和漢三才圖會卷第三十七 畜類 起動 / 総論部・目録
寺島良安「和漢三才図会」の「巻三十七 畜類」の電子化注を、新たにブログ・カテゴリ「和漢三才圖會 畜類」を起こして始動する。
私は既に、こちらのサイトHTML版で、
卷第四十 寓類 恠類
及び、
卷第四十五 龍蛇部 龍類 蛇類
卷第四十六 介甲部 龜類 鼈類 蟹類
卷第四十七 介貝部
卷第四十八 魚部 河湖有鱗魚
卷第四十九 魚部 江海有鱗魚
卷第五十 魚部 河湖無鱗魚
卷第五十一 魚部 江海無鱗魚
及び
卷第九十七 水草部 藻類 苔類
を、また、ブログ・カテゴリ「和漢三才圖會 蟲類」で、
卷第五十二 蟲部 卵生類
卷第五十三 蟲部 化生類
卷第五十四 蟲部 濕生類
を、更に最も新しいものとして、ブログ・カテゴリ「和漢三才圖會 鳥類」で、
卷四十一 禽部 水禽類
卷四十二 禽部 原禽類
卷四十三 禽部 林禽類
卷四十四 禽部 山禽類
を完全電子化注している。余すところ、同書の動物類は「卷三十七 畜類」「卷三十八 獸類」「卷三十九 鼠類」となった。思えば、私が以上の中で最初に電子化注を開始したのは、「卷第四十七 介貝部」で、それは実に十二年半前、二〇〇七年四月二十八日のことであった。当時は、偏愛する海産生物パートの完成だけでも、正直、自信がなく、まさか、ここまで辿り着くとは夢にも思わなかった。それも幾人かの方のエールゆえであった。その数少ない方の中には、チョウザメの本邦での本格商品化飼育と販売を立ち上げられながら、東日本大地震によって頓挫された方や、某国立大学名誉教授で日本有数の魚類学者(既に鬼籍に入られた)の方もおられた。ここに改めてその方々に謝意を表したい。
総て、底本及び凡例は以上に準ずる(「卷第四十六 介甲部 龜類 鼈類 蟹類」を参照されたい)が、HTML版での、原文の熟語記号の漢字間のダッシュや頁の柱、注のあることを示す下線は五月蠅いだけなので、これを省略することとし、また、漢字は異体字との判別に迷う場合は原則、正字で示すこととする(この間、文字コードの進歩で多くの漢字を表記出来るようになったのは夢のようだ)。また、私が恣意的に送った送り仮名の一部は特に記号で示さない(これも五月蠅くなるからである。但し、原典にない訓読補塡用の字句は従来通り、〔 〕で示し、難読字で読みを補った場合も〔( )〕で示した。今までも成した仕儀だが、良安の訓点が誤りである場合に読みづらくなるので、誤字の後に私が正しいと思う字を誤った(と判断したもの)「■」の後に〔→□〕のように補うこともしている(読みは注を極力減らすために、本文で意味が消化出来るように、恣意的に和訓による当て読みをした箇所がある。その中には東洋文庫版現代語訳等を参考にさせて戴いた箇所もある)。原典の清音を濁音化した場合(非常に多い)も特に断らない)。ポイントの違いは、一部を除いて同ポイントとした。本文は原則、原典原文を視認しながら、総て私がタイプしている。活字を読み込んだものではない(私は平凡社東洋文庫版の現代語訳しか所持していない。但し、本邦や中文サイトの「本草綱目」の電子化原文を加工素材とした箇所はある)。【2019年2月7日始動 藪野直史】
和漢三才圖會卷第三十七目録
畜類
△按四足而毛者總名曰獸【和名介毛乃】豢養者曰畜【和名介太毛乃】
周禮曰庖人掌六畜【馬牛羊豕犬雞】六獸【麋鹿狼麕野豕免】辨其死生
鮮薨之物也鮮者【與鱻同】新肉也薨【音考】乾肉也
日本紀云天武天皇四年四月詔曰自今以後莫食牛馬
犬猿雞之完以外不在禁例若有犯者罰罪之
