和漢三才圖會第四十三 林禽類 加豆古宇鳥(かつこうどり) (カッコウ?)
かつこうとり 正字未詳
疑此郭公
加豆古宇鳥
△按狀似杜鵑及蟲喰鳥而帶微赤色腹白而無黑斑耳
脚指亦二前二後【僞爲杜鵑賣之】仲夏後有聲秋後聲止其聲は
大而圓亮如曰加豆古宇毎棲山林不近人家
*
かつこうどり 正字、未だ詳らかならず。
疑ふらくは、此れ、
「郭公〔(かつこう)〕」か。
加豆古宇鳥
△按ずるに、狀、杜鵑(ほとゝぎす)及び蟲喰鳥〔(むしくひどり)〕に似て、微赤色を帶ぶ。腹、白くして黑斑無きのみ。脚指も亦、二つは前、二つは後〔(うしろ)〕【僞りて杜鵑と爲して之れを賣る。】仲夏の後、聲、有り、秋の後、聲、止む。其の聲は大にして圓亮、「加豆古宇〔(かつこう)〕」と曰ふがごとし。毎〔(つね)に〕山林に棲み、人家に近づかず。
[やぶちゃん注:ともかく困る。困ってしまう。困っている。何故かというと、もう既に先行する「林禽類 鳲鳩(ふふどり・つつどり)(カッコウ)」で、それをカッコウ目カッコウ科カッコウ属カッコウ Cuculus canorus を同定比定してしまっているからなんである。まあ、良安自身が『疑ふらくは、此れ、「郭公〔(かつこう)〕」か』(「疑ふらくは~か」という連語とその呼応は「恐らくは・推測するに・多分」とその疑問や仮定・推察に相応に有意な分(ぶ)がある場合に用いることが多い)と言っているのであるから、困らなくてもいいと言えば、いいんだが、細かいところが気になってくる僕の悪い癖。「杜鵑(ほとゝぎす)及び蟲喰鳥〔(むしくひどり)〕に似」るというのは、良安が直前の「蟲喰鳥」で「ムシクイ」を同じカッコウ属のホトトギスに似ていると強引に言って呉れちゃってる(事実は私はそうは思わないのだが)ところからは誤魔化せる。「微赤色を帶ぶ」というのはカッコウの♀に赤褐色型はいることでクリアだが、「腹、白くして黑斑無きのみ」というのは困るだろ! カッコウで腹部が真っ白で横縞がないというのは、ちょっといないんじゃないかい? 遠目で観察者が目が悪いと白くは見えるがねぇ。「脚指も亦、二つは前、二つは後〔(うしろ)〕」」というのは「対趾足(たいしそく:zygodactyl:ザァィガァダァクトゥル:趾の内、第一趾と第四趾の二本が後方を向き、第二趾と第三趾の二本が前方を向く)という奴で、これはカッコウ目 Cuculiformes に特徴的であるからよい。季節も悪くない。良安が気に入っている鳥の有意に大きな、特徴的に響きのあるそれにしばしば用いる「圓亮」(東洋文庫版はここでは『さえてまろやか』とルビで応じている)もカッコウの鳴き声としては不満はない。「加豆古宇〔(かつこう)〕」のオノマトペイアも申し分ない。「毎〔(つね)に〕山林に棲み、人家に近づかず」のもカッコウらしい。しかし、じゃあ、なんでこんなところに独立項をわざわざ立てちゃったんだろう? という疑問が消えない。しかもお馴染みの「本草綱目」に従ったわけでもなく、明らかに本邦産の鳥という触れ込みで登場している。だが、冒頭から「かつこうどり」だけど、「正字、未だ詳らかならず」と弱気。「どんならん!」何か、追記出来そうな何かを向後も捜してはみる。]
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