和漢三才圖會卷第四十四 山禽類 鷸子(つぶり・つぐり) (チョウヒ・ハイイイロチョウヒ)
つぶり
つぐり
鷸子
【和名都布利
俗云都具利】
△按鷸子鷂之屬也形色似鳶而小有白彪
白鷸子 狀稍小而頭背灰色有白彪腹白翮本白末黒
尾灰色有白黑斑彪共造箭羽
於乃宇倍【正字未勘】 鷸子之屬狀似鳶而翮有白彪尾淡赤
有黑彪
*
つぶり
つぐり
鷸子
【和名、「都布利」。
俗に云ふ、「都具利」。】
△按ずるに、鷸子〔(つぶり)〕は鷂(はいたか)の屬なり。形・色、鳶に似て、小さく、白彪(しらふ)有り。
白鷸子〔(しろつぶり)〕 狀〔(かた)〕ち、稍〔(やや)〕小にして、頭・背、灰色、白彪有り。腹、白く、翮〔(はねくき)〕の本〔(もと)は〕白、末〔(さき)は〕黒。尾〔は〕灰色〔にして〕白黑斑〔(しろくろまだら)〕の彪〔(ふ)〕有り。共に箭羽〔(やばね)〕に造る。
於乃宇倍〔(おのうへ)〕【正字、未だ勘〔(かんが)へず〕。】 鷸子の屬。狀、鳶に似て、翮〔(はねくき)〕に白き彪〔(ふ)〕有り。尾、淡赤〔にして〕、黑き彪、有り。
[やぶちゃん注:幾つかの事項を綜合すると、これは、主文部分はタカ目タカ科チュウヒ属チュウヒ
Circus spilonotus ではないかと推定する。属名「キルクス」はラテン語由来のギリシャ語でタカの一種を指すが、これは「circus」(「輪」)の意で、円を描いて飛ぶことに由来している。ウィキの「チュウヒ」によれば、漢字表記は「沢鵟」、和名は『「宙飛」が由来とされているが、実際は低空飛行を得意とし、一方』、『「野擦」が由来とされているノスリ』((タカ科ノスリ属ノスリ
Buteo japonicus)『)『はチュウヒよりも高空を飛翔することが多いため、この両者は名前が入れ替わって記録されているという説がある』。『主な繁殖地は北アメリカ大陸北部やユーラシア大陸北部。冬になると』、『越冬のために南下する』。『日本には越冬のために飛来する冬鳥。かつては北海道や本州北部で繁殖していたが、現在では中部地方・近畿地方・中国地方でも繁殖が確認されている』。オスは全長四十八センチメートル、メスは五十八センチメートルで、他の鷲鷹類と同様に『メスの方が大型になる』(タカ科トビ亜科トビ属トビ亜種トビ Milvus migrans
lineatus の全長は六十~六十五センチメートルで明らかにトビよりもチュウヒは遙かに小さい)。『体色は地域や個体による変異が大きい』(太字下線やぶちゃん。以下同じ)。『オスは頭部、背面、雨覆、初列風切羽の先端は黒い。腹部の羽毛は白い。尾羽の背面(上尾筒)には白い斑紋がある。メスや幼鳥は全身が褐色の羽毛に覆われる。腹面は淡褐色で褐色の斑紋が入る』。『草原や湿地、ヨシ原等に生息する』。『食性は肉食性で、魚類、両生類、爬虫類、鳥類やその卵、小型哺乳類等を捕食する。地上付近を低空飛行し、獲物を探す』。『ヨシ原等の地上に枯れ草を積み重ねた巣を作り』五~六月に四~六『個の卵を産む。抱卵日数は約』三十五『日で、主にメスが抱卵する。雛は孵化後、約』三十七『日で巣立つ』。『なお、冒頭でチュウヒとノスリの名が入れ替わっている可能性の説がある旨』を述べたが、『一方で』、『以下の理由から』、『それぞれ生態通りの名の可能性も高い。まず』、『チュウヒは、狩りの際にはV字翼で低空を低速で飛行する事が多いが、繁殖期のペアリングの際に中空を舞うように飛行する(宙飛)事が知られている。 一方でノスリは、通常の際にはチュウヒより高空を飛ぶが、狩りの際には野を擦る様に地表すれすれを匍匐飛行して攻撃する(野擦)事が知られている』。『チュウヒは、垂直離着陸可能な唯一の猛禽であるともされている。イギリスのBAE(旧ホーカーシドレー)製の、ハリアーVTOL(垂直離着陸)戦闘爆撃機の名前は、このチュウヒの能力から名づけられたと思われる』とある。チュウヒは高くなく、低空でもない高度を飛ぶ「中飛」かも知れない。
