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2018/10/25

和漢三才圖會第四十三 林禽類 鳲鳩(ふふどり・つつどり) (カッコウ)

Kakkou

ふふとり 布穀 獲穀

つつとり 郭公 

鳲鳩

     【和名布

      布止利】

スウキウ

 

本綱鳲鳩狀大如鳩而帶黃色啼鳴相呼而不相集不能

爲巢多居樹穴及空鵲巢中哺子朝自上下暮自下上也

二月穀雨后始鳴夏至后乃止其聲俗如呼阿公阿

麥挿禾脱却破袴之類布穀獲穀共因其鳴時可爲農候

故名之耳其脚脛骨令人夫妻相愛五月五日收帶之各

一男左女右云置水中自能相隨也禽經云仲春鷹化爲

鳩仲秋鳩復化爲鷹故鳩之目猶如鷹之目【所謂鷹者鷂鳩者卽鳲鳩】

三才圖會云鳲鳩牝牡飛鳴以翼相拂其聲曰家家撒穀

或家家脱袴或家家斵磨

按布穀鳥石州藝州多有之二月至五月有聲其鳴也

 如言豆豆豆豆田家此鳥鳴卽下雜穀種江東亦種豆

 【稱末女末木止利】俗以郭公爲杜鵑者甚謬也

肉【甘溫】安神定志

 

 

ふふどり 布穀 獲穀

つつどり 郭公〔(かつこう)〕

 〔(かつきく)〕

鳲鳩

     【和名、「布布止利」。】

スウキウ

 

「本綱」、鳲鳩、狀〔(かたち)〕・大いさ、鳩のごとくして黃色を帶ぶ。啼鳴〔(ていめい)して〕相ひ呼びて、而〔れども〕相ひ集〔(つど)〕はず。巢を爲〔(つく)〕ること能はず、多く樹の穴及び空〔(から)なる〕鵲〔(かささぎ)〕の巢の中に居て、子を哺〔(はぐく)〕む。朝、上より下〔(くだ)〕り、暮れには下より上る。二月、穀雨の后〔(のち)〕、始めて鳴き、夏至の后〔(のち)〕、乃〔(すなは)ち〕、止む。其の聲、俗に「阿公(アコン/ぢい[やぶちゃん注:後者は左ルビ。原典はカタカナ。次も同じ。])」・「阿(アボウ/ばゞ)」・「割麥(カツモツ)」・「挿禾(ツアツホウ)」「脱却(トツキヤツ)」・「破袴(ホウクワア)」の類〔ひと〕呼ぶ。「布穀」「獲穀」共に其の鳴く時に因つて農候を爲すべき故に、之れを名づくのみ。其の脚・脛〔の〕骨、人の夫妻をして相愛たらしむ。五月五日、收めて、之れを帶し、各々一つ〔づつ〕、男は左、女は右〔と〕。云はく、『水中に置〔かば〕、自〔(おのづか)ら〕能く相ひ隨ふなり』〔と〕。「禽經〔(きんけい)〕」に云はく、『仲春、鷹、化して鳩と爲り、仲秋、鳩、復た化して鷹と爲る。故に鳩の目、猶ほ、鷹の目のごとし』〔と〕【所謂、鷹とは鷂〔(はいたか)〕、鳩とは、卽ち、鳲鳩〔なり〕。】。

「三才圖會」に云はく、『鳲鳩、牝牡〔(めすおす)〕、飛びて鳴き、翼を以つて相ひ拂ふ。其の聲、「家家撒穀(キヤアキヤアサツコツ)」、或いは「家家脱袴(キヤアキヤアトツクワア)」、或いは「家家斵磨(キヤアキヤアリウモヲヽ)」と曰ふ』〔と〕。

[やぶちゃん注:中国語音のルビは原典では複数字のセットを「ヽ」一点で省略しているが、そこの部分は正字で示した。]

