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« 和漢三才圖會第四十二 原禽類 燕(つばめ) (ツバメ) | トップページ | ブログ1150000アクセス突破記念第一弾 《芥川龍之介未電子化掌品抄》 對米問題 »

2018/10/21

和漢三才圖會第四十二 原禽類 土燕(つちつばめ)・石燕(いしつばめ) (多種を同定候補とし、最終的にアナツバメ類とショウドウツバメに比定した)

 

Tutitubame

つちつはめ 石燕

土燕

 

本綱石燕在乳石石洞中形似蝙蝠口方食石乳汁冬月

采之堪食餘月止可治病其肉【甘暖】爲補益藥【非石部之石燕】

 

 

つちつばめ 石燕〔(いしつばめ)〕

土燕

 

「本綱」、石燕、乳石〔の〕石洞〔の〕中に在り。形、蝙蝠(かはもり)に似て、口、方(けた)に〔して〕石乳〔(せきにゆう)〕の汁を食ふ。冬の月、之れを采〔(と)り〕て食ふに堪へたり。餘月は、止(たゞ)、病を治すべし。其の肉【甘、暖。】、補益の藥と爲す【「石部」の「石燕〔(いしつばめ)〕」に非ず】。

[やぶちゃん注:どうせ、南方熊楠の英文論文「燕石考」(The Origin Of The Swallow-Stone Myth,c.1899-1903:明治三十三年~同三十六年執筆。ロンドン留学時代末期に構想が立てられ、熊野那智時代に補筆・完成されたもので、学術雑誌『Nature』及び『Notes and Queries』の二誌に寄稿したものの、不掲載に終ったが、南方の英文論文の一つの頂点を成す名論文である)で知られた、謎と神秘の妖しげな〈パワー・ストーン〉「燕石」(その代表的正体の一つは、動物界真正後生動物亜界冠輪動物上門腕足動物門 Brachiopoda の嘴殻亜門嘴殻綱スピリファー目 Spiriferida の貝状の腕足類の化石や二枚貝の化石である。グーグル画像検索「Spiriferidaをご覧あれ。全く知らない方はその形状で納得が行かれるであろう)辺りだろう、などと思った方も多かろうが(私も当初はそう思った)、それは最後に美事に時珍と良安双方によって否定されているのである。「本草綱目」はもとより、「和漢三才図会」の巻第六十一に「石燕(いしつばめ)」として、しっかり図入りで示されてある方が、「それ」、モノホンの「石の燕」なのだ。

 私は「和漢三才図会」の「石部」全部を電子化する積りは、今のところ、ない(しかし、あり得ないと思っていた動物の部分の完全電子化は恐らく、来年には終われそうだ。今、しゃかりきになって「禽部」をやっている中・長期的な一つの理由は、そこにある。短期的には? 私の公開を順に読んでゆけば――「今に判るよ、権藤さん。」――(黒澤明「天国と地獄」の山崎努演ずる竹内銀次郎の声で)。さればこそ、この際、ここで「本草綱目」も含めて、「石燕」をやらかしちまうのも、これ、一興だ。以下に示す。まず「本草綱目」の「金石之四」の「石燕」(セキエン)。下線部はそちらで時珍が附言した、鳥の「石燕」の言及部である。但し、最後の膨大な量の「附方」(各病態に対する処方箋羅列)は電子化しても私にはさっぱり判らぬので略した。

   *

石燕【「唐本草」。】

集解李勣曰、石燕出零陵。恭曰、永州祁陽縣西北一十里有土岡上、掘深丈餘取之。形似蚶而小、堅重如石也。俗云、因雷雨則自石穴中出、隨雨飛隋者、妄也。頌曰、祁陽縣江畔沙灘上有之、或云、生洞中、凝僵似石者佳、采無時。宗奭曰、石燕如蜆蛤之狀、色如土、堅重如石。既無羽翼、焉能飛出。其言近妄。時珍曰、石燕有二、一種是此、乃石類也。狀類燕而有文、圓大者爲雄、長小者爲雌。一種是鍾乳穴中石燕、似蝙蝠者、食乳汁能飛、乃禽類也、見禽部禽石燕食乳、食之補助、與鍾乳同功、故方書助陽藥多用之。俗人不知、往往用此石爲助陽藥、刋于方冊、誤矣。

