和漢三才圖會卷第四十四 山禽類 風鳥(ふうちやう) (フウチョウ)
ふうちやう
風鳥
△近來來番舶風鳥狀類烏鳳【三光鳥】而頭黃頰頷黒背翅
及腹紫黒色脚如鼠而尾上紫下黃似亂芒穗毎不棲
林木居巖洞而不能飛有風則乘風飛舞無食餌向風
開口吸氣云云此亦未見活者巧手以美羽造成且譎
說其行勢者乎
*
ふうちやう
風鳥
△近來(〔ちか〕ごろ)、番〔→蕃〕舶〔(ばんはく)〕に〔て〕來たる。風鳥、狀〔(かた)〕ち、烏鳳〔(うほう)〕に類す【三光鳥。】而〔して〕、頭、黃。頰・頷〔(あご)〕、黒。背・翅及び腹、紫黒色。脚は鼠のごとくにして、尾は、上、紫、下、黃にして、亂れたる芒(すゝき)の穗(ほ)に似たり。毎〔(つね)〕に林木に棲まず、巖洞〔(がんどう)〕に居りて、飛ぶこと、能はず。風有れば、則ち、風に乘り、飛び舞ふ。食餌〔すること〕無し。風に向ひて口を開きて、氣を吸ふ云云〔(うんぬん)〕。此れも亦、未だ活きたる者を見ず。巧手〔(こうしゆ)〕、美しき羽を以つて、造成して、且(そのう)へ、其の行-勢(ありさま)を譎(いつは)り說く者か。
[やぶちゃん注: 「比翼鳥」の注で出した、ニューギニア島を中心とし、周辺の島々とオーストラリア東部に約四十種が分布する、
スズメ目スズメ亜目カラス上科フウチョウ(風鳥)科
Paradisaeidae のフウチョウ類
(前に述べた通り、「ゴクラクチョウ」の異名総称があるが、これは標準和名ではない)の総称である。良安は舶来の剥製品を見、その羽のあまりの煌びやかさから、前の比翼鳥同様、完全な人造捏造物と推定しているが、これに関しては実在する鳥である。小学館「日本大百科全書」の「ふうちょう/風鳥/bird-of-paradise」によれば、『ゴクラクチョウ(極楽鳥)の名で有名なこの類は、羽色や飾り羽と繁殖習性の点で非常に多様であるが、そのほかの点では互いにあまり違いがない。すべて森林の樹上性で、一部の種の繁殖に関する集まり以外は』、『単独か』、『つがいで生活し、小果実を主食とするが、昆虫やアマガエルやトカゲも食べる雑食性の鳥である。体の大きさはスズメ大からカケス大であるが、尾羽が非常に長くて全長』一『メートルに達する種もある。なお、ゴクラクチョウの語は、狭義にオオフウチョウ類だけをさす場合や、ニワシドリ類を含めて広義に使われたりすることもある』。『この類は全長』十三~一メートル十五センチメートルで、約四十種のうち、凡そ五分の一は、『全身黒色で』、『飾り羽などをもたず、雌雄同色で一雌一雄で繁殖し、雄も育雛(いくすう)をする。これらの点で』は、『ほかの多くの鳥と異ならない。しかし、残る』五分の四は『雌雄異色で、雌は』地味『な羽色であるが、雄はそれぞれ独特な飾り羽を頭部、頸』『部、胸側部などにもち、また長い尾(ときに中央尾羽のみ)や肉垂れをもつものもあり、大半の種では雌に比べて著しくはでな羽色をしている。このなかでは』フウチョウ科フウチョウ属コフウチョウ Paradisaea minor (小風鳥。羽衣が海老茶色を呈し、黄色い冠羽、背面は褐色がかった黄色。♂の喉はエメラルド・グリーンで、脇には黄色い飾り羽を有し、尾羽は針金のように伸びている。♀の頭部は暗褐色で、下面は白っぽい色をしている。英名 Lesser Bird of Paradise。グーグル画像検索「現英名 Lesser Bird of Paradise」をリンクさせておく。私が幼少期に短期間住んでいた親戚の家にはこの鳥の大きな剥製があった)『などフウチョウ属の鳥がもっとも華麗でよく知られている。これらの種の雄は、現在知られている限りでは、繁殖期になるとそれぞれ一定のよく目だつ枝を占有したり、こずえの葉をむしって裸の枝をつくったり、地表の落ち葉やコケを清掃して径』二~三『メートルの地面を裸出させたりして』、『踊り場をつくり、そこで長期間にわたり』、『大声で鳴く。そしてそこに雌がやってくると』、『さまざまなポーズで踊り、ディスプレーをする。雌はこれらの踊り場を次々に訪問して気に入った相手を探し、また雄は次々に訪れる雌を相手にするので、雌雄関係は乱婚的である。雌は交尾後に単独で巣をつくって雛』『を育て、雄はそれをいっさい』、『手助けしない。雄の踊り場は普通は互いに声の聞こえる程度に離れているが、かなり近くに集まっている種もあり、オオフウチョウ』フウチョウ属オオフウチョウ Paradisaea apoda(英名Greater Bird-of-paradise:本邦では本種を狭義に「極楽鳥」と呼ぶことがあるようであるグーグル画像検索「Greater