按ずるに、布穀鳥は石州・藝州に多く之れ有り。二月より五月に至り、聲、有り。其の鳴くや。「豆豆豆豆〔(つつ、つつ)〕」と言ふがごとし。田家〔(のうか)〕、此の鳥の鳴きて、卽ち、雜穀の種を下〔(おろ)〕す。江東も亦、豆を種(う)ふ。【「末女末木止利〔(まめまきどり)〕」と稱す。】俗に郭公を以つて杜鵑〔(ほととぎす)〕と爲すは、甚だ、謬〔(あやま)〕れり。

肉【甘、溫。】神を安〔んじて〕志〔(こころ)〕を定む。

[やぶちゃん注:カッコウ目カッコウ科カッコウ属カッコウ Cuculus canorusウィキの「カッコウ」より引く。『ユーラシア大陸とアフリカで広く繁殖する。日本には夏鳥として』五『月ごろ飛来する』。『森林や草原に生息する。日本では主に山地に生息するが、寒冷地の場合平地にも生息する。和名はオスの鳴き声に由来し、他言語においてもオスの鳴き声が名前の由来になっていることが多い。属名Cuculusも本種の鳴き声に由来する。種小名canorusは「響く、音楽的」の意。本種だけではなくCuculus属は体温保持能力が低く、外気温や運動の有無によって体温が大きく変動する(測定例:日変動』摂氏二十九度から三十度『)ことが知られている』。『食性は動物食で昆虫類を始めとする節足動物等を食べる。主に毛虫を食べるとされる』。『本種は「托卵」を行う種として有名である。本種はオオヨシキリ』(スズメ目スズメ亜目ヨシキリ科ヨシキリ属オオヨシキリ Acrocephalus arundinaceus)。『ホオジロ』(スズメ目ホオジロ科ホオジロ属ホオジロ亜種ホオジロ Emberiza cioides ciopsis:本邦及びサハリン・千島列島に分布)、『モズ』(スズメ亜目モズ科モズ属モズ Lanius bucephalus)『等の巣に托卵する。近年ではオナガ』(スズメ目カラス科オナガ属オナガ Cyanopica cyana)『に対しても托卵を行うことが確認されている。托卵の際には巣の中にあった卵をひとつ持ち去って数を合わせる。本種のヒナは短期間(』十~十二『日程度)で孵化し、巣の持ち主のヒナより早く生まれることが多い。先に生まれた本種のヒナは巣の持ち主の卵やヒナを巣の外に放り出してしまい、自分だけを育てさせる。 ただし、托卵のタイミングが遅いと、先に孵化した巣の持ち主のヒナが重すぎて押し出せず、一緒に育つ場合もある』。『ある個体が巣に卵を産みつけた後、別の個体が同じ巣に卵を産むことがある』。二『つの卵がほぼ同時にかえった場合』、二『羽のヒナが落とし合いをする。敗れたほうには当然』、『死が待っている』。『また』、『本種の卵を見破って排除する鳥もいる。それに対抗し、カッコウもその鳥の卵に模様を似せるなど見破られないようにするための能力を発達させており、これは片利片害共進化の典型である』。『カッコウがなぜ托卵をするのかというのは未だ完全には解明されていない。が、他種に托卵(種間托卵)する鳥は体温変動が大きい傾向があるため、体温変動の少ない他種に抱卵してもらった方が繁殖に有利になりやすいのではないかという説が有力である』。『ちなみに同種の巣に卵を預ける種内托卵は、鳥類では多くの分類群で認められる行動である』。『さびれたさまのことを「閑古鳥が鳴く」というが、この閑古鳥とはカッコウのことである。古来、日本人はカッコウの鳴き声に物寂しさを感じていたようであり、松尾芭蕉の句にも』「うき我をさびしがらせよかんこどり」(元禄四(一六九一)年四十七歳の時、幻住庵での改作と思われる。元は元禄二年九月六日の「伊勢の國長島大智院に信宿ス」の前書を持つ「うきわれをさびしがらせよ秋の寺」である。因みに、これは「奥の細道」の掉尾「蛤のふたみにわかれ行(ゆく)秋ぞ」と同日に詠まれたものである。リンク先は私の『今日のシンクロニティ「奥の細道」の旅 掉尾 蛤のふたみへわかれ行く秋ぞ』)『というものがある』とある。