氣味甘、涼、無毒。

主治淋疾、煮汁飮之。婦人難産、兩手各把一枚、立驗【「唐本」。】。療眼目障、瞖諸般淋瀝、久患消渇、臟腑頻瀉、腸風痔、瘻年久不瘥、靣色虛黃、飮食無味、婦人月水湛濁、赤白帶下多年者、每日磨汁飮之。一枚用三日、以此爲準。亦可爲末、水飛過、每日服半錢至一錢、米飮服。至一月、諸疾悉平【時珍。】

發明時珍曰、石燕性凉、乃利竅行濕熱之物。宋人修本草、以食鍾乳、禽石燕、混收入此石燕下。故世俗誤傳此石能助陽、不知其正相反也。

   *

以下、「和漢三才図会」の「石燕」。やはり、下線部は「禽部」の「石燕(いしつばめ)」への言及部。

   *

Sekibuisitubame

いしつばめ

石燕

 

シッヱン

 

本綱石燕永州祁陽縣有之狀如蜆蛤之状色如土堅重

如石圓大者爲雄長小者爲雌此乃石類也

一種生鍾乳穴中石燕狀似蝙蝠而食乳汁能飛乃禽類

 也見禽部

五雜組云雲陵石燕相傳能飛飛卽風雨然石質無能飛

[やぶちゃん注:「雲陵」は祁陽県にある「零陵」の誤字なので訓読では訂した。]

之理爲烈日所暴忽有驟雨過石卽衝起徃徃墜地蓋寒

熱相激而迸落非眞能飛也

石燕【甘涼】 治淋病【煮汁飮之】婦人難産兩手各把一枚立驗

又治拳毛倒睫石燕【雌雄各一】磨水點𣘻眼先以鑷子摘去

拳毛乃點藥後以黃連水洗之

按阿波讃岐有石蛤其狀恰似蛤而閉口如土堅重如

 石俗傳云弘法大師所符也蓋此石燕之類兒女不知

 其本設奇説耳相州足柄山又有此類

 奧州米澤有山名甲蠃山其山小石多形如甲蠃子而

 黃白色帶微赤甲蠃【和名豆比俗云豆不】似海螺小貝也

 

 

いしつばめ

石燕

 

シッヱン

 

「本綱」、石燕、永州]祁陽〔(きよう)〕縣[やぶちゃん注:現在の湖南省国永州市祁陽県。ここ(グーグル・マップ・データ)。]之れ有り。狀〔(かたち)〕、蜆〔(しじみ)〕・蛤〔(はまぐり)〕の状のごとく、色、土のごとく、堅重にして石のごとし。圓く大なる者を雄と爲し、長く小さき者を雌と爲す。此れ、乃〔(すなは)〕ち、石類なり。

一種は、鍾乳穴〔の〕中に生ずる石燕あり。狀、蝙蝠に似て、乳汁〔(ちじる)〕を食ふ。能く飛ぶといふ。乃ち、禽類なり。「禽部」を見たり。

「五雜組」[やぶちゃん注:明の謝肇淛(しゃちょうせい)が撰した歴史考証を含む随筆。]に云はく、『零陵に石燕あり。相ひ傳ふ、「能く飛ぶ。飛ぶときは、卽ち、風雨あり』と。然れども、石質にして、能く飛ぶの理〔(り)〕、無し。烈日の爲に暴(さら)されて、忽ち、驟雨(ゆふだち)の過ぐること有〔りて〕、石、卽ち衝〔(た)ち〕起り、徃徃〔にして〕地に墜つ〔るあり〕。蓋し、寒熱、相ひ激(さへぎ)りて[やぶちゃん注:せめぎ合って。]、迸〔(ほとばし)り〕落〔つるにして〕、眞〔(しん)〕に能く飛ぶに非ず。

