蒲原有明 有明集(初版・正規表現版) 灰色
灰 色
なべてのうへに灰(はい)いろの
靄(もや)こそ默(もだ)せ、日(ひ)の終(をはり)、
その灰(はい)いろに彩(あや)といふ
彩(あや)の喘(あへ)ぎを聞(き)くごとし。
冷(つめ)たく重(おも)き冬(ふゆ)の靄(もや)、
あな、わびしらや、戀(こひ)も世(よも)も
宴(うたげ)も人(ひと)もひと色」(いろ)に、
信(しん)も迷(まよひ)も身(み)も靈(たま)も。
死(し)の林(はやし)かとあらはなる
木立(こだち)の枝(えだ)のふしぶしは
痛(いた)みぬ、風(かぜ)に――悔(くい)の音(おと)、
執着(しふぢやく)の靄(もや)灰色(はいいろ)に。
過(す)ぎ去(さ)りし日(ひ)の過(す)ぎもかね、
忘(わす)れがてなるわが思(おもひ)、
朧(おぼろ)のかげのゆきかひに
をののかれぬる冬の靄(もや)。
[やぶちゃん注:総ての「灰」の「はい」というルビはママ。後の「晩秋」と「人魚の海」にも「灰」が出るが、一貫して「はい」とルビしているから、誤植ではなく、有明のこの時期の癖であった可能性も射程に入れておく必要がある。]
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