アリス蘇生夢
今朝方の夢――
私は妻と、蟻地獄の底のような場所の古びた一つの民家に住んでいる。
[やぶちゃん注:阿部公房の「砂の女」(一九六二年発表)の勅使河原宏監督の映画版(一九六四年公開)によく似ていた。しかし全体は黒澤明の「どん底」(一九五七年)のそれに近い。]
底の地中には温泉があって、気がつくと、私の家の脇には大きな古びた湯治宿も建っていたりする。温かく、その引火性のガスが宿部屋に配された筒状の人工の噴気孔から噴き出していたりするのである。私はその大部屋に入って行くのだが、その焰を強くし過ぎて、その脇にあった布団の白いカバーの一部を黒焦げにしてしまった。私はそれを仲居の、和服日本髪の少女に謝りながら告げると、少女は、
「そういうことはよくあるのであります。」
と言って微笑して、手際よく、そのカバーを外して、取り替えて呉れるのであった。
[やぶちゃん注:それはもう、言わずもがな、つげ義春の漫画にそっくりな少女とシチュエーションの映像なのであった。]
私は私の家を改築をしようと、建具などを出し入れしている。合間に、外に出した古いレコード・プレイヤーのカートリッジを替えて(途中、ウェイトが重過ぎて、針が上がり気味なのが気になるのだが、レコードはかけられた)何かのレコードをかけて聴いたりもしている。
[やぶちゃん注:残念なことに、そのレコードが誰の何だったのかをどうしても思い出せない。因みに、私のレコード・プレーヤーは、十年以上前、ターン・テーブルの回転ムラが起こるようになって以来、一度も使っていない。七百枚以上はあるレコードはそのまま死蔵している。これは昨日の夕刻、レコードを売らないかというその手の業者から電話があったのが直接には起因であろう。無論、断った。]
私は崩れた外周の一部の斜面を掘っている。上部にはアスファルトの断面がある。してみれば、ここは地震によって生じた陥没地帯であるらしい。
――そのアスファルトと砂の間から、一昨年、埋葬した三女のアリスの姿が見えた。
[やぶちゃん注:実際には動物葬祭業者に火葬にして貰っている。但し、二女のアリスは私の家の梅の木の脇の枇杷の下に、母と私と二人で埋葬した。]
しかし、彼女の姿は遺体ではなく、生きているのであった。
私が手を添えると、眼を開き、首を回して、私の手を舐めるのであった。
傍で穴掘りを手伝って呉れていた獣医の先生が応急処置をして、彼女はすっかり元のアリスに戻ったのであった。
[やぶちゃん注:この実在する家の近くの先生が、私が望んだ三女アリスの安楽死の処置をして下さった。]
最後のシーンで私は、そこを出て、アリスを散歩させていたから。
アリスは、まだ、勘が戻らないのか、時々、無暗に突進して人家の壁にぶつかって、コロンと転げては、尻尾を振って、私の元へと走って来たりするのであった……
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