佐々木(鏡石)喜善・述/柳田國男・(編)著「遠野物語」(初版・正字正仮名版) 八三 山口大洞家のこと
八三 山口の大同、大洞萬之丞の家の建てざまは少しく外の家とはかはれり。其圖次の頁に出す。玄關は巽(タツミ)[やぶちゃん注:南東。]の方に向へり。極めて古き家なり。此家には出して見れば祟ありとて開かざる古文書の葛籠(ツヾラ)一つあり。
[やぶちゃん注:以下、底本の国立国会図書館デジタルコレクションの画像をトリミングして示し、キャプションその他を注する。まず、この家の門は略されているが、どうも前の田尻家の「曲り家」に準ずるならば、上(「イ」の玄関が巽であるからには東北)にある庭(坪前)の先を左に抜けた川の上端外に橋があり、その内側に門があると読まねばならない。則ち、門は北西を向いていることになる。面白いのはそうなると、同じ面の南に裏口があるということになるが、これは「裏口」と言っても内部の直近(下部)「臺所」(厨房)の「勝手口」であるから、特に不審はない。
「ロ 前の口」は田尻家と同じく主人以外の家人の出入り通用口。
「ト ウチノ爐」「内の爐(ろ)」で炊事の竃(かまど)。
「オンニヤ(御庭)」「ちくま文庫」版全集では拗音化されて『オンニャ』とする。
「ホラ前」既出の例の母屋と厩との接合部の屋根の谷の部分及びその前の部分を指す「洞前」。
「据釜」田尻家の「馬ノカマ」と同性質のものであろう。土間全体を保温する効果もありそうに見える。その土間の「裏口」の手前になる梯状のものが不審だが、これは可動(取り外し可能)の常居と台所を給仕の際などに素足で行き来出来るようにした板敷きの簡易通路ではないかと私には思われる。
「セドノ口」「背戶の口」(家の後ろの出入り口・裏口の意)。これが真正のこの家の文字通りの「裏口」である。]
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