五雜組云馬無膽麋亦無膽兔無脾猿亦無脾豚無筋猬
亦無筋
獸莫仁於麟莫猛於狻猊【卽獅子】莫巨於䝟貐【其長百尺】莫速
於角端【日行一萬八千里】莫力於𥜿𥜿莫惡於窮奇【食善人不食悪人】
麟之長百獸也以仁獅子之服百獸也以威鳳之率羽族
也以德鸇之懾羽族也以鷙然麟鳳爲王者之祥獅鸇
禁禦之玩也 獅子畏鉤戟虎畏火象畏鼠狼畏鑼
說苑云鵲食猬猬食鵕䴊鵕䴊食豹豹食駮駮食虎
玄龜食蟒飛鼠斷猨狼虱喫鶴黃腰獸食虎皆以小制
大也
說文云犬性獨也羊性羣也鹿性麤也狐性孤也埤雅云
狐性疑疑則不可以合類故從孤省
抱朴子云千歳之狐豫知將來千歳之貍爲好友千歳
之猿變爲老人
*
和漢三才圖會卷第三十七目録
畜類
△按ずるに、四足にして毛ある者、總名を「獸(けもの)」と曰ふ【和名、「介毛乃」。】。豢(やしな)ひ養(か)ふ者を「畜(けだもの)」と曰ふ【和名、「介太毛乃」。】「周禮〔(しうらい)〕」に曰はく、『庖人〔(はうじん)〕、六畜〔(りくちく)〕【馬・牛・羊・豕〔(ぶた)〕・犬・雞〔(にはとり)〕】・六獸【麋〔おほじか/へらじか〕・鹿・狼・麕〔(のろじか)〕・野豕〔(ゐのこ/ゐのしし〕・免〔(うさぎ)〕】を掌(つかさど)る。其の死生鮮薨〔(しせいせんこう)〕を〔→の〕物を辨〔(わきま)〕ふるなり』〔と〕。「鮮」とは【「鱻」と同じ。】「新しき肉」なり。「薨」【音、「考」。】は「乾肉」なり。
「日本紀」に云はく、『天武天皇四年[やぶちゃん注:六七五年。]四月、詔(みことのり)して曰〔(のたま)〕はく、今より以後、牛・馬。犬・猿・雞の完(しゝ)[やぶちゃん注:肉。]を食ふこと莫〔(な)〕かれ。以(こ)の外〔(ほか)〕は禁例に在らず。若〔(も)〕し、犯す者有らば、之れを罪(つみな)へ』〔と〕。
「五雜組」に云はく、『馬には膽〔(たん)〕無く、𪋛〔くじか〕も亦、膽、無し。兔〔(うさぎ)〕には脾〔(ひ)〕無く、猿も亦、脾、無し。豚(ゐのこ)には筋〔(すぢ)〕は無く、猬(はりねずみ)も亦、筋、無し』〔と〕。
獸は「麟(りん)」より仁〔(じん)〕なる莫〔(な)〕く、「狻猊(からじゝ)」【卽ち、獅子〔なり〕。】より猛(たけ)きは莫し。「䝟貐〔(あつゆ)〕」より巨〔(おほ)〕きなるは莫く【其の長〔(た)〕け百尺[やぶちゃん注:「五雜組」の記載であるから(但し、この注は原文(にはないから良安のそれか後代の注である。文末の注を参照)、明代の一尺は三十一・一センチメートルなので、三十一メートル十センチとなる。]。】、「角端」より速(はや)きは莫し【日に行くこと、一萬八千里[やぶちゃん注:同じように(これは注として確認出来たが、そこでは「一萬里」とあった)、明代の一里は五百五十九・八メートルしかないから、一万七十六キロメートル相当。]。】。𥜿𥜿(ひひ)より力あるは莫く、窮奇〔きゆうき〕より惡なるは莫し【善人を食ひ、悪人を食はず。】。
麟の百獸に長たるは、仁を以つてなり。獅子の百獸を服するや、威を以つてなり。鳳の羽族を率(ひきふ)るは、德を以つてなり。鸇(たか)の羽族を懾(おひかく)るは、鷙〔(しつ)〕[やぶちゃん注:猛禽。]を以つてなり。然るに、麟・鳳は、王者の祥〔(きざし)〕なり。獅・鸇は禁禦〔(きんぎよ)〕[やぶちゃん注:禁裏。宮廷。]の玩(もてあそ)びなり。 獅子は鉤戟〔(こうげき)〕を畏れ、虎は火を畏れ、象は鼠を畏れ、狼は鑼〔(どら)〕を畏る。
「說苑〔(ぜいゑん)〕」に云はく、『鵲〔(かささぎ)〕は猬(けはりねずみ)を食ひ、猬は鵕-䴊(にしきどり)を食ひ、鵕䴊は豹を食ひ、豹は駮(はく)を食ひ、駮は虎を食ふ』〔と〕。