 さて、托卵であるが、ポート・ブログ・サイト「Noticeの「騙されるのには理由がある」及び、その冒頭のリンク記事が新しい学説が紹介されていて最適である(国立科学博物館研究官濱尾章二氏の講演の梗概のようである)。そこでは、大方の人々が疑問に思うことが語られてある。以下、長い引用になるが、お許し戴くと、それは『托卵をさせられてしまう宿主側にはメリット』がないのに、『なぜ托卵を受け入れてしまうのか』、また、『能動的に托卵鳥の卵や雛を拒絶する進化は起こらなかったのかという疑問で』ある。濱尾氏は、『この疑問に対して、幾つかの仮説が考えられてい』るとして、まず、以下の二説が示される。

仮説evolutionary lag hypothesis

『托卵の歴史が短く、宿主側の対抗手段がまだ進化していない。タイムラグが生じているという仮説』。

仮説evolutionary equilibrium hypothesis

『ホストが自分の卵を間違って捨ててしまうなど対抗手段にはコストがかかる。そのコストのバランスで完全には拒絶できないという仮説』。

である(以下、それぞれ仮説を補足する例の部分はリンク先を見られたい)。しかし、仮説については、『数十年単位で対抗手段が獲得できるのであれば、その形質を永遠に獲得するような進化がなぜ起こらないのかという疑問』が残り、また、仮説については、托卵される側の代表種の一つであるウグイス(スズメ目ウグイス科ウグイス属ウグイス Horornis diphone)の方でも『ウグイスなりのコストに見合った対抗戦略を持っているという説もあり』、『それは時間的エスケープ説といわれる説で、ウグイスの繁殖期は』三~七『月と、ホトトギスの』五月末~六『月という繁殖期に比べて長いことが分かって』おり、『つまり春先に一度繁殖してしまえば』、二『回目の繁殖で托卵されてもコストは比較的低いという事になり』、『またそれだけではなく、ウグイスの巣にホトトギスが近づくと激しくさえずり、ホトトギスを攻撃し』、『実験データではホトトギスに対して盛んに鳴くウグイスのメスは托卵されにくいという結果が出ている』という。『つまりウグイスもコストを計りながら対抗しているという事にな』るという事実があることである。そこに、近年、『新しい仮説が唱えられるようになって』、それが名も怖ろしげな、