石燕【甘、涼、】 淋病を治す。【汁に煮、之れを飮む。】婦人の難産、兩の手に各〔(おのおの)〕一枚を把〔(にぎ)〕れば、立ところに驗〔あり〕。又、拳---睫(さかさまつげ)治す。石燕【雌雄各一つ。】、水に磨(す)り、眼に點-𣘻〔(てんさ)〕す[やぶちゃん注:点眼する。]。先づ、鑷子(けぬき)を以つて拳-毛〔(さかげ)〕を摘(つ)み去(さ)り、乃〔(の)ち〕、藥を點じ、後、黃連水〔(わうれんすい)〕を以つて之れを洗ふ。[やぶちゃん注:「クラシエ」公式サイト内の「漢方 抑肝散加芍薬黄連錠」の成分解説に、ブクリョウ・カンゾウ・サイコ・センキュウ・ソウジュツ・チョウトウコウ・トウキ・シャクヤク・オウレンから抽出したとあり、これら或いは幾つかを溶かしたものと思われる。因みに服用による対応症としては、『神経のたかぶりが強く、怒りやすい、イライラなどがあるものの次の諸症』とし、『神経症、不眠症、小児夜泣き、小児疳症(神経過敏)、歯ぎしり、更年期障害、血の道症』『(月経、妊娠、出産、産後、更年期など女性のホルモンの変動に伴って現れる精神不安やいらだちなどの精神神経症状および身体症状)』を挙げてある。]

按ずるに、阿波・讃岐に石蛤〔(いしはまぐり)〕有り。其の狀、恰〔(あたか)〕も蛤に似て、口を閉〔(ふさ)〕げば土のごとく、堅重にして石のごとし。俗に傳へて云はく、『弘法大師、符〔(ふ)〕する所なり』[やぶちゃん注:弘法大師がとある謂われあって蛤に呪文をかけてこうなったものだ。]となり。蓋し、此れ、石燕の類〔(たぐひ)なり〕。兒女、其の本〔(ほん)〕[やぶちゃん注:貝の化石化したものという実際の真相。]を知らずして、奇説を設くるのみ。相州足柄山、又、此の類〔ひ〕有り。

[やぶちゃん注:ここに紹介されてある弘法大師が蛤に呪術をかけて石と化したとするそれは、私の「諸國里人談卷之五 石蛤」の本文及び注を参照されたい。]

奧州米澤に山有り、「甲蠃山(つぶやま)」と名づく。其の山、小石、多く、形、甲蠃子〔(つぶ)〕のごとくにして黃白色、微赤を帶ぶ。甲蠃〔(カウラ)〕【和名、「豆比〔(つび)〕」、俗に「豆不〔(つぶ)〕」と云ふ。】、海-螺(ばい)に似たる小貝なり。

[やぶちゃん注:「甲蠃山」不詳。「つぶやま」という呼称は現在では廃れているかと思われる。現在の米沢市内だけに限っても、主だったピークは数多くあり、それらを一々検証することは私には出来ない。「栂峰」辺りは発音は近いかと思うが、ただの感触に過ぎぬ。地元の方の御教授を乞うものである。貝類フリークの私としては、判らぬのはかなり気持ちが悪いのである。

   *

 話をこの鳥の「石燕」に戻す。

 さても、今回も前項「ツバメ」でコシアカツバメの存在を教えて下さった、CEC公式サイト内の「徒然野鳥記」の「ツバメ」が力となった。そこで筆者は『日本に渡ってくるツバメの仲間は』、ツバメ属ツバメ Hirundo rustica『以外に、コシアカツバメ(漢名 胡燕)』(Hirundo daurica)、『イワツバメ(漢名 石燕)、ショウドウツバメ(漢名 土燕)』、『そして』、『沖縄諸島にだけ生息するリュウキュウツバメ』(Hirundo tahitica:本種についてはウィキの「リュウキュウツバメ」を見られたい)がいる、と記しておられるからである。

