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2018/11/01

萩原朔太郎詩集「月に吠える」正規表現版 白い月

 

  白 い 月

 

はげしいむし齒のいたみから、

ふくれあがつた頰つぺたをかかへながら、

わたしは棗の木の下を堀つてゐた、

なにかの草の種を蒔かうとして、

きやしやの指を坭だらけにしながら、

つめたい地べたを堀つくりかへした、

ああ、わたしはそれをおぼえてゐる、

うすらさむい日のくれがたに、

まあたらしい穴の下で、

ちろ、ちろ、とみみづがうごいてゐた、

そのとき低い建物のうしろから、

まつしろい女の耳を、

つるつるとなでるやうに月があがつた、

月があがつた。

            幼童思慕詩篇

 

 

[やぶちゃん注:二箇所の「掘」るとあるべきところの「堀」はママ(兼て指摘した通り、これは萩原朔太郎の書き癖)。「坭」は「どろ」と読み、「泥」の異体字。「みみづ」もママ。言わずもがなであろうが、「棗」は「なつめ」でクロウメモドキ目クロウメモドキ科ナツメ属ナツメ Ziziphus jujuba。初出は未詳。本詩集で初めて公開されたものの可能性が高いように私には思われる。蚯蚓の動きとカット・バックした月の出のアップが凄い。彼の少年期の追想詩篇は孰れも優れて痛く胸を撲(う)つ。

 なお、筑摩版「萩原朔太郞全集」第一巻の『草稿詩篇「月に吠える」』には、本篇の草稿として『白い月(本篇原稿六種七枚)』として二篇(最初は無題、後は「白い月(幼兒の追懷)」)がチョイスして載る。表記は総てママである。

   *

 

  

うすくけぶれるみどりの中に

つらつら柳がもえはぢめたそめた

遠火にもえるうぐひすな

そこの沼のそこにはふかく

くかすかにきえて しぼんでゆくさくらの花びらと

あほ白い蛙の死

ほのかにしぼむおぢきそう

や□□柳しんねりと

すべつこい女の顏を

するするとなでるやうに月があがつた

 

   *

以上の後編者注があり、『この草稿の終りの部分が「白い月」に採られたと思われる』とする。

   *

 

  思ひ出→月の思ひ出→幼兒の追懷

  白い月(幼兒の追懷)

 

はげしいむし齒痛からむしばのいたみから

白くふくらんれあがつたほつぺたをかゝへながら

わたしはなつめの木の下を堀つてゐた。

なにものかをもとめかの草の種をうえまかうとして

わたしは やさしいきやしやなゆびを坭だらけにしながら[やぶちゃん注:「坭」「泥」の異体字。]

つちの下つめたい地べたを堀つくりかへしたとき

ああ

わたしはそれをおぼえて居る

うすくらいらさむい冬の日のくれ方に

いちにちたそがれごろに

ぼんやりした このまあたらしい穴の を→中で 底で

みゝづ 土壤の下では

ほそいみゝづがうごめいてゐた

そしてみゝづがちよろくとうごいてゐた

そのときまつ白い近い建物のうしろの方から

まつしろい女の耳を

つるつるとなでるやうに月があつた

月があがつた。

 

   *

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