仮説マフィア仮説

というのだそうである。それは、

   《箇条書部引用開始》

・托卵鳥は托卵後、托卵した巣の観察を続けている。

・托卵を拒絶した巣は捕食する。

・托卵を受け入れた巣はそのままにする。

・宿主は捕食されると困るので、托卵を受け入れるようになる。

   《箇条書部引用終了》

『このように非常に暴力的な托卵鳥の行動が、托卵という進化のバイアスとなったというのが「マフィア仮説」で』あるが、但し、残念ながら、『この仮説のデータとなる宿主と托卵鳥の関係は、日本のウグイスやオオヨシキリ』(スズメ目スズメ亜目ヨシキリ科ヨシキリ属オオヨシキリ Acrocephalus arundinaceus)『などの宿主とホトトギスやカッコウなどの托卵鳥との関係には当てはまらないそうで』、『それはこのデータとなった托卵の生態が、日本の托卵鳥のように宿主の卵や雛を排除するのではなく、宿主の卵と一緒に育つという生態を持つ鳥のデータだからだ』という。『しかしながら、進化の道筋としては非常に面白い考察で』、『この「マフィア仮説」が最初に論文としてまとまったのは』一九九五年の『スペインの研究グループによるもので』、研究対象試料種群は『ユーラシア大陸に広く分布し、日本にも吸収の一部で繁殖するカササギとそのカササギに托卵するマダラカンムリカッコウ』(カッコウ科カッコウ属マダラカンムリカッコウ Clamator glandarius)『の観察によって得られたデータによる論文で』あるとある。『それによれば、托卵を排除すれば他の雛や卵(托卵鳥は宿主の雛を排除しない)が何者かに捕食されると』し、『研究によれば』、『托卵を排除したカササギ雛の捕食率は』九『割にもおよび、托卵排除の巣の捕食率』二『割、托卵されていない巣の捕食率』二『割というデータから見ても、托卵を拒絶した場合』、『非常に際立って捕食されてしまうという結果になってい』る。但し、『この研究ではマダラカンムリカッコウが捕食したというデータは揃』わなかった。しかし、それでも、『托卵を受容した親鳥があまり捕食されないだけでなく、托卵をしてない巣が』二『割でも襲われるという結果からは、もしマダラカンムリカッコウが犯人ならば、雛を捕食し』、『親鳥に再び産卵を促すことが出来れば、托卵のチャンスが生じるというマダラカンムリカッコウのメリットが生じることにな』るのである(それを『farming戦略』と称するらしい)。さらに、『托卵された巣から托卵を取り除くという実験が行われ』たが、『その結果、人為的に托卵を排除したカササギでは、実に二十九例中、二十例で『捕食が行われ、托卵を排除しなかった巣に比べて捕食率に大きな差が出』た、『つまり』、『托卵を取り除くと捕食される確立が高まる』ことが明らかとなった。『マダラカンムリカッコウが、托卵を拒否したカササギに報復のように捕食行動を起こす、即ち』、『マフィア仮説が成立するためには、そのマダラカンムリカッコウの托卵を受け入れる方のカササギにもメリットがなければ習性として獲得され』ない。『一方的に托卵され続けるだけでは絶滅してしま』うからである。『つまり』、『托卵を受け入れる宿主も、托卵を受容するほうが得でなければならない』理由があるということになる。これに『ついてもデータが取られ』、『托卵を受容した場合、巣を放棄した』場合、『托卵を排除した場合の』三『つのケースについての』、『年間に巣立つ雛の数』を計測した。『それによれば、托卵を受容した場合は』年率〇・四、『巣を放棄した場合』で同じく年率〇・四、『托卵を排除した場合は』年率〇・三『という結果で』、これは『托卵を排除した場合は托卵鳥』(かどうかは不明であるが)『に襲われるので巣立つ雛の数は減』るものの、『巣を放棄した場合でも』、『再び巣を作らなければならないというコストを考えれば、托卵を受容したほうがメリットが生じることにな』るのである。

   《以下、「まとめ」部分の箇条書引用開始》

・托卵を宿主側が拒否しないことについて、托卵をする托卵鳥にくらべて宿主側の対抗手段が進化していない、つまりタイムラグが生じているという仮説(タイムラグ仮説)と、宿主がコストとのバランスで受容せざるを得ないのではないかという仮説(進化平衡仮説)がある。

・托卵鳥が托卵を拒絶すれば捕食してしまい、宿主は托卵を受け入れざるを得なくなるという「マフィア仮説」が考えられている。

・スペインのグループの研究では、托卵を拒否した場合、巣が捕食される確率が非常に高い(托卵鳥によって捕食されているかは不明)。

・托卵をしてない巣も襲うことで、托卵鳥が托卵をする機会を増やしているとも考えられる。

・宿主側も、捕食されるよりは托卵を受容したほうがメリットを生じるため、托卵を受容している。

   《「まとめ」部分の箇条書引用終了》

以下、『上記の仮説の弱点を補う研究が、つい昨年』(二〇〇七年)、『論文としてまとめられ』たとあって、研究梗概が続くが、試料種がカッコウやホトトギスとは異なるので)托卵鳥がコウウチョウ(香雨鳥:スズメ目ムクドリモドキ科 Molothrus 属コウウチョウ Molothrus ater)、被托卵鳥がオウゴンアメリカムシクイ(スズメ目アメリカムシクイ科 Protonotaria 属オウゴンアメリカムシクイ Protonotaria citrea))、省略し、その研究結果から引き出された『コウウチョウとムシクイでマフィア仮説の検証』結果のみを以下に示す。

