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2018/11/16

和漢三才圖會第四十三 林禽類 鶯(うぐひす) (ウグイス)

Uguisu

うくひす 黃鳥 黃𪈹

     倉庚 青鳥

【鸎同】

     黧黃 黃袍

     搏黍 楚雀

イン 黃伯勞 金衣公子

 

本綱鶯狀大於鸜鵒雌雄雙飛体毛黃色羽及尾有黑色

相間黑眉尖觜青脚立春後卽鳴麥黃椹熟時尤甚其音

圓滑如織機聲乃應節趨時之鳥也【說文倉庚鳴則蠶生月令倉庚二月鳴】

冬月則藏蟄入田塘中以泥自裹如卵至春始出

肉【甘溫】此鳥感春陽先鳴所以補人食之令人不妒

三才圖會云州毎至冬月於田畝中得土堅圓如卵者

輙取以賣破之鶯在其中無羽毛候春始生羽破土而出

渚山記云鶯如鴝鵒而色蒼毎至正二月鳴曰春起至三

月止鳴曰春去採茶之候也呼爲報春鳥

 拾遺鶯の聲なかりせは雪消ぬ山里いかて春を知らまし

△按鶯【和名宇久比須】〕 出于和州奈良爲上信州奈良井之産

 次之形似目白鳥而肥黧黑而黃色腹灰白眼纎觜細

 尖而觜脚掌共灰黑色眉有三毛灰白長二三分吻有

 三髭長四五分雌及未老者其毛短鳴則揺尾冬月如

 曰喞喞似人舌皷至立春始囀季春止其聲清亮圓滑

 飛啼則急而長如曰法華經或如曰古計不盡或如曰

 月星日【謂囀三光】和州人畜鶯雛時教之以口笛竟令囀三

 光而後又置雛於側亦令習之今往往有之蓋鶯形色

 和漢大異也但立春始囀也聲清亮也古今詩歌稱美

 之者和漢不異也冬月蟄於土之説未知是非倩因土

 地物有異同也不唯鶯而蕪菁【湖東者微紅而長湖西者正白而圓】纔隔

 地異其形

 

 

うぐひす 黃鳥 黃𪈹〔(こうり)〕

     倉庚 青鳥

【「鸎」も同じ。】

     黧黃〔(りこう)〕

     黃袍〔(こうはう)〕

     搏黍〔(はくしよ)〕

     楚雀

イン 黃伯勞 金衣公子

 

「本綱」、鶯、狀、鸜鵒〔(はつかてう)〕より大なり。雌雄、雙飛〔(さうひ)〕す。体の毛、黃色。羽及び尾、黑色有り〔て〕相ひ間〔(まぢ)〕はる。黑き眉、尖れる觜、青き脚。立春の後、卽ち、鳴く。麥、黃ばみ、椹(くはのみ)、熟する時、尤も甚し。其の音〔(こゑ)〕、圓滑にして機〔(はた)〕を織る聲のごとし。乃〔(すなは)〕ち、節に應じて時を趨〔(お)ふ〕の鳥なり【「文」、『倉庚、鳴けば、則ち、蠶〔(かひこ)〕、生ず』〔と〕。「月令〔(がつりやう)〕」、『倉庚、二月に鳴く』〔と〕。】冬月には、則ち、藏蟄〔(ざうちつ)〕す。田の塘〔(つつみ)〕の中〔(うち)に〕入り、泥を以つて自〔(みづか)らを〕裹〔(つつ)み〕、卵のごとし。春に至り、始めて出づ。

肉【甘、溫。】此の鳥、春陽に感じて、先づ鳴く。人を補ふ所以なり。之れを食ひて、人をして妒(ねた)まざらしむ。

「三才圖會」に云く、『州、毎〔(つね)〕に冬の月に至りて、田畝の中に於いて土の堅-圓(かたまり)を得。卵のごとくなる者を、輙〔(すなは)ち〕取りて以つて賣る。之れを破れば、鶯、其の中に在りて、羽毛無し。春の始め、羽の生ふるを候〔(うかが)ひ〕て、土を破りて出づ』〔と〕。「渚山記」に云はく、『鶯、鴝鵒〔(はつかてう)〕のごとくして、色、蒼〔し〕。毎〔(つね)〕に、正、二月に至りて、鳴くを、「春起」と曰ふ。三月に至りて鳴き止む。〔これを〕「春去」と曰ふ。茶を採るの候なり。呼びて、「報春鳥」と爲す』〔と〕。