 まず、イワツバメ、漢名「石燕」から見よう。和名漢字表記は「岩燕」である。この種は、

ツバメ亜科 Delichon 属イワツバメ Delichon urbica

であるが、以下に見るように、本邦に飛来するのは、

イワツバメ亜種イワツバメ Delichon urbica dasypus

ウィキの「イワツバメ」によれば、分布はアフリカ大陸・ユーラシア大陸・インドネシア・日本・フィリピンで、『夏季にアフリカ大陸北部やユーラシア大陸で繁殖し、冬季になると』、『アフリカ大陸やインド北部、東南アジアへ南下し』、『越冬する。中華人民共和国南部などでは周年』、『生息する。日本には』、『亜種イワツバメが』、『繁殖のために九州以北に飛来(夏鳥)するが、西日本では渡来地は局地的である。温暖な地域では越冬することもある』。全長十三~十五センチメートル。『尾羽はアルファベットの「V」字状』(無論、燕尾状の、である)を呈する。『嘴の色彩は黒い。趾は白い羽毛で覆われる』。亜種イワツバメ Delichon urbica dasypusは、全長十三センチメートルで、『体形は細い。尾羽の切りこみが浅い。上面は光沢のある黒褐色、下面が汚白色の羽毛で覆われる。腰が白い羽毛で覆われる』。他に亜種シベリアイワツバメ Delichon urbica lagopoda がおり、こちらはやや大きく全長十五センチメートルで、『体形は太い。尾羽の切りこみが深い。上面は光沢のある暗青色、下面が白い羽毛で覆われる。背中後部、腰、尾羽基部の上面(上尾筒)が白い羽毛で覆われる』。但し。『亜種イワツバメを独立種とする説もあり、その場合には種』Delichon urbica『の和名はニシイワツバメになる』。『平地から山地にかけて』棲息し、『動物食で、昆虫を食べる。群れで飛行しながら』、『口を大きく開けて獲物を捕食する』。『海岸や山地の岩場に泥と枯れ草を使って』、『上部に穴の空いた球状の巣を作り、日本では』四~八月に、一回に三~四個の『卵を産む。岩場に営巣することが和名の由来。集団で営巣する』。『昔から山間部の旅館や山小屋などに営巣する例は知られていたが、第二次世界大戦後はコンクリート製の大規模な建造物が増加するとともに、本種もそれらに営巣するようになった。近年は市街地付近の橋桁やコンクリート製の建物の軒下などに集団営巣する例が増えており、本種の分布の拡大につながっている』とある。

 次に、ショウドウツバメ、漢名「土燕」を見る。和名の漢字は表記まさに「小洞燕」である。

ツバメ亜科 Riparia 属ショウドウツバメ Riparia riparia

ウィキの「ショウドウツバメ」から引く。分布はアフリカ大陸・北アメリカ大陸・南アメリカ大陸・ユーラシア大陸・アイルランド・キューバ・ジャマイカ・シンガポール・スリランカ・ドミニカ共和国・日本・ハイチ・マダガスカル・マレーシアと、『ツバメと並び』、『ツバメ科内では最も広い分布域(渡り)を持つ。夏季は北アメリカ大陸北部やユーラシア大陸北部で繁殖し、冬季(北半球)はアフリカ大陸や南アメリカ大陸、ユーラシア大陸南部で越冬する。日本には夏季に北海道、本州(東北地方以北)に繁殖のため』、『夏鳥として飛来するが、その他の地域では渡りの途中で飛来する旅鳥である』。全長十三センチメートル、体重九~十五グラム。『背面の羽衣は暗褐色、腹面の羽衣は白い。尾羽は短い。胸部に暗褐色の横帯が入る』。『幼鳥は体上面の羽毛の外縁(羽縁)が淡褐色で鱗状に見える』。『海岸や川辺の草原、農耕地などに生息する。渡りの際は大規模な群れを形成し、夜間はアシ原などで休む』。『食性は動物食で、主に昆虫(ハエやカゲロウ)を食べる。飛翔しながら口を大きく開けて獲物を捕食する』。『集団で営巣』し、『河川や湖の岸辺や海岸の砂泥質の崖に雌雄共に』五~十日をかけて』、直径五~十センチメートル、長さ二十センチメートルから一メートルほどの『穴を掘って集団で繁殖する』『(この小さな巣穴を掘る習性から小洞燕の和名がついた)。過去に使用していた巣穴には崩落や寄生虫がいる可能性があるため、通常は繁殖ごとに新しく穴を掘る。日本では』五『月に渡来し』、五月下旬から七月上旬にかけて、四~五個の『卵を産む。雌雄共に抱卵し、抱卵期間は』十二~十六日で、『雛は孵化してから約』十九『日で巣立つ。生後』一『年で性成熟する』。『河川改修等により営巣場所が減少している。そのため』、『工事現場や採掘場等で営巣することがある』とある。

 さて、まず同定比定するには、

「本草綱目」の鳥類とする「石燕」

と、

良安が本邦にも棲息すると考えた(そうは言っていないが、本邦にはいないとは言っていないし、そうした本邦に棲息しないことがはっきりしており、良安の想像の外にあるような、則ち、近縁種を想起出来ぬような種で「本草綱目」に載るもの(ゴマンといる)は良安は多く始めから採用していない)と仮定した場合の「石燕」

