萩原朔太郎詩集「月に吠える」正規表現版 天景
天 景
しづかにきしれ四輪馬車、
ほのかに海はあかるみて、
麥は遠きにながれたり、
しづかにきしれ四輪馬車。
光る魚鳥の天景を、
また窓靑き建築を、
しづかにきしれ四輪馬車。
[やぶちゃん注:韻律から「四輪馬車」は「しりんばしや(しりんばしゃ)」、「魚鳥」は「ぎよてう(ぎょちょう)」と読みたい。初出は『地上巡禮』大正三(一九一四)年一一月号。「麥は遠きにながれたり、」の読点が句点で、次の四行目「しづかにきしれ四輪馬車。」の句点が読点である以外は変更はない。リフレインと計算された韻律が軋るサウンド・エフェクトに合わせて、風景がカット・バック風にモンタージュされる、すこぶる音楽的にして映像的な優れた、一読で暗記させられてしまう魔術的短詩である。]
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