 「拾遺」

   鶯の聲なかりせば雪消えぬ山里いかで春を知らまし

△按ずるに、鶯【和名「宇久比須」。】〕は、和州奈良に出づ〔るを〕上と爲す。信州奈良井の産、之れに次ぐ。形、目白鳥に似て、肥え、黧黑(すゝぐろ)くして黃色。腹、灰白。眼、纎〔(ほそ)〕く、觜、細く尖りて、觜・脚・掌、共に灰黑色。眉〔に〕三毛有り〔て〕灰白、長さ二、三分。吻、三〔つの〕髭〔(ひげ)〕有り。長さ四、五分。雌及び未だ老いざる者は、其の毛、短し。鳴くときは、則ち、尾を揺〔(ゆる)〕かす。冬月、「喞喞(つゑつつゑつ)」と曰ふがごとし。人の舌皷〔(したつづみ)〕に似たり。立春に至り、始めて囀り、季春に止む。其の聲、清亮・圓滑、飛〔び〕啼〔くに〕、則ち、急に長く、「法華經」と曰ふがごとく、或いは「古計不盡(こけふじ)」と曰ふがごとく、或いは「月星日〔(つきほしひ)〕」と曰ふがごとし【「三光を囀る」と謂ふ。】。和州の人、鶯の雛を畜ひて、時々(をりをり)之れに教ふるに、口笛を以つてす。竟〔(つひ)〕に「三光」を囀らしむ。後、又、雛を側に置きて、亦、之れを習はしむ。今、往往、之れ有り。蓋し、鶯の形色、和漢、大いに異〔(ことなる)〕なり。但し、立春に始めて囀や、聲〔の〕清亮なるや、古今〔の〕詩歌〔の〕之れを稱美するは、和漢、異ならざるなり。冬月、土に蟄(すごも)るの説、未だ是非を知らず。倩々〔(つらつらおもんみ)るに〕土地に因りて、物、異同有るや、唯〔(ただ)〕鶯のみならずして、蕪-菁(かぶら)【湖東は微紅にして長く、湖西は正白にして圓〔(まろ)〕し。】纔〔(わづ)〕かに地を隔〔つるも〕、其の形を異〔と〕す。

[やぶちゃん注:良安の言うのは、無論、スズメ目ウグイス科ウグイス属ウグイス Horornis diphone であるが(詳細亜種は後述)、前の「本草綱目」の叙述のそれは、大きさが有意に大きく、全身の主調色が黄色であったり、どぎつく黒い眉であったりという叙述に不審が起こる通り、スズメ目コウライウグイス科コウライウグイス属コウライウグイス Oriolus chinensis であって、これはウグイスとは全くの別種で、類縁関係はないので注意!(後述(引用中))

 私にとっては雀より遙かに親しい鳥で、春の到来は寝室のすぐ裏の山からの彼らの囀りで知り、二階にある書斎の窓の直近の山桜に飛来する彼らは、窓に倚る私を恐れない。本邦で見られるウグイスは以下の亜種(主にウィキの「ウグイス」に拠る。以下の引用もこちら)。

ウグイス Horornis diphone cantans(北海道から九州まで広く分布する普通種)

ハシナガウグイス Horornis diphone diphone(普通種と比較して、やや小型で嘴が長く、囀りは活発ではなく、縄張りは狭い)

ダイトウウグイス Horornis diphone restrictus(南大東島で大正一一(一九二二)年に二羽が発見・採集されたが、その後に記録がなく、絶滅したものと考えられていたが、二〇〇一年以降に沖縄本島と喜界島に棲息していることが確認された)

