萩原朔太郎詩集「月に吠える」正規表現版 悲しい月夜
悲しい月夜
ぬすつと犬めが、
くさつた波止場の月に吠えてゐる。
たましひが耳をすますと、
陰氣くさい聲をして、
黃いろい娘たちが合唄してゐる、
合唄してゐる、
波止場のくらい石垣で。
いつも、
なぜおれはこれなんだ、
犬よ、
靑白いふしあはせの犬よ。
[やぶちゃん注:詩集の題名由来の一篇であり、救い難い強烈な孤独感が表白されている。初出は『地上巡禮』大正三(一九一四)年十二月号。「くさつた波止場の月に吠えてゐる。」が「くさつた波止場の月に吠江て居る。」(「江」はその崩し字)、二箇所の「合唄」は孰れも同じく「合唄」と表記している。他に「おれ」は「俺」、「ふしあわせ」は「不仕合せ」となっている以外は、変更はない。]
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