   《引用開始》[やぶちゃん注:一部、句読点を変更・打点した。]

・卵消失は托卵鳥によって起こされる。

・托卵を拒否すると捕食されやすい。

・托卵を受容した宿主は拒否した宿主より多くの雛を残す。(←マフィア仮説の核!)

   《引用終了》

『この実験結果から』、

・捕食者は托卵鳥であるコウウチョウであること。

・托卵を拒否すると、托卵鳥であるコウウチョウに捕食される。

・宿主であるムシクイは托卵を受容したほうが、自分の子孫を多く残すことが出来る。

・コウウチョウは托卵を拒否した宿主の巣を捕食することで、托卵の受容を新たに促すことが可能になる。

という事実が明らかになり、以上を纏めると、

   《「後半のまとめ」箇条書部分引用開始》

・宿主の卵や雛の消失は、托卵鳥の捕食によって引き起こされる。

・托卵を排除した場合は、托卵鳥による捕食率が上がる。

・宿主は托卵を受容したほうが、托卵鳥による捕食を免れるために、子孫を多く残すことが出来る。つまりその習性が受け継がれていく。(宿主の需要行動の進化)

・托卵鳥は、托卵を拒否した巣、あるいは托卵していない巣を捕食することで、新規の托卵の機会を増加させる。(托卵鳥の報復行動の進化)

   《「後半のまとめ」箇条書部分引用終了》

という総括が示されてある。最後に行われた質疑応答も示されてあり、やはり非常に重要なポイントを指摘しているので引くと、

〈質問〉『なぜ自種と似ていない托卵鳥の卵・雛を拒絶しないのか?』

〈回答〉『卵は似ているのでなかなか見分けられないのが一点。また親は刷り込みによって「雛」というものを学習するので、もし最初の繁殖のときに托卵されたなら、刷り込みに寄って「雛」が拒絶できない』。

〈質問〉『托卵の進化プロセスは?』

〈回答〉『種内托卵が進化したものではないかと考えられている。同じ種の鳥に托卵するというケースは多く見られる』。

〈質問〉『宿主の排卵のタイミングと托卵鳥の排卵のタイミングが上手く合う理由は?』

〈回答〉『托卵鳥は常に宿主の巣を観察してるらしい。観察しているうちにホルモンバランスが変化し、タイミングよく卵を生むことが出来るのではないか』。

 以上、非常に興味深く読まさせて戴いたが、被托卵鳥が托卵を拒否した場合に、それを襲うのが確かに托卵鳥であるかどうかという点が本邦のケースでは、未だグレーなのは残念であるものの、一つの大きな有り得る可能性として、この「マフィア仮説」は極めて興味深い仮説であると言える。

 私は十年以上前に、被托卵鳥側が、実はそろそろ種全体として「私たちは騙されているのではないかしら?」と気づき始めており、その証拠に、被托卵鳥側の卵が托卵された卵の殻が明確に区別がつくような色と模様に変化し始めているという専門の研究者の話をテレビの番組で視聴し、托卵システムの進化については非常な興味を持ち続けてきた。