リュウキュウウグイスHorornis diphone riukiuensis(繁殖地は不明。越冬のため、冬に沖縄に飛来する。但し、現在、この種には有意に異なるグループが確認されており、分割される可能性があるようだ)

 日本三鳴鳥(日本に棲息する囀りが美しいスズメ目の三種を指す。ウグイスの他は、オオルリ(大瑠璃)Cyanoptila cyanomelana コマドリ(駒鳥)Erithacus akahige(リンク先はYou Tube の音声附動画)の一種。『種の範囲の定義により、分布域は多少変化するが、大まかにいって東アジアに生息する』。『現代的な分類でのウグイス(マンシュウウグイス』(Horornis diphone canturians)『を含み』、『チョウセンウグイス』(Horornis borealis:但し、現在の最新の分類学ではマンシュウウグイスとともに広義のウグイスに含められている)『を含まない)は、日本(南西諸島を含む)、サハリン、東部・中部中国で繁殖し、南部・東南部中国、台湾、東南アジアで越冬する』。『伝統的な(』二〇〇〇『年代までの)分類に基づく場合、「広義の (sensu lato) ウグイス」(チョウセンウグイスも含む)の繁殖地には南東シベリア、中国東北部、朝鮮半島が加わる。「狭義の (sensu stricto) ウグイス」(マンシュウウグイスも含まない)は、日本(南西諸島を含む)とサハリンのみで繁殖し、南部・東南部中国、台湾で越冬する』。『ハワイ諸島にも分布するが、これは日本から移入されたものである』。『日本ではほぼ全国に分布する留鳥。ただし』、『寒冷地の個体は冬季に暖地へ移動する。平地から高山帯のハイマツ帯に至るまで生息するように、環境適応能力は広い。笹の多い林下や藪を好むが』、『さえずりの最中に開けた場所に姿を現すこともある』。『英名の「Bush Warbler」は』、「藪で囀る鳥」を『意味している。警戒心が強く、声が聞こえても姿が見えないことが多い』。『体長はオスが』十六センチメートル、メスが十四センチメートルで、『スズメとほぼ同じ大きさ』。『翼開長はオスが』二十一センチメートル、メスが十八センチメートル。『体色は、背中がオリーブ褐色で、腹面は白色、全体的に地味である。雌雄同色』。『ウグイスの卵の長径は』一・八センチメートル、『ホトトギス』(カッコウ目カッコウ科カッコウ属ホトトギス Cuculus poliocephalus)『の卵の長径は二・二センチメートルで、『色はほぼ同じで、ホトトギスの托卵対象となる』(托卵については「林禽類 鳲鳩(ふふどり・つつどり)(カッコウ)」で詳述したので、参照されたい。なお、「杜鵑(ほととぎす)」は次項である)。『食性は雑食だが、夏場は主に小型の昆虫、幼虫、クモ類などを捕食し、冬場は植物の種子や木の実なども食べる』。『繁殖期は初夏で、オスは縄張りをつくり「ホーホケキョ」と』実に一日に一千回ほども『鳴くことがある』。『横穴式の壺形の巣をつくり』、四~六個の卵を産み、メスが雛を育てる』。『亜種のハシナガウグイスは』二~三『個の卵を産み、オスも雛への給餌を行う』。『さえずりは「ホーホケキョ、ホーホケキキョ、ケキョケキョケキョ……」、地鳴きは「チャッチャッ」』。『さえずるのは縄張り内を見張っているオスで、「ホーホケキョ」が他の鳥に対する縄張り宣言であり、巣にエサを運ぶメスに対する「縄張り内に危険なし」の合図でもある。「ケキョケキョケキョ」が侵入した者や外敵への威嚇であるとされており、これを合図に、メスは自身の安全のためと、外敵に巣の位置を知られないようにするため』、『エサの運搬を中断し』、『身をひそめる』。『平地にて鳴き始める季節が早春であることから』、「春告鳥(はるつげどり)」の』『別名があ』り、『本州中部あたりでは 』二『月初旬頃からさえずり始め』、八『月下旬頃までが』、『よく聞かれる時期』であるが、十『月頃まで』、『弱いさえずりが聞かれることがある』。『「ホーホケキョ」とさえずるのを初めて聞いた日を『ウグイスの初鳴日』と呼び、気象庁が生物季節観測に用いている』(以下は引用元の表現や引用に問題があるので、私がオリジナルに附した)。