玄龜〔(げんき)〕は蟒〔(うはばみ)〕を食ひ、飛鼠〔(ひそ)〕は猨〔(さる)〕・狼を斷(た)ち、虱〔(しらみ)〕は鶴を喫〔(きつ)〕し、黃腰獸〔(こうようじう)〕を虎を食ふは、皆、小を以つて大を制すなり』〔と〕。
「說文〔(せつもん)〕」に云はく、『犬〔の〕性〔(しやう)〕は獨(ひとり)なり。羊の性は羣(むらが)るなり。鹿の性は麤(あらけ)きなり。狐の性は孤(ひとり)なり』〔と〕。「埤雅〔(ひが)〕」に云はく、「狐の性、疑〔なり〕。疑ふときは、則ち、以つて合類〔(がふるい)〕すべからず。故に、「孤」の省(はぶ)くに從ふ』〔と〕。[やぶちゃん注:最後の部分は「孤」の字を省く(「子」を取って(けものへん)を添えた字としたのである、の意。]
「抱朴子」に云はく、『千歳の狐は、豫(あらかじ)め、將-來(ゆくすゑ)を知る。千歳の貍(たぬき)は、好-友(ともだち)と爲〔(な)〕る。千歳の猿は變じて老人と爲る』〔と〕。
[やぶちゃん注:「獸(けもの)」「毛つ(の)物」「毛生る物」等の略という。
『豢(やしな)ひ養(か)ふ者を「畜(けだもの)」と曰ふ』本義は「けもの」と同じであるが、小学館「日本国語大辞典」の「けだもの」の意の二番目に『特に家畜をいう』とあり、典拠を源順の「和名類聚鈔」等を挙げているから、古くからこの使用区別はあったものらしい。「豢」は「養」と同じで「やしなう」であるが、特に「家畜を飼う」の意がある。
「周禮」中国最古の礼書の一つ。「しゆらい(しゅらい)」とも読み、「周官」とも書く。「礼記(らいき)」「儀礼(ぎらい)」と合わせて「三礼(さんらい」と称し、周公旦の撰と伝え、周代の行政制度を記述したもの。秦の焚書に遇ったが、漢代に五編が発見され、「考工記」を補って六編とした。
「庖人〔(はうじん)〕」王の食用に供するものを調理する官人。
「麋〔おほじか/へらじか〕」「大きな鹿」の意の他に、種としての哺乳綱獣亜綱鯨偶蹄目反芻亜目シカ科オジロジカ亜科ヘラジカ属ヘラジカ(箆鹿)Alces
alces をも指す。同種は別名を「オオジカ」と称し、中国東北部にも棲息するので、同種と採っても問題はないが、まあ、見た目の大鹿でよかろうか。
「鹿」シカ科 Cervidae に属するシカ類の現生種は世界で約十七から十九属に、三十数種がいる。
「狼」哺乳綱食肉(ネコ)目イヌ亜目イヌ科イヌ亜科イヌ属タイリクオオカミ Canis lupus。ウィキの「オオカミ」によれば、現存する亜種は、長く、三十三(絶滅含めて三十九亜種)に分類されてきたが、近年の研究では、現存十三亜種・絶滅二『亜種への統合が提案されている』とある。中国産亜種はユーラシア北端部に分布するとされる、Canis
lupus albus(ツンドラオオカミ/シベリアオオカミ)・Canis
lupus lupus(ヨーロッパオオカミ/チョウセンオオカミ:シベリアオオカミとも呼ぶので前者と同一と主張する考えがあるか)を挙げておけばよいか。
「麕〔(のろじか)〕」シカ科オジロジカ亜科ノロジカ属ノロジカ Capreolus capreolus。漢字表記は多数あり、「麞鹿」「麇鹿」「獐鹿」(或いはそれらから「鹿」を取った単漢字)等がある。「ノロ」「ノル」とも呼び、これは朝鮮語で同属のシベリアノロジカ Capreolus pygargusを指す「노루」(ノル)に基づく。ノロジカ属の現生種はこの二種のみである。
