和漢三才圖會第四十二 原禽類 蒿雀(あをじ) (アオジ)
あをじ 青鵐【俗稱】
蒿雀
【俗云阿乎之】
ハアウツヨッ
本綱蒿雀似雀青黑色在蒿間塞外彌多食之美於諸雀
草雀 三才圖會云似蒿雀身微綠色謂之草雀
【蒿者草之高者也郭璞曰春時各
有種名至秌老成皆通呼爲蒿矣】
△按蒿雀似鵐而帶青黃色故俗呼曰青鵐【阿乎之止止畧曰阿乎之】
常棲山中秋冬出原野蒿篁間大如鵐及雀而頭青黃
有縱紫斑眉頰稍黃白色上嘴眼邊眞黑胸脇淡黃有
黑斑翅有黃赤與黑縱斑紋腹淡黃脚脛赤指爪淡白
性急※聲亦短小【鵐見下林禽】
[やぶちゃん注:「※」=「馬」+「喿」。]
肉【甘溫】 燒存性能止血有神効又能解毒治食傷
*
あをじ 青鵐〔(せいふ)〕【俗稱。】
蒿雀
【俗に「阿乎之」と云ふ。】
ハアウツヨッ
「本綱」、蒿雀は雀に似て、青黑色。蒿間(くさむら)に在〔(あ)〕り、塞の外(そと)には彌(いよいよ)多し。之を食ふに諸雀よりも美なり。
草雀 「三才圖會」に云はく、『蒿雀に似て、身、微〔(すこ)〕し綠色。之れを「草雀」と謂ふ』〔と〕。
【「蒿〔(カウ)〕」とは、草の高き者なり。郭璞〔(かくはく)〕が曰はく、『春の時は、各〔(おのおの)〕種名有〔るも〕、秌〔(あき)〕に至りて老成〔せば〕、皆、通〔じて〕呼びて「蒿」と爲す』〔と〕。】
△按ずるに、蒿雀は鵐〔(しとと)〕に似て、青黃色を帶ぶ。故に、俗、呼んで「青鵐〔(あをじ)〕」と曰ふ【「阿乎之止止〔(あをのしとど)〕」、畧して「阿乎之」と曰ふ。】。常に山中に棲み、秋冬、原野の蒿篁〔(くさむら)〕の間に出づ。大いさ、鵐及び雀のごとくにして、頭、青黃〔に〕縱の紫斑有り。眉・頰、稍〔(やや)〕黃白色。上嘴(うはくちばし)・眼の邊り、眞黑。胸・脇、淡黃〔に〕黑斑有り。翅、黃赤と黑との縱斑の紋、有り。腹、淡黃。脚・脛、赤く、指・爪、淡白。性、急-※(さはがし)く、聲も亦、短く小さし【「鵐」は「林禽」下を見よ。[やぶちゃん注::「※」=「馬」+「喿」。最後の割注は「下」の位置が不審で、ここに限り、勝手な訓読を行った。]】
肉【甘、溫。】 燒きて、性を存〔(そん)〕ぜし〔は〕、能く血を止む〔るに〕神効有り。又、能く毒を解し、食傷を治す。
[やぶちゃん注:本邦で普通に見かけるのは、スズメ目スズメ亜目ホオジロ科ホオジロ属アオジ亜種アオジ Emberiza podocephala
personata。漢字表記は「青鵐」「蒿鵐」「蒿雀」。中文サイトでは漢名を「灰頭鳥」とし、異名として「黑臉鵐」「青頭雀」「蓬鵐」「青頭鬼兒」等がある。「ウィキの「アオジ」によれば、インド北部・中華人民共和国・台湾・朝鮮民主主義人民共和国・日本・ネパール・ブータン・ロシア南東部に分布し、夏季に中華人民共和国・ロシア南東部・朝鮮半島北部で『繁殖し、冬季になると』、中華人民共和国南部・台湾・『インドシナ半島などへ南下し』、『越冬する。日本では亜種アオジが北海道や本州中部以北で繁殖し、中部以西で越冬する。また』、『少数ながら』、『基亜種』シベリアアオジEmberiza
spodocephala spodocepha『が越冬(冬鳥)や渡りの途中(旅鳥)のため、主に本州の日本海側や九州に飛来する』。全長十四~十六・五センチメートル。体重十六~二十五グラム。『上面は褐色の羽毛で覆われ、黒い縦縞が入る。中央部』二『枚の尾羽は赤褐色。外側の左右』五『枚ずつは黒褐色で、最も外側の左右』二『枚ずつは白い』。『上嘴は暗褐色、下嘴の色彩は淡褐色。後肢の色彩は淡褐色』。『オスは眼先や喉が黒い』。本邦の亜種アオジは『下面が黄色い羽毛で覆われ、喉が黄色い。オスの成鳥は頭部は緑がかった暗灰色で覆われ、目と嘴の周りが黒い』。『和名のアオは緑も含めた古い意味での青の意でオスの色彩に由来する』。『青色の鳥類の和名にはオオルリ、ルリビタキなどのように瑠璃色が用いられている』。『漢字表記の「蒿」はヨモギの意。メスの成鳥は緑褐色の羽毛で覆われ、上面が緑褐色の羽毛で覆われる。色合いなどはノジコ』(ホオジロ属ノジコ Emberiza sulphurata。次に独立項「野鵐」として出る)『に似ており、素人では見分けが困難である』。基亜種のシベリアアオジEmberiza
