萩原朔太郎詩集「月に吠える」正規表現版 雲雀料理
雲雀料理
ささげまつるゆふべの愛餐、
燭に魚臘のうれひを薰じ、
いとしがりみどりの窓をひらきなむ。
あはれあれみ空をみれば、
さつきはるばると流るるものを、
手にわれ雲雀の皿をささげ、
いとしがり君がひだりにすすみなむ。
[やぶちゃん注:パート標題と同題の詩篇。「魚臘」はママであるが、筑摩版全集では編者によって誤字と断ぜられて、強制補正で「魚蠟」とされている(ここは正しい補正であるが、以前にも本カテゴリで文句を言ったが、この強制補正を校訂本文に問答無用で行うというのは、私は如何なものかと考えている。解説を含め、前漢字が正字表記という優れた全集なだけに、ちょっと残念な点である)。「魚臘」では中国語で魚の干物であるが、「魚蠟」(ぎよらふ(ぎょろう))なら、魚油から作った蠟で、粗悪な蠟燭などに用いたそれで腑に落ちる。点ずるとかなりの生臭さが漂う。
初出は『地上巡禮』大正三(一九一四)年十一月号。「ゆふべ」が「夕べ」、「薰」に「くん」のルビ、「ひらきなむ」が「開きなむ」、「流るる」が「ながゝる」、「ささげ」が「捧げ」である他は、変更はない。]
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