「鷂(はいたか)」タカ目タカ科ハイタカ属ハイタカ Accipiter nisus。既に独立項で出た。しかし、面倒なことに(同種は古くは「はしたか」と呼んだ)、ハイタカには「つぶり」の異名があった。これは小学館の「日本国語大辞典」で確認した(なお、「つぶり」は御察しの通り、全くの別種であるカイツブリ目カイツブリ科カイツブリ属カイツブリ亜種カイツブリ Tachybaptus ruficollis poggei の別称ともする)。
「白鷸子〔(しろつぶり)〕」これはタカ目タカ科チュウヒ属ハイイロチュウヒ亜種ハイイロチュウヒ Circus cyaneus cyaneusである(種小名「キュアネウス」は「青色の」の意)。サイト「馬見丘陵公園の野鳥」の「ハイイロチュウヒ」を見ると、体長は♂で四十三センチメートル、♀で五十三センチメートルで、『ヨーロッパ・アジア北部・北アメリカ北部で繁殖し、冬季は南方へ渡る』。『日本では、亜種ハイイロチュウヒ』『が冬鳥として全国に渡来するが』、『局地的で、個体数はチュウヒより少ない。特に雄の成鳥は少ない。平地から山地の草原、農耕地、芦原、干拓地に生息し、翼をV字型に保って、羽ばたきと滑翔(グライディング)を繰り返し、草や葦の上を低く飛ぶことが多い。停空飛翔(ホバリング)もよく行う。主に齧歯類などを捕食するが、小鳥類も捕食する。時に上昇気流にのって高く飛ぶことがあり、そのときは尾を広げている』。『亜種ハイイロチュウヒの他、亜種キタアメリカハイイロチュウヒ』Circus
cyaneus hudsonius『の記録がある』とされ、声は『「ピイヨピイヨ」「ケッケッ」などと鳴く』とある。そして、異名として「コシジロタカ」「ヲノウヘ」「オジロ」を掲げられた最後に「シロツブリ」とあるのである。『ハシボソガラス』(スズメ目カラス科カラス属ハシボソガラス Corvus corone)『と同大かやや小さい』。♂の成鳥は『頭部からの上面と顔から胸までが灰色で、体下面は白い。翼下面は外側初列風切が黒く、翼後縁は帯状に灰黒色。それ以外は白いため、飛翔時はコントラストがあり』、『特徴的』で、♀の成鳥は『全体に暗灰褐色で、頭頸部、腹に褐色の縦斑がある。眉斑と頬は白く、顔盤にそって白線がある。風切と尾は灰褐色で、明瞭な暗褐色の横帯が』三~五『本ある。体下面はバフ色で、暗褐色の縦斑がある』。『♀♂とも』に『上尾筒が白色で虹彩が黄色』。幼鳥は♀の『成鳥に酷似するが、上面がより暗色で体下面や下雨覆などは橙色味を帯びる。翼下面の横帯は不明瞭で、虹彩が暗褐色』とある。この記載から見るに、良安が記載しているのはハイイロチョウヒの♂の成鳥ではないかと私は思う。なお、同サイト主もここで「チュウヒ」を「中飛」としておられる。
「於乃宇倍〔(おのうへ)〕」前注参照。ハイイロチュウヒの異名である。ここは大きさと色からみて、ハイイロチュウヒの♀の成鳥ではなかろうか。
「正字、未だ勘〔(かんが)へず」ハイイロチュウヒは上尾筒が白色であることから、この和名はその色を指した「尾上」ではなかろうか(但し、その場合は「をのうへ」になるから、漢字は「於」では誤りとなるから違うか)。]
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