「野豕〔(ゐのこ/ゐのしし〕」鯨偶蹄目イノシシ亜目イノシシ科イノシシ属イノシシ Sus scrofa。先の「五畜」の「豕」は本種が家畜化された、イノシシ属イノシシ亜種ブタ Sus scrofa domesticus である。
「免〔(うさぎ)〕」兎形(ウサギ)目ウサギ科ウサギ亜科 Leporinae。
「死生鮮薨〔(しせいせんこう)〕」対象獣類の生死の判別と、その肉の状態(生の新鮮な肉か、干し肉(脯)か)の識別。
『「日本紀」に云はく……』以下は、「日本書紀」の天武天皇四(六七五)年四月庚寅十七日の条。
*
庚寅。詔諸國曰。自今以後、制諸漁獵者。莫造檻穽及施機槍等之類。亦四月朔以後、九月三十日以前。莫置比滿沙伎理梁。且莫食牛・馬・犬・猿・鷄之完。以外不在禁例。若有犯者罪之。
*
「罪(つみな)へ」「つみなふ」は「罪なふ」という他動詞ハ行四段活用で、「処罰・処刑せよ」の意。
「五雜組」「五雜俎」とも表記する。明の謝肇淛(しゃちょうせい)が撰した歴史考証を含む随筆。全十六巻(天部二巻・地部二巻・人部四巻・物部四巻・事部四巻)。書名は元は古い楽府(がふ)題で、それに「各種の彩(いろどり)を以って布を織る」という自在な対象と考証の比喩の意を掛けた。主たる部分は筆者の読書の心得であるが、国事や歴史の考証も多く含む。一六一六年に刻本されたが、本文で遼東の女真が、後日、明の災いになるであろうという見解を記していたため、清代になって中国では閲覧が禁じられてしまい、中華民国になってやっと復刻されて一般に読まれるようになるという数奇な経緯を持つ。同所の「九 物部一」に、
*
獐無膽、馬亦無膽、兔無脾、猴亦無脾、豚無筋、猬亦無筋。
*
とある。また、「五雜組」の「巻七」に、
*
獸莫仁於麟、莫猛於被視【師。】、莫巨於貌輪關、莫速於角端爛【一萬里。】、莫力於萬嵩、莫惡於亨了食【蓋言八不。】。
*
ともあった。
「膽〔(たん)〕」漢方では肝臓(相当機能の臓器)或いは胆嚢を指すが、後者で採っておく。
「𪋛〔くじか〕」シカの古名。
「筋〔(すぢ)〕」所謂、腱(けん)のことか? よく判らぬ。
「麟(りん)」霊獣とされる架空の幻獸である麒麟の別名。
『「狻猊(からじゝ)」【卽ち、獅子〔なり〕。】』狻猊(さんげい)は中国の伝説上の生物で、しばしば「獅子」(ライオンがモデルとなった伝説上の生物。神社の左右の狛犬のうちで角が無いもの、或いは獅子舞の獅子)と同一視される。ウィキの「狻猊」によれば、古くは、「爾雅」の「釈獣」に『「狻麑」として見え、虦猫』(さんびょう)『(トラの一種)に似て、虎豹を食うとしている。郭璞の注では』「獅子」『のこととしている』、「穆天子伝」(ぼくてんしでん:周の穆王の伝記を中心とした全六巻からなる歴史書。成立年代も作者も不詳。西晋(二六五年~三一六年)の時に魏の襄王の墓が盗賊により盗掘された際、竹簡として発見された。一部では奇書とされる)では、『「狻猊は五百里を走る」と』ある。『漢訳仏典でも狻猊は獅子の別名として使われる。玄奘訳』の「大菩薩蔵経」(「大宝積経」菩薩蔵会)に『「喬答摩(ガウタマ)種狻猊頷、無畏猶如師子王。」と』あり、「玄応音義」では『「狻猊は獅子のことで、サンスクリットでは僧訶(シンハ)という」とする』。『仏陀はしばしば獅子にたとえられるため、仏陀のすわる場所を「獅子座」と呼ぶことがある』。『ここから高僧の座る場所も「獅子座」あるいは「猊座」といい、「猊座の下(もと)に居る者」という意味で、高僧の尊称や、高僧に送る手紙の脇付けは「猊下」となった』。『銅鏡、各神獣鏡の意匠、特に唐の時代に作られた「海獣葡萄鏡」に多数見受けられる瑞獣を海獣または狻猊と呼ぶことがある。