和漢三才圖會第四十三 林禽類 大觜烏(はしぶと) (ハシブトガラス)
はしふと 烏鴉 老鴉
鸒 鵯鶋
楚鳥
大觜烏
本綱大觜烏似慈烏大觜而腹下白不反哺者也狀大於
慈鳥性貪鷙好食善避繒繳
[やぶちゃん注:「本草綱目」の「大觜烏」を見ると、「集解」に「時珍曰、烏鴉大觜而性貪鷙好鳥善避繒繳」とあり、「好食」は良安の誤写であることが判った。訓読では特異的に訂した。]
肉【溫臭】 不可食止治疾勞咳及小兒癇疾
*
はしぶと 烏鴉〔(うあ)〕 老鴉
鸒〔(よ)〕 鵯鶋〔(ひつきよ)〕
楚鳥〔(そてう)〕
大觜烏
「本綱」、大觜烏、慈烏〔(からす)〕に似て、大〔なる〕觜〔(くちばし)〕にして、腹の下、白く、反哺せざる者なり。狀〔(かたち)〕、慈鳥〔(からす)〕より大きく、性〔(しやう)〕、貪鷙〔(どんし)〕にして、鳥〔(とり)〕を好み、善く繒繳〔(いぐるみ)〕を避く。
肉【溫、臭。】 食ふべからず。止(たゞ)勞咳及び小兒の癇疾を治す[やぶちゃん注:最後は思うに「本綱綱目」にある「主治」の条の、処方部分を飛ばして病名だけを繋げた際、一部の字(具体的には「治疾」の「疾」で原典の「主治瘦病」の「瘦」を省略すべきところを採り、しかも「疾」と誤った)を誤判読したものと思われることから、「治疾」の「疾」を無視して書き下した。]。
[やぶちゃん注:珍しく、良安の評語がない。スズメ目カラス科カラス属ハシブトガラス Corvus macrorhynchos。本邦で単に「カラス」と言った場合は同属の前項の「慈烏」=ハシボソガラス Corvus
corone 或いは本種を指す。ウィキの「ハシブトガラス」から引く。『ユーラシア大陸東部(東洋区、旧北区東部)に分布する』。『日本では留鳥として、小笠原諸島を除き全国で、低地から山地まで幅広く分布する』。全長五十六センチメートル、翼開長一メートル、体重五百五十~七百五十グラム『ほどで、全身が光沢のある黒色をしており、雌雄同色。ハシボソガラスに似るが』、『やや大きく、嘴が太く上嘴が曲がっているところと、額(嘴の上)が出っ張っているところで判別できる。なお、突然変異で白い個体が出現することもあり、これはアルビノまたは白変種と考えられる』。『幼鳥は虹彩の色が青や灰色で、口の中もピンクであるなど、成鳥との外見的相違が目立つ』。『英名 "Jungle Crow" も示すように、元来は森林に住むカラスであり、現在も山間部など森林地帯に広く分布しているが、近年日本では都市部において急速に分布を拡げた』。『食性は雑食で、昆虫や木の実、動物の死骸など、あらゆるものを食べる。特に脂質を好み、石鹸や和蝋燭を食べることもある。また、小鳥やネズミなどの生きた小動物を捕食することもある。主に電柱や高木上など高所から地上を見下ろして餌を探し、餌を見つけると下りて行ってとり、高所に戻って食べる。鋭い嘴は、つつくだけでなく』、『咬む力にも優れており、肉なども引きちぎって食べることができる。生態が類似するハシボソガラスよりも肉食性が強い』。『産卵期は』四『月頃で、主に樹林内の大木に木の枝などを用いた巣を作り』二~五『卵を産む。抱卵日数は約』二十『日で、メスのみが抱卵する。雛への給餌は雌雄で行い、雛は孵化してから約』一『か月で巣立つ。その後約』一『か月は家族群で行動し、独立する。若鳥は約』三『年間』、『群れで行動し、その後』、『ペアで縄張りを構える』。『夜間』、『人が立ち入る事の無いよく茂った森に集団ねぐらをとる習性があり、冬期には特に多数が集まる』。『鳴き声は「カー、カー」と澄んでおり、ここでもハシボソガラス(少々濁る)と判別できる』。