 平安前期の歌人で書家としても知られた藤原敏行(?~延喜七(九〇七年)又は延喜元(九〇一)年:藤原南家巨勢麻呂流の陸奧出羽按察使藤原富士麻呂の子。従四位上・右兵衛督)は「古今和歌集」の巻第十 物名」の巻頭で(四二二番)、

    鶯(うぐひす)   藤原便行朝臣

 心から花のしづくにそぼちつつうくひずとのみ鳥の鳴くらむ

と詠じている。「心から」は「自(おのずか)ら」で「自分自身の意志で」の意。「うくひず」は「憂く干ず」と鶯」の掛詞。「自分から花の雫に濡れたのに、何ゆえに鶯よ、「厭だ! 乾かぬ!」とばかり鳴くのか? ということ(因みに、次も(四二三番)彼の歌で、

    郭公(ほとゝぎす)

 來べきほど時すぎぬれや待ちわびて鳴くなる聲の人をとよむる

とホトトギスと並べてある。「とよむる」は主説は「賛美して騒がせる」の意。以下、ウィキの引用に戻る。

『古くは鳴き声を「ウー、グイス」または「ウー、グイ」と聴いていて』、『和名の由来であるとする説がある』。『東京都台東区鶯谷の地名の由来は、元禄年間に京都の皇族の出である公弁法親王が「江戸のウグイスは訛っている」として、尾形乾山に命じて京都から』三千五百『羽のウグイスを取り寄せて放鳥し、以後鳴きが良くなりウグイスの名所となったという逸話に由来する』。『日本から持ち込まれたハワイに生息している種の鳴き声(さえずり)は日本に生息しているものと比較して単純化されている』、『と国立科学博物館の筑波研究施設が発表した』。『これはハワイでは縄張り争いや繁殖の争いが』、『日本に比べて激しくないためと推測されている』。「別名」の条。『春鳥(ハルドリ)、春告鳥(ハルツゲドリ)、花見鳥(ハナミドリ)、歌詠鳥(ウタヨミドリ)、経読鳥(キョウヨミドリ)、匂鳥(ニオイドリ)、人来鳥(ヒトクドリ)、百千鳥(モモチドリ)、黄鳥(コウチョウ)、金衣公子(キンイコウシ)、報春鳥(ホウシュンドリ)、黄粉鳥(キナコドリ)、禁鳥(トドメドリ)、初音(ハツネ)』『など多くの異称を持つ』(以下、下線やぶちゃん)。『「鶯」の漢字がさす鳥は』、『日本語と中国語では異なる。日本では、本記事のウグイスのことをさす』が、『古来』、『中国の漢詩等では別上科カラス上科のコウライウグイス』(高麗鶯:スズメ目コウライウグイス科コウライウグイス属コウライウグイス Oriolus chinensis:インド・インドネシア・カンボジア・シンガポール・韓国・中国・台湾・北朝鮮・バングラデシュ・フィリピン・ベトナム・ミャンマー・ラオス・ロシアに棲息し、日本には、主に日本海側に、渡りの途中、稀に飛来する旅鳥である。全長二十六センチメートル。嘴の基部から眼を通る筋模様(眼過線)が入る。眼過線は黒く、左右の眼過線が後頭部で繋がる。は全身が黄色い羽毛で覆われ、は羽毛が緑がかった黄色の羽毛で覆われる。平地から山地にかけての森林に棲息し、様々な鳴き声を上げるが、ウグイスとは全く異なる異様な(私にはその姿がグラサンを掛けた茶髪の不良少年のように見えるのと同じく、ウルトラ怪獣の異様な吠え声のように聴こえる)ものである(You Tube terumeMovie氏の「コウライウグイス」をリンクさせておく)。「黄鳥」等の名前で漢詩にも登場する(以上はウィキの「コウライウグイス」に拠った)しかし、これが本篇の「本草綱目」引用(冒頭標題の異名も総て含む)部(「巻四十九」禽部林禽類「鸎」。「本草綱目」の標題表記は「鶯」ではなく「鸎」であるので検索する場合は注意)での正体なのである! 