起こります。これらのウイルスは乾燥や熱に弱いことが知られており、唾液中でも数時間程度のみ安定だとされています。乾燥などの工程を踏む生薬に加工されたヤミョウシャを介して感染する恐れはまず無いでしょう。

 ヤミョウシャは『神農本草経』の中品に天鼠屎の名で収載されており、また、コウモリ自体も上品に伏翼として収載されています。夜明砂の名は『日華子本草』に初めて認められます。性味は辛、寒で肝に入り、瘀血を発散させ血熱を清解します、そのため、肝熱による目の充血などに用いられるほか、小児疳積、打撲外傷などにも用いられます。また粉末を腋臭止めに用いることもあるそうです。主な処方としては決明夜霊散、明目柏葉丸などが知られていますが、現在日本では市場性はないようです。

 『和漢三才図会』には,夜明砂(やめいしや)の別名として天鼠屎、屎法、石肝、黒砂星などが挙げられており、この天鼠屎の天鼠はコウモリを指すものと考えられています。一方、弓道では、松脂を油で煮た薬練(くすね)を弓の弦に塗って補強して「手ぐすね引く」のですが、この薬練(くすね)には、天鼠や天鼠矢などの表記も認められます。くすねとコウモリとの関連性は不明であり当て字との説もありますが、昔からコウモリが身近な存在であったことをうかがわせます。日本や中国では古くから縁起の良い動物とされており、商標などに散見されます。コウモリの仲間の多くは個体数の減少が危惧されています。多様性を後世まで引き継いでいきたいものです。

   《引用終了》

アカデミズム礼賛でウィキの記載を軽蔑する方々も、これで文句は言えまい。

「洶(ゆ)り」漢和辞典では「湧く・水が涌き出る」或いは「騒ぐ・どよめく」とあるが、中国語辞典を引くと、「(粒状のものを器に入れて、水を加え、掻き混ぜたり、水の中で揺すったりして不純物を)流し取る・(米などを)研(と)ぐ・濯(すす)ぐ」とある。それである。

「目盲」良安はこれで「めくら」と読んでいるかも知れない。目が眩んで一時的に目が見えなくなる症状と採っておく。

「障-醫〔(そこひ)〕」東洋文庫訳のルビを採用した。「そこひ」は「底翳」「内障」などと書き、眼内乃至視神経より中枢側の原因によって視力障害(翳:くもり)を起こす状態を指す。角膜疾患の「上翳(うわひ)」に対応する語で、便利な言葉ではあるが、外観では区別できない種々の病態を含み、診断並びに病型分類の進歩した現在では医学的に曖昧な表現であるので使用すべきではない。現在の病名にも「緑内障」・「白内障」・「黒内障」の別名として残ってはいる(平凡社「世界大百科事典」を参考にした)。

「厥陰肝經〔(けついんかんけい)〕」十二経脈の一つで、肝臓と胆嚢及び目の周囲を掌る。

「血分〔(けつぶん)〕」東洋文庫訳の注に『重症の熱症で、臓器が傷つけられ、血が消耗する症状』とある。

「拾玉」「拾玉集」。歴史書「愚管抄」の作者として知られる、平安末から鎌倉初期の天台僧慈円(久寿二(一一五五)年~嘉禄元(一二二五)年:摂政関白藤原忠通の子で、摂政関白九条兼実は同母兄天台座主就任は四度に亙った。「慈鎭」(和尚)は諡号)の私家集。慈円の死後百年近く経った、鎌倉末から南北朝期の嘉暦三(一三二八)年から興国七/貞和二(一三四六)年の間に伏見天皇の皇子で青蓮院門跡・天台座主を務めた尊円法親王が編纂したもので、歌の他に散文も収める。一首の校訂は同書を所持しないので不能。

「性、山椒を好む」こういう習性は不詳。しかし、以下に細かに書くところを見ると、あるんだろうか? しかし、あの強烈な臭気をコウモリが好むとは私には思われない。寧ろ、その強烈さに嚙んだ口を開くのではあるまいか? コウモリ研究家の御教授を乞うものである。

「鳥無きの鄕(さと)にて、蝙蝠、鳥の王と爲す」先の冒頭のウィキの引用の下線太字部を参照。]

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