なお、海獣とは砂漠の向こうに住む「海外の獣」という意味であるという』。『明代には竜が生んだ九匹の子である竜生九子(りゅうせいきゅうし)の一匹とされ』、楊慎(一四八八年~一五五九年)の「升庵外集」に『よれば、獅子に似た姿で煙や火を好み、故に香炉の脚の意匠にされるという』とある。なお、『「狻」の読みは、しばしばつくりの「夋」に引かれて』、百姓読(ひゃくしょうよ)み(漢字が結合した熟語の誤読であり、形声文字の音符(旁や脚の部分)につられた読み方をすること)で『「シュン」との表記が散見されるが、反切は』「唐韻」で「素官切」、「集韻」などでは「蘇官切」と』『あり、「サン」が正しい(酸と同音)』とある。
「䝟貐〔(あつゆ)〕」所持する実吉達郎(さねよしたつお)氏の「中国妖怪人物事典」によれば、本来は「窫窳」と書き(同じく「あつゆ」と読む)、もとは天界の神々の一人であったが、弐負(じふ)という悪神によって殺され、黄帝によって蘇生したものの、精神に異常をきたし、崑崙山の下を流れる弱水(じゃくすい:「西遊記」の沙悟浄の住んでいた流沙河がそれとする)に飛び込んで水棲の食人性の怪物に変じたとする(「䝟貐」の名はそれ以降)。牛に似るが、顔は人に酷似し、脚は馬(蹄が一つ)であった。その鳴き声は赤子のようで、数えきれないほどの人間を食った。形態は説によりまちまちで、半ばは龍に似ているとも、虎の爪を持つとも、足が速いなどとも言われる。後に太陽を射落したとされる弓の名人羿(げい)に退治されたとある。調べてみると。「述異記」(南朝梁(五〇二年~五五七年)の任昉(にんぼう)が撰したとされる志怪小説集)には、巨大で、竜の頭、馬の尾、虎の爪を持ち、全長は四百尺(当時の一尺は二十四・二四センチメートルで、約九キロ七百メートル)であったと記す。
「角端」個人ブログ「プロメテウス」の「角端:甪端(ろくたん)とも呼ばれる翼を持つ中国の祥瑞の神獣」によれば(一部の括弧記号を変更させて戴いた)、『角端は中国の古代伝説中の祥瑞の獣名で、形状は鹿に似て翼を持ちパンダほどの大きさです。鼻に角が一本ついており、一日に一万八千里を行くことができ、さらに四方の言語に精通していると言います。このため邪を避ける目的も兼ねて芸術作品にも多く登場しており、またの名を甪端(ろくたん)とも言い』、『漢代頃からその名が見られるようになっています。「宋書」の「符瑞志下」には、「甪端は日に一万八千里行き、四方の言語を知り名君の在位に明るく、遠方の物事にも明るく則ち書を奉ると現れる」』とあり、『甪端は端端、畣端とも言います。獬豸、豸莫、独角獣などと形状は似ていますが、これらは別々の神獣です。麒麟の頭に獅子の体で翼があり、独角、長尾、四爪で、上唇が特に長く前に伸びている者上向きに巻いている者など様々なタイプがいます。甪端は宋代の神獣の彫刻を代表する形状であり、様々な皇帝の陵墓にその姿が見られています。彫刻に見られる甪端は』、『重厚で』、『胸が突き出ており』、『鼻の端にある一本の角が誇張されて』、『獅子が吠えているように見え』、『気勢を上げています』。『翼を持つ神獣の形状は古くはペルシャやギリシャなどで見られています。翼は飛行のためと言うよりも神性を示すための象徴として用いられています。この翼を持った神獣は歴代の皇帝たちに愛されました。ある文献によると、頭に角が一本ある神獣を麒麟と言い、二本あると避邪、角がないものを天禄と呼ぶ、と記載されています。