spodocephala spodocepha は、『下面が淡黄色の羽毛で覆われる。オスの成鳥は頭部と胸部が暗灰色の羽毛で覆われる。メスの成鳥は灰褐色の羽毛で覆われ、上面が灰色がかった緑褐色の羽毛で覆われる』。『開けた森林や林縁に生息する。非繁殖期には藪地などにも生息する。非繁殖期には群れを形成することもあるが、単独でいることが多い。用心深い性質で、草むらの中などに身を潜める』。『植物の種子や昆虫類を食べる。地上で採食する』。『地表や低木の樹上に植物の茎や葉を組み合わせたお椀状の巣を作り』、五~七月に一回に三~五個の『卵を産む。抱卵期間は』十四~十五日で、『雌が抱卵し、雛は孵化してから』十二~十三日で『巣立つ』。『雄は繁殖期に縄張りをもち、高木の上などの高所でさえずる』とある。私はアオジの鳴き声が好きだ。toriotomo氏のYou
Tube の「アオジ゙のさえずり」の動画をリンクさせておく。
「蒿間(くさむら)」『「蒿」とは、草の高き者なり』とするのでそれでよいと思うが、「蒿」は別に狭義にキク目キク科キク亜科ヨモギ属ヨモギ変種ヨモギ Artemisia indica var. maximowiczii をも指す。因みに同種は現代中国語では「魁蒿」と漢名する。但し、後注下線太字部も参照。
「塞の外」国境の外。特に中国では「万里の長城」の北側を指し、本種が北方系種であることを考えると腑に落ちる。
「草雀」「蒿雀に似て、身、微〔(すこ)〕し綠色」ではお手上げ。上記のウィキの引用で判る通り、素人にはノジコ Emberiza sulphurata との見分けさえ困難であるとする。しかも述べた通り、次に「野鵐」として出る以上、これをノジコに同定比定するのは気が引け、寧ろ、基亜種シベリアアオジ Emberiza spodocephala
spodocepha とする方がよかろうか、などと思案していたところが、次項の異名をふと見れば、「草雀」とある。良安先生、どういう料簡?
「郭璞が曰はく……」以下は「爾雅注疏」(全十一巻。西晋・東晋の学者郭璞(二七六年~三二四年)が注し、北宋の刑昺(けいへい)の疏(注に附けた更なる注釈のこと)に「爾雅」(漢代に成立した中国最古の字書。著者不詳)の注釈書。非常に優れたもので、後世、注疏の手本とされた)の巻八「釋草第十三」からの引用。中文ウィキソースのこちらで確認出来る。なお、同書の他の部分を「蒿」を検索して戴くと判るが、「蓬、蒿也」とする「説文」を引きつつも、「蒿」をヨモギに限定するのは誤りであり、丈の高い草を指すといった注がなされいるようだ。確かに「通〔じて〕呼びて「蒿」と爲す」はそれに相応しい。
「鵐〔(しとと)〕」「しとと」「しとど」はホオジロ属Emberiza のうち、本邦で普通にみられる幾種かに、限定的に古くからつけられた一般的な地方名。「シトト」或いは「シトド」と称する鳥について、「日本鳥学会」が定めた和名に当てはめてみると、「ホオジロ」(Emberiza cioides)・「アオジ」・「クロジ」(Emberiza variabilis)・「カシラダカ」(Emberiza rustica)が該当する。「シトド」と発音するケースは東北地方に多く、そのほかの地方では「シトト」が多い。次いで「アオジ」・「クロジ」「ノジコ」など、肉眼での野外識別が困難な個体を総称して「アオシトド」あるいは「アオシトト」とよぶ地方があり、「ホオジロ」を「アカシトト」、「クロジ」を「クロシトト」、「ミヤマホオジロ」(Emberiza elegans)を「ヤマシトト」と呼ぶ地方もあると、小学館「日本大百科全書」にあった。良安は「蒿雀」とこの「鵐」を別種としているのは、古い悪しき博物学の分類嗜好癖によるものである。
「性を存〔(そん)〕ぜし〔は〕」慎重に炙り焼いて、本来の蒿雀の肉の持つ漢方成分を破壊しないようにすれば、の意。]
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