 また、実は三年前に、この「マフィア仮説」と同じ内容を耳にしており、その時は、托卵した後、有意な時間に亙って托卵鳥が被托卵鳥の行動を監視し続けるという点に疑問を持ったのだが、教え子から、そういう研究結果があると指摘されてもいたのである(その時に教え子が示して呉れたのは、信州大学教育学部教授中村浩志カッコウとオナガの闘い托卵に見る進化(「アットホーム株式会社」公式サイト内)であった。これも非常に面白いので必読である)。托卵のシステムと進化は、まだまだ目が離せない、面白さを持っている。

「鵲〔(かささぎ)〕」スズメ目カラス科カササギ属カササギ Pica pica。樹高八メートル以上の高木に、木の枝や藁などを用いて直径六十センチから一メートルもの球状の巣を作り、金属製のハンガーや針金をも素材にすることで知られる。日本では北海道・新潟県・長野県・福岡県・佐賀県・長崎県・熊本県で繁殖が記録されており、秋田県・山形県・神奈川県・福井県・兵庫県・鳥取県・島根県・宮崎県・鹿児島県、島嶼部では佐渡島・対馬で生息が確認されている(ここはウィキの「カササギ」に拠った)。カッコウはカササギにも托卵する(後述)。

「穀雨」二十四節気の第六で。通常は旧暦三月内。太陽暦では四月二十日頃。ウィキの「穀雨」によれば、『田畑の準備が整い、それに合わせて春の雨の降る』頃、『穀物の成長を助ける雨』の時期の意。「暦便覧」(太玄斎著の暦の解説書。天明七(一七八七)年刊)には『「春雨降りて百穀を生化すればなり」と記されている』とある。

「夏至」二十四節気の第十。旧暦五月内。現在は六月二十一日頃。

「阿公(アコン/ぢい)」「ぢい」は「爺」。以下、現代中国語のピンインとカタカナ音写を示す。「ā gōng」(アー・ゴォン)。

「阿(アボウ/ばゞ)」「ばば」は「婆」。「」は「婆」の異体字であるので、「阿婆」で示すと、「ā pó」(アー・ポォー)。

「割麥(カツモツ)」「gē mài」(グゥー(ァ)・マァィ)。「麦の鞘を割って種を出せ」か。

「挿禾(ツアツホウ)」「chā hé」(チァー・フゥー(ァ))。「穀物を地に挿せ」か。

「脱却(トツキヤツ)」「tuō què」(トゥオ・チュエ)。「穀物の皮殻から、種子よ! 抜け出よ!」か。

「破袴(ホウクワア)」「pò kù」(ポォー・クゥー)。「穀物の『はかま』(皮殻)を、種子よ! 破って芽を出せ!」か。

「農候」各種の大切な農事を行う時期。

「其の脚・脛〔の〕骨、人の夫妻をして相愛たらしむ。……」以下の話はこの「本草綱目」の記載以外には私は知らない。呪術の「五月五日」の限定規定等、他に記されたものがあれば、御教授願いたい。類感呪術なのだろうが、肝心のカッコウの雌雄の睦まじさを知らぬ(後の「三才図会」の「翼を以つて相ひ拂ふ」というのもちっとも仲良くなさそうだし、そもそも托卵自体が母性すらも感じさせず、厭な感じじゃけ)ので不審。

「禽經〔(きんけい)〕」既出既注であるが、再掲しておく。春秋時代の師曠(しこ)の撰になるとされる鳥獣事典であるが、偽書と推定されている。全七巻。

「仲春」陰暦二月。

「鷂〔(はいたか)〕」タカ目タカ科ハイタカ属ハイタカ Accipiter nisus

「家家撒穀(キヤアキヤアサツコツ)」先と同じく示す。「jiā jiā sā gǔ」(ヂィア・ヂィア・サァー・グゥー)。「さても! どの家も、穀物の種を撒け!」か。