しかし、彫刻に用いられる形状にはそれほど厳格な規則はなく、宋の時代の甪端の形状は南北朝から唐にかけて』、『麒麟や天禄、翼馬などの特徴が加えられて変化していきました。この甪端の特徴は明、清の諸陵石に刻まれた麒麟にも継承されています』。『史書中の甪端の記述には外見に関して三種類の記述があります。一つは豚型で、二つ目は麒麟が田、三つめは牛型です。実際には、「史記・司馬相如列伝」には「獣則ち麒麟、甪端」とあり、昔の人たちは甪端を古くから祥瑞の神獣として用いてきました』。『甪端は麒麟に似ていますが』、『麒麟ではなく、形状は豚や牛に近いです。麒麟自体は毛皮を持った動物の長であるとされています。漢代や唐代には甪端は様々な効能をもたらすとされていましたが、神格化は行われておらず』、『宋代になると』、『甪端はさらに神秘的な存在にされていきました。この時期に祥瑞の属性を付加された上に翼や巻いた唇などが付け加えられるようになりました』。『甪端の造形は天禄や避邪などとの共通点が見て取れ、工芸ではその特徴が脈々と継承されています。明清時代になると宋代に変化して独特になってしまった形状の漢や唐代への回帰が起こり』、『元の麒麟に近い形状に戻っていきました。つまり、宋代の甪端はその形状のみならず地位も独特で、この時代特有のものとなっています』。『甪端に加えて歴代の麒麟、避邪、天禄、獬豸などは中国の各王朝で祥瑞の象徴として用いられてきました』。また、『甪端の角を用いて弓を作ったと言う話が残っており、「後漢書・鮮卑伝」には、「野馬、原羊、甪端牛の角を以って弓を為し、俗にいう角端弓である。」とあります。この場合、甪端は牛として描かれています。甪端牛は古代の鮮卑の異獣名であり、形状は牛に似ており』、『角は鼻の上にあったので甪端牛の名前はこれに因んでいます』とある。
「𥜿𥜿(ひひ)」これは実在する『オナガザル科ヒヒ属の哺乳類の総称』と「漢字林」にはある。哺乳綱霊長目直鼻猿亜目高等猿下目狭鼻小目オナガザル科オナガザル亜科ヒヒ属 Papio であるが、しかしこれ以外が総て幻獣であるからには、これは強力な臂力を持った妖猿とした方がよかろう。
「窮奇〔きゆうき〕」ウィキの「窮奇」によれば、『中国神話に登場する怪物あるいは霊獣の一つ。四凶』(古代の聖帝舜によって中原の四方に流されて、魑魅(妖怪)の侵入を防がせた四つの悪神(獣)。「書経」「春秋左氏伝」に記されてあるが、内容はそれぞれ異なり、後者のそれが一般的で、文公十八年(紀元前六〇九年)の条で、他は「渾敦(沌)(こんとん)」(一説に大きな犬の姿)・「饕餮(とうてつ)」(一説に羊身人面で眼は脇の下にあるとする)・「檮杌(とうこつ)」(一説に人面虎脚で猪の牙を持つとする)である)『の一つとされる』。「山海経」では、『「西山経」四の巻で、ハリネズミの毛が生えた牛で、邽山(けいざん)という山に住み、イヌのような鳴き声をあげ、人間を食べるものと説明しているが、「海内北経」では人食いの翼をもったトラで、人間を頭から食べると説明している。五帝の』一『人である少昊』(しょうこう)『の不肖の息子の霊が』、邽山(けいざん)に『留まってこの怪物になったともいう』。「山海経」に倣って『書かれた前漢初期の』「神異経」では、『前述の「海内北経」と同様に有翼のトラで、現在ではこちらの姿の方が一般的となっている。人語を理解し、人が喧嘩していると正しいことを言っている方を食べ、誠実な人がいるとその人の鼻を食べる。悪人がいると』、『野獣を捕まえてその者に贈るとしている』。