則ち、その部分は本邦のウグイスではないコウライウグイスの記載として再読して戴く必要があるのである『のことである。両者とも美声を愛でられる鳥だが、声も外見も非常に異なり』、『分類的な類縁はない』(『現在の中国ではウグイス科』(Cettiidae)『は鶯科であり』、『ウグイスを「日本树莺」(日本樹鶯)と表記する。またコウライウグイス科』(Oriolidae)『は黄鸝科であり』、『コウライウグイスは「黄鸝」または「黄鳥」と表記する』)。ウグイスの『飼養は、古くから行なわれ、足利義政の頃に流行し、その弊害の大きさから法度において禁じられたが、江戸時代、とくに文化から弘化にかけて、流行し、徳川家治、徳川家斉もこれを愛し、小納戸役にお鳥掛という職を置いたほどであった』。その飼養法は、『一番子の雛を巣ごと持ち帰り、藁製の畚(ふご)に入れ、巣口を綿で覆い、その畚を小蒲団で包み、温かい室内に置き、雛が』、「ピピピ」と『鳴いて餌を求めたら』、『すり餌を与え、夜は暖房して寒さを防ぐ。羽翼が整って離巣するようになれば』、一『羽ずつ籠に移す。籠には親籠、雛籠、付籠、袖籠(付子の雛を持ち運ぶ)、旅籠(遠方に携行する)、水籠(水浴びさせる)などの種類がある。籠にいれたウグイスはさらに籠桶(こおけ)に入れる。籠桶はキリ製で、高さ』四十五センチメートル『ほど、幅』三十センチメートル『ほど、長さ』八十センチメートル『ほどで、正面は障子のけんどん』(倹飩:饂飩や蕎麦などの一杯盛りの食品を入れてきっちりと蓋をして落下しないように運ぶ箱のことを「倹飩箱」と称するように、上下又は左右に溝が切ってあって蓋の嵌め外しが出来るようになっている構造物の側面を指す『になっている。キリ製なのは、それ以外では、琴と同じく、鳴く音と調和しないからであるという。餌はすり餌が中心で、活き餌も用いる。すり餌は、玄米、米ぬか、青葉で作る。活き餌は、アオガエル、ヤナギの虫(ボクトウガの幼虫)、クサギの虫(コウモリガの幼虫)、エビヅルの虫(ブドウスカシバの幼虫)、イナゴなどである。その他、シンクイムシ、ミールワーム、ヨーロッパイエコオロギ、ヒメツメガエルなど』、『入手しやすい活き餌がある。時期的に早く鳴かせるには、夜飼法などの方法がある。これは夜、籠桶の障子をはずして燈火に向けるもので、これを鳥をあぶるという』。九『月中旬から始めて、冬から春にかけて鳴かせる。付子といって、親鳥が鳴く音を練習させる方法もある。親鳥の籠桶から約』二メートル『離れたところに雛の籠桶を置き、自然に鳴方を習得させるものである』とある。【2018年11月19日追記】後の「蟲喰鳥」の注で、清少納言の「枕草子」の所謂、「鳥尽くし」の章段の「鶯は」のパートを電子化して載せたので参照されたい。

 

「本綱……前に述べた通り、くどいが、ここは少なくとも「三才圖會」(ここ。国立国会図書館デジタルコレクションの当該原本の解説頁の画像。挿絵は前頁にあるので、左端の三角ボタンをクリック)パートまでは(「渚山記」(唐の元結の撰になる地理書)のそれは体色を「蒼」と称しており、或いは我々の言うウグイスを指している可能性があるので留保するが、恐らくは「鴝鵒〔(はつかてう)〕のごとくして」の部分からみて、同じくコウライウグイスと思われる)スズメ目コウライウグイス科コウライウグイス属コウライウグイス Oriolus chinensis の叙述と読み変えて、スズメ目ウグイス科ウグイス属ウグイス Horornis diphone の叙述に転じる良安の評言以下と、明確に区別して読まれたい。