「家家脱袴(キヤアキヤアトツクワア)」「jiā jiā tuō kù」(ヂィア・ヂィア・トゥオ・クゥー)。

「家家斵磨(キヤアキヤアリウモヲヽ)」「jiā jiā zhuó mó」(ヂィア・ヂィア・ヂゥオ・モォー)。「斵」(音「タク」)は「𣂪」「斲」と同字で、「斧などの大きく重い刃物で切る、又は、削る」の意であるから、「穀類の束を截り、そこから種子を磨り出せ!」と言う意味か。

「石州」「石見國」。

「藝州」「安藝國」。

「豆豆豆豆〔(つつ、つつ)〕」原典を見ると、二字目の「豆」の右手下に微かな小さな横棒が見えるように思われるので、読みでは、かく空けてみた。

「田家〔(のうか)〕」東洋文庫訳のルビを採用した。

「雜穀の種を下〔(おろ)〕す」「下す」は、鼠などに食われぬよう、高いところの保存して置いたものを取り出す、或いは、それを地面に蒔くの意であろう。

「江東」隅田川より東の意と採っておく。千葉は現在、落花生(マメ目マメ科マメ亜科ツルサイカチ連ラッカセイ属ラッカセイ Arachis hypogaea)の名産地であるが、ウィキの「ラッカセイ」によれば、『南米原産で東アジアを経由して、江戸時代に日本に持ち込まれたと言われている』。『日本には東アジア経由で』宝永三(一七〇六)『年にラッカセイが伝来し、「南京豆」と呼ばれた。ただし、現在の日本での栽培種はこの南京豆ではなく、明治維新以降に導入された品種である』とあり、「和漢三才図会」は正徳二 (一七一二) 年の成立で、この時、千葉で落花生栽培が盛んになっていたとは到底、思われないから、「江東」は単に江戸の東の江戸の穀類の需要を支える農村地帯を指し、「豆」は広義の穀類の種を言っているものと思う。

「俗に郭公を以つて杜鵑〔(ほととぎす)〕と爲すは、甚だ、謬〔(あやま)〕れり」言わず緒がなであるが、「杜鵑」はカッコウと同じ、カッコウ属で、種としては異なり、Cuculus poliocephalus である。但し、どちらも同じ初夏(五月頃)に本邦に渡って来ること、ホトトギスも托卵することなどの共通点は多い。しかし、同志社女子大学公式サイト内大学日本語日本文学科教授吉海(かい)直人ほととぎす」をめぐってにある通り、江戸よりも以前の人々の多くは両者を混同・誤認などはしていないのである(そもそもが、カッコウが江戸以前の都会人には馴染みのない鳥であることを考えれば、これは寧ろ、当たり前なのである)。以下、引用すると、『古典の世界では、「かっこう」と「ほととぎす」の混同など生じていません。少なくとも平安時代において、「かっこう」は文学に全く登場していないからです。要するに現代では「郭公」に二つの読み(意味)がありますが、古典では「ほととぎす」という読みしかなかったのです。というよりも、「ほととぎす」という鳥にはなんと二十を超す異名が存在します。それは「時鳥」「霍公鳥」「蜀魂」「無常鳥」「杜宇」「しでの田長」「早苗鳥」「田鵑」「勧農鳥」「夕影鳥」「黄昏鳥」「菖蒲鳥」「橘鳥」「卯月鳥」「妹背鳥」「うなゐ鳥」「魂迎鳥」「沓手鳥」「不如帰」「杜鵑」「子規」等です』とあり、また、ホトトギスは『中国の故事に由来するものは「死・魂・悲しみ」のイメージをひきずっているとされています。「しでの田長」は本来身分の低い「賎(しづ)の田長」だったようですが、それが「死出」に変化したことで、「田植え」のみならず冥界と往来するイメージまで付与されました』ともある。本条はホトトギスの項(「杜鵑」はここからまだ十一項後)ではないが、吉海先生のそれは判り易くまた、知的にも面白いので、特にリンクと引用をさせて戴いた。

「神を安〔んじて〕志〔(こころ)〕を定む」精神を安定させ、気持ちをしっかりとさせる。]

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