『頭のいいカラスは、雪を水の代わりに浴びる「雪浴び」や、アリを羽毛になすりつけたり、巣の上に伏せてアリにたからせる「蟻浴(アリの持つ蟻酸によって、ハジラミを退治している)」、銭湯の煙を浴びる「煙浴」など、いろいろな入浴方法を実践している』。『寿命は飼育下では約』二十『年、野生下では約』十『年とされる』。『前述のように元来は森林などに住む鳥であったが、近年都市化が進んだ日本では都市部においても分布を拡げており、「都会の鳥」としてのイメージが定着した』。『何でも食糧にしうるハシブトガラスにとって都市部は食糧が豊かであったこと、止まり木代わりになる構造物が入り組んでいること、また天敵となる猛禽類が住めなくなった事などが相まって、その数は激増し、早朝に群れで生ゴミを漁る光景や、洗濯物を干す針金製ハンガーを集めて営巣する様子などが各地で観察されるようになった』。『近年』、『都会で急激に数を増やしたのには、自治体により黒色のゴミ袋に代わり』、『透明・半透明のゴミ袋の使用が義務づけられたため、視覚に』よって『餌を探すカラスにとって』、『ゴミを漁りやすくなった事が原因の一つとして指摘されている』。『その対策として、ゴミ置き場にネット等を用いてカラスがゴミを漁れないようにする、夜間のゴミ収集を行い』、『カラスの行動する時間にゴミを残さないなどの方法』『がとられた』。『また』、二〇〇四年には、四色型『色覚であるカラスの目の特性を逆手にとり、紫外線を遮断する特殊な顔料(企業秘密)を混ぜ、カラスには中身をわからなくした黄色いポリエチレンのゴミ袋を、大倉工業と三井化学が宇都宮大学農学部杉田昭栄教授の協力で開発した。コストは従来のゴミ袋よりも高いが、大分県臼杵市や東京都杉並区などで試験的に導入されている』。『また、都市部では街路樹や電柱などでも営巣し繁殖を行うが、本能的に気性が荒くなりがちな』四~七『月の繁殖期においては、時に』、『巣の近くを歩く人間を攻撃(後頭部への蹴り)することもある』。『成鳥は滅多にトラップにかからないが、若鳥は経験不足と好奇心から捕まってしまう事がある』。『カラスは非常に知能の高い鳥で、トラップやカカシを見抜く。記憶力も高く、石や銃で狙われた経験があるものは、石を拾おうとしたり傘をライフルのように構えただけで逃げ出す。反面、幼鳥から飼い馴らしたカラスは人間に非常によく懐』(なつ)『き、トイレを覚えたり、飼い主の肩にとまって眉毛を丁寧に毛繕いしたり、さらにはキュウカンチョウ』(スズメ目ムクドリ科キュウカンチョウ属キュウカンチョウ Gracula religiosa)『のように人間の言葉を真似て喋ったりと、愛玩鳥として最も優れた特性を持つ』とある。
「反哺」前項「慈烏」で既出既注。
「貪鷙〔(どんし)〕」「鷙」は「荒い」の意(ワシ・タカ等の猛禽類を指す語でもある)。貪欲で獰猛なこと。
「鳥〔(とり)〕を好み」同じ鳥類を食うことを好み。
「善く繒繳〔(いぐるみ)〕を避く」「繒繳〔(いぐるみ)〕」は現行では「矰繳」が普通。「射(い)包(くる)み」の意で、飛んでいる鳥を捕らえるための仕掛けで、矢に網や長い糸を附けて、当たると同時にそれが絡みつくようにしたものを指す。それを巧みにかわすというのである。知能の高いカラスなればこそである。
「勞咳」結核。
「小兒の癇疾」「疳の虫」によって起こるとされた小児の神経症。「夜泣き」や「ひきつけ」などの発作症状が主体。]
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