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2018/10/30

萩原朔太郎詩集「月に吠える」正規表現版 危險な散步

 

  危險な散步

 

春になつて、

おれは新らしい靴のうらにごむをつけた、

どんな粗製の步道をあるいても、

あのいやらしい音がしないやうに、

それにおれはどつさり壞れものをかかへこんでる、

それがなによりけんのんだ。

さあ、そろそろ步きはじめた、

みんなそつとしてくれ、

そつとしてくれ、

おれは心配で心配でたまらない、

たとへどんなことがあつても、

おれの歪んだ足つきだけは見ないでおくれ。

おれはぜつたいぜつめいだ、

おれは病氣の風船のりみたいに、

いつも憔悴した方角で、

ふらふらふらふらあるいてゐるのだ。 

 

[やぶちゃん注:太字「ごむ」は底本では傍点「ヽ」。初出は『詩歌』大正四(一九一五)年六月号。「それにおれはどつさり壞れものをかかへこんでる、」が「それにおれはどつさり壞(こは)れものをかかへこんでゐる、」となっており、「そろそろ步きはじめた」が「そろそろ步きはぢめた」、「おれは心配で心配でたまらない、」は「じつさいおれは心配で心配でたまらない、」、「おれは病氣の風船のりみたいに、」は「だから病氣の風船乘りみたいに、」、「あるいて」が「步いて」となっている。

 なお、筑摩版「萩原朔太郞全集」第一巻の『草稿詩篇「月に吠える」』には、本篇の草稿として『危險な散步(本篇原稿三種二枚)』としつつ、二篇(無題と「足音のしない人の散步」がチョイスされて載る。以下に示す。表記は総てママである。アラビア数字は朔太郎が附したもの。

   *

 

  

 

1春になつて

2おれはあたらしいくつのうらにつけた

どこをいつあるいても3どんなにさびしいれた道路步道をあるいても

4あのいやらしい音がしないやうに

5さあ、おれが步きだしたはぢめた

6みんなおれのことならそつとしておくれ

7そつとしておくれ

おれは、少しこわれものをもつて居る

おれにさわらないでおくれ

おれはたとへ死んでもこひ死をしても

おまへの→あんな人間のとこへなんて二度といきはしない

おれは風せん玉のやうに

おれの氣のむいたところを

用心しながら

ふらふらふらふらあるいて居るのだ

 

 

  僕の散步

  足音のしない步行人の散步

 

春になつて

おれは新らしいくつのうらにごむをつけた

どんなさびれた粗製の步道をあるいても

あのいやらしい音がしないやうに

それにおれはどつさりこわれものをかかこんで居る

そいつがなによりけんのんだ

さあ、そろそろ步きはぢめた

みんなそつとしてくれ

そつとしてくれ

じつさいおれは心配で心配でたまらない

たとへどんなことがあつても

おれのゆがんだ足つきだけは見ないでくれずに居てくれ

しかし、だがおれはぜつたいに自由だ

おれはだからおく病氣の風せんのりのやうに憔悴した方角で

へん てこな方角を→惟倅した空 中を

ふらふらふらふら步いて居るのだ、

 

   *]

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