Bird-of-paradise」をリンクさせておく)『では』一『本の大きな木のこずえに十数羽の雄の踊り場が集まっていることがある』。十六世紀の『ヨーロッパ社会に』、『初めてオオフウチョウ』『がもたらされたとき、それは交易用に足をとった標本であった。そこで、この鳥は』、『生涯』、『枝に止まることなく』、『風にのって飛んでいるという、聖書の「天国の鳥」であると考えられた。これが欧名の由来であり、風鳥、極楽鳥という和名はこの欧名に由来する。フウチョウ類の美しい飾り羽は、その後欧米人に装飾として珍重され、欧米への輸出は』一九〇〇『年前後の最盛期には年間』八『万羽以上に上った。しかし』一九一〇『年代以降』、『各国が次々に輸入を禁止し、現在では産地からの輸出と原住民以外の狩猟も禁止されている』とある。なお、ウィキの「フウウチョウ科」の「系統と分類」によれば、『カラス上科の中でフウチョウ科など』七『科が単系統を形成するが、それらの系統関係は不確実で』、『フウチョウ科・モズ科 Laniidae・オオツチスドリ科 Corcoracidae が単系統を』成すとする説、『もしくはフウチョウ科とカササギヒタキ科 Monarchidae が近縁である(ただしモズ科はサンプリングされていない)』『とする説がある』とあり、『フウチョウ科は』五『つの系統に別れ、基底から順に』Clade AからEまでの仮称がなされてある(「クレード」は「分岐群」の意)。詳しい分岐と属と種はリンク先を見られたい。各種フウチョウ類の驚くべき美しさとその生態動画とはサイト「WIRED」の「華麗なる、極楽鳥たちの世界」を見るに若くなし!
「近來(ちかごろ)、蕃舶にて來たる」既注であるが、再掲しておくと、近年、南蛮貿易に於ける異国からの貿易船が、本邦に多数(雌雄をかく良安が正確に観察出来るのはかなりの量のそれが流入したことを物語っている)の「風鳥」の剥製を齎(もたら)している、というのである。
「烏鳳(うほう)に類す【三光鳥。】」ここは鳥体から、現行がその正式和名である、スズメ目カササギヒタキ科サンコウチョウ属サンコウチョウ Terpsiphone atrocaudata と採ってよい(グーグル画像検索「Terpsiphone
atrocaudata」)。以前に述べたが、本邦ではその鳴き声を「月日星(つきひほし)」とオノマトペイアすることから、スズメ目アトリ科イカル属イカル Eophona personata をも「三光鳥」と呼ぶことが普及してしまっているが、逆立ちしても良安がイカルのことを言っているとは思われない。イカルを知らぬ方は、グーグル画像検索「Eophona personata」を、どうぞ。
「亂れたる芒(すゝき)の穗(ほ)に似たり」この表現、言い得て妙と思う。
「毎〔(つね)〕に林木に棲まず、巖洞〔(がんどう)〕に居りて、飛ぶこと、能はず」風に合わせた、まさにデッチアゲの風説である。
「食餌〔すること〕無し。風に向ひて口を開きて、氣を吸ふ」同前。昆虫食をするが、思うに、それほど上手く飛ぶようには思われないから、ヨタカのように飛翔して口を開けて昆虫を捕食するようには思われない。流石に良安先生も、「其の行-勢(ありさま)」(生態)「を譎(いつは)り」(「偽る」に同じ)「說く者か」と眉に唾しておられる。鳥体捏造は外れですが、この後半部の指摘は確かに正鵠を射ておられます! 先生!]
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