の二つを厳然と分けて考える必要がある。まず、前者であるが、これは、時珍の「集解」記載が貧困である。これは私は時珍が本種を見たことがないことを意味しているように思えてならないのである(他の項でも「本草綱目」ではしばしば見られることである)。しかして内容も鐘「乳石〔の〕石」のぶら下がった鍾乳「洞〔の〕中に」棲んでいて、「形」は「蝙蝠」(こうもり)「に似て」いて」、「口」ときた日にゃ、尖っておらず「方(けた)」=四角であって、その異様な嘴を以って鍾乳「石」から滴り落ちる「乳」「の汁」のみを吸って生きている、なんていう鳥がいようはずがないわけだ。しかしいるからこそ、「冬の」間はこれを捕獲し、食用に当てるのには、まあ何とか食える。但し、他の時期は捕えても、食べることはせず、漢方薬として「補益」(体内の諸作用の不足を補い、益を与えること)に用いるばかりである、というんだから、確かにいるのだ。だとすれば、

イワツバメ Delichon urbica

ショウドウツバメ Riparia riparia

のどっちでもよかろうかいと思うのだが、彼らはこんなツバメらしからぬコウモリみたような恰好なんぞ、してないわけだ。そこで考えたのだ。こりゃ、別にツバメ類である必要性はちっともない、ということだ。そうしてピンとくるのは(大方の方の頭には既にピンときているだろう)、高級広東料理の定番「燕巣」(ツバメのスープ)の「ツバメ」だ。あれは、燕じゃないのは御存じだろう、「ツバメ」を名に含むが、全然、縁遠い「穴燕」類(アナツバメ族 Collocaliiniで、中でもその巣が高級品として珍重されるのは、

鳥綱アマツバメ目アマツバメ科アナツバメ族 Aerodramus 属ジャワアナツバメ Aerodramus fuciphaga 及びオオアナツバメ Aerodramus maxima

である。ウィキの「アナツバメ」によれば(下線太字やぶちゃん)、アナツバメ類は、全長十~十五センチメートルで、『南アジア・東南アジア・熱帯太平洋、オーストラリア北部の海岸や島に分布する。最大の生息地は、ボルネオの大鍾乳洞群地帯』である(中国にはまずいないことが判る)。『岸壁に開いた洞穴内に集団で営巣する。他のアマツバメ科の鳥同様、羽毛など空中で得られるの浮遊物を飛翔しながら集めて巣材とし、これを唾液腺から分泌される粘着質の分泌物で固めた巣を作る。この点が類縁の遠いツバメが泥を地表で採取して巣財にするのと』、『大きく異なる』。この内、上記のジャワアナツバメとオオアナツバメの二種の『巣は空中から集めた巣材をわずかしか使わず、ほとんど全てが唾液腺の分泌物でできており、中華料理の高級食材である燕の巣として利用される』とある。また、『Aerodramusに属する種は、真っ暗な洞穴内でエコロケーション』(echolocation:反響定位:音の反響を受け止め、それによって周囲の状況を知ること。コウモリは超音波であるが、この場合は鳥の可聴域を利用している)『をする。鳥類でエコロケーションをするのは、アナツバメとアブラヨタカ』(ヨタカ目アブラヨタカ科 Steatornis 属アブラヨタカ Steatornis caripensis『だけである』ともあって、バッキバキの洞窟・鍾乳洞順応で、エコロケーションまでやっちまうなんざ、まさに「蝙蝠に似て」にバッチグーじゃねえか! しかも、彼らの嘴はずんぐりとして短いものが多く、まさに「方」なんだっつーの!

 かくして、私は「本草綱目」の「石燕」「土燕」は「穴燕」類(アナツバメ族 Collocaliini)であると比定するものである。

 では、良安の考えたそれは何か? これは本邦での分布から見ると、良安が見そうなのは、

イワツバメ Delichon urbica

だけれど、穴はコンパクトだけれど、その習性から見るなら、

ショウドウツバメ Riparia riparia

の方が、遙かにしっくりくる。「小洞」だし、巣穴はまさに「土」の穴で「土燕」だもの! 大方の御叱正を俟つものではある。

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