「鸜鵒〔(はつかてう)〕」スズメ目ムクドリ科ハッカチョウ属ハッカチョウ Acridotheres cristatellus。さんざん述べたのであるが、「和漢三才図会」で良安は、この「鸜鵒」が如何なる種を指しているかについては混乱をきたしている。失礼ながら、東洋文庫版訳でもそれをはっきりと明示しておらず、言わせて貰うなら、そうした混乱があることに目を瞑って現代語訳しているとしか思われない(この「鸜鵒」という見慣れない鳥に東洋文庫は、まず、ルビを附していない。音読みさえ躊躇されるこれにルビがないというのは、まさに訳者がこれが現在の如何なる種であるを表記するのが難しいために、安易にソッポを向いて誤魔化しているのだとしか思われないということである)。その混乱・誤認については、「林禽類 鸜鵒(くろつぐみ)(ハッカチョウとクロツグミの混同)の注で私の推理を細かく示してあるので参照されたい。

「鸜鵒〔(はつかてう)〕より大なり。雌雄、雙飛〔(さうひ)〕す。体の毛、黃色。羽及び尾、黑色有り〔て〕相ひ間〔(まぢ)〕はる。黑き眉、尖れる觜、青き脚」総てがウグイスに当てはまらず、コウライウグイスに一致する形態である。

「節」時節。

「趨〔(お)ふ〕」東洋文庫訳では『趨(あわ)す』(「合わす」であろう)とルビするが、「趨」にはそのような意味はない。私は「追ふ」の意で採った。ある時節の到来を鋭く感知して(感応して)それに遅れることなく「追う」ように同時期に一斉に囀る、と採ったのである。

文」現存する中国最古の部首別漢字字典「説文解字」。後漢の許慎の作で、西暦一〇〇年)に成立、一二一年に許慎の子許沖が安帝に奉納した。本文十四篇・叙(序)一篇の十五篇からなり、叙によれば、小篆の見出し字九千三百五十三字、重文(古文字及び篆書体や他の異体字等)千百六十三字を収録する(現行本では、これより少し字数が多い)。漢字を五百四十の部首に分けて体系づけ、その成立を解説し、字の本義を記してある(ここはウィキの「説文解字」に拠った。判り切った書物なので、今まで出てきても注していなかったことから、ここで示した)。

「倉庚、鳴けば、則ち、蠶〔(かひこ)〕、生ず」春蚕(はるご)の孵化は太陽暦で四月上・中旬である。

「月令〔(がつりやう)〕」複数回既出既注。「礼記」の「月令」(がつりょう)篇(月毎の自然現象・古式行事・儀式及び種々の農事指針などを記したもの。そうした記載の一般名詞としても用いる)。

「藏蟄〔(ざうちつ)〕」穴籠り。巣籠りとしたくなるが、以下に見る通り、地面の中に卵状にメタモルフォーゼして冬眠するというので、文字通りなのである。なお、コウライウグイスは二股の枝の間にハンモック状に丸い籠状の巣を作る(この巣を見た古人は樹にロープを張ってハンモックを創始したともされる)。ウグイスは先の引用に『横穴式の壺形の巣』とするが、言わずもがなながら、土中ではないから、孰れでもこの叙述はおかしい。

「塘〔(つつみ)〕」堤。

「泥を以つて自〔(みづか)らを〕裹〔(つつ)み〕、卵のごとし」良安ばかりでなく、私たちにもこの記載は全く以って不審である。

「人を補ふ所以」漢方で人の精気を補益するところのもの。

「妒(ねた)まざらしむ」他者に対する妬(ねた)み心を消させる。順正な春の「陽」の気に依って、そうした精神安定の効験がある、というのである。一種の共感呪術である。

州」湖南・湖北地方の広称。

「毎〔(つね)〕に冬の月に至りて、田畝の中に於いて土の堅-圓(かたまり)を得」汎世界的に見られる、人間を含む生命の卵生説話の残滓か? 先の「陽」の気との関わりがあるように思われる。

「候〔(うかが)ひ〕て」雛自らが察して。

「渚山記」既注。

「拾遺」「鶯の聲なかりせば雪消えぬ山里いかで春を知らまし」「拾遺和歌集」の「巻第一 春」の、藤原朝忠(延喜一〇(九一〇)年~康保三(九六七)年:藤原北家三条右大臣藤原定方の五男)の一首(十番)、

   天曆十年三月廿九日内裏歌合に 中納言朝忠

 鶯の聲なかりせば雪消えぬ山里(やまざと)いかで春を知らまし

天曆十年はユリウス暦九一五年。「三月廿九日」はユリウス暦で三月十七日でグレゴリオ暦に換算すると三月二十二日に当たるから、現在なら、ウグイスの初音がもう聴こえている頃である。但し、当時はもっと気温が低かったから、或いはそれをまさに今かと待ち望む形の詠かも知れぬ。

「和州」大和。

「信州奈良井」現在の長野県塩尻市奈良井。木曾の三宿(奈良井宿・妻籠宿・馬籠宿)の一つとして知られる。ここ

「目白鳥」スズメ目メジロ科メジロ属メジロ Zosterops japonicus

「黧黑(すゝぐろ)く」「黧」(音「レイ・ライ・リ」)は訓で「つしむ・つじむ」と読み、「青黒い斑点が附く・さらの基底色に色が附いて滲む」の意。

「二、三分」六~九ミリメートル。

「吻、三〔つの〕髭〔(ひげ)〕有り。長さ四、五分」一・二~一・五センチメートル。ウグイスの頭部の拡大画像を幾つか見ると、個体によっては、確かに嘴の上部や下部の基部にツンと出た羽毛があり、それをかく言っているものかと思われる。

「喞喞(つゑつつゑつ)」「喞」(音「ショク・ソク」)はそれ自体が「鳴く。すだく。虫が集まって鳴く)の意があり、「喞喞」(ショクショク)は「虫がしきりに鳴くさま・悲しみ嘆くさま」に使用する。後者は「喞」に「かこつ・不平を言って歎く」の意があるからである。「喞」の現代中国音は「」(ヂィー)でこの「つゑつつゑつ」は不審。単なるオノマトペイアとしても、この漢字は当てられないように思われる。

「清亮」音が清らかで澄んでいること。

「圓滑」滑(なめ)らかで、角立(かどだ)たないこと。

「古計不盡(こけふじ)」よく判らぬが、「古へを計(おしはか)りて盡きず」の意か? 次の「月星日」辺りから、時空間を知る智を比喩するか? 識者の御教授を乞う。

『「月星日〔(つきほしひ)〕」と曰ふがごとし【「三光を囀る」と謂ふ。】』「三光鳥」の名を和名に持つのは、スズメ目カササギヒタキ科サンコウチョウ属サンコウチョウ Terpsiphone atrocaudata(囀りが「ツキヒーホシ、ホイホイホイ」と聴こえることに由る)やスズメ目アトリ科イカル属イカル Eophona personata(異名。「キーコー、キー」と聴こえることに由る。本種は「林禽類 桑鳲(まめどり・まめうまし・いかるが)(イカル)で既出)がいるので、注意が必要。

「蕪-菁(かぶら)」(原典のルビは「蕪」にしかないが、かく判断した)アブラナ目アブラナ科アブラナ属ラパ変種カブ(アジア系)Brassica rapa var. glabra

「湖東は微紅にして長く、湖西は正白にして圓〔(まろ)〕し」ウィキの「カブ」に『胚軸及び根は多くの場合』、『白色だが、赤色で赤蕪と呼ばれるものもあり、東日本に多いとされる』とある。]

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