『善人を害するという伝承がある反面、宮廷でおこなわれた大儺(たいな)の行事に登場する十二獣(災厄などを食べてくれる』十二『匹の野獣)の中にも』「窮奇」という『名の獣がおり、悪を喰い亡ぼす存在として語られている』(下線太字やぶちゃん)。「淮南子」では、『「窮奇は広莫風』『(こうばくふう)』(「北風」の意)『を吹き起こす」とあり、風神の一種とみなされていた。因みに、『日本の風の妖怪である鎌鼬(かまいたち)を「窮奇」と漢字表記してよませることがあるが、これは窮奇が「風神」と見なされていたことや、かつての日本の知識人が中国にいるものは日本にもいると考えていたことから、窮奇と鎌鼬が同一視されたために出来た熟字訓であると考えられている』とある。リンク先に清の汪紱(おうふつ)の「山海経存」の「窮奇」図がある。
「鸇(たか)」現行、本邦ではこの漢字には、タカ目タカ科サシバ属サシバ Butastur indicus を当てている。サシバ(差羽)については、私の「和漢三才圖會卷第四十四 山禽類 隼(はやぶさ)(ハヤブサ・サシバ)」の注を参照されたい。
「玩(もてあそ)び」専ら、王者のシンボルとし、さらに鷹狩りに飼養されたことを指すのであろう。
「鉤戟〔(こうげき)〕」当初、私は本文内に「返しの付いた矛」と注したのであるが、東洋文庫の注に、『一般には先の曲ったほこをいうが、ここはあるいは獸の名かも知れない』とあるので、こちらに移した。
「鑼〔(どら)〕」あの金属製の楽器のそれである。
「說苑〔(ぜいゑん)〕」前漢末の学者劉向(りゅうきょう)の撰になる前賢先哲の逸話集。全二十巻。「君道」・「臣術」等二十篇(一篇一巻)からなり、各篇の初めに序説があって、その後に逸話を列挙してある。元来が先秦及び漢代の書物から天子を戒めるに足る遺聞逸事を採録したもので、現存する諸子百家の書と、かなり重複する。但し、すでに佚して本書にしか見えないものもあり、今日から見ると、貴重な古代説話集である(以上は小学館「日本大百科全書」に拠った)。
「鵲〔(かささぎ)〕」スズメ目カラス科カササギ属カササギ亜種カササギ Pica pica sericea。雑食性だが、生きたハリネズミはちょっと食いそうもないと私は思うが……。
「猬(けはりねずみ)」哺乳綱 Eulipotyphla ハリネズミ科ハリネズミ亜科 Erinaceinae のハリネズミ類。日本を除く東アジアにも棲息する。雑食性で鳥類の雛や動物の死骸を食いはするようではあるが……。
「鵕-䴊(にしきどり)」「錦鳥」ならば、本邦では、キジ科 Chrysolophus 属キンケイ(金鶏)Chrysolophus
pictus の異名である。しかし、中文サイトでは「鵕䴊」(シュンギ)を「神鳥」とか記すものもあることはある。だったら、豹(食肉(ネコ)目ネコ科ヒョウ属ヒョウ Panthera pardus:中国にも棲息する)を食うかも。でも、ここに並ぶのは殆んどが実在種だからなぁ……。いやいや! キンケイの黄色は、食った豹のヒョウ柄なのかも?!
「駮(はく)」これは確実に幻獣。馬に似て、しかも虎や豹を食う、と大修館書店「廣漢和辭典」に載る。「山海経」の、まず「西山経」に、
*
又西三百里、曰中曲之山、其陽多玉、其陰多雄黃、白玉及金。有獸焉、其狀如馬而白身黑尾、一角、虎牙爪、音如鼓音、其名曰駮、是食虎豹、可以禦兵。有木焉、其狀如棠、而員葉赤實、實大如木瓜、名曰櫰木、食之多力。
*
と出、また、「海外北経」でも、
*
北海内有獸、其狀如馬、名曰騊駼。有獸焉、其名曰駮、狀如白馬、鋸牙、食虎豹。有素獸焉、狀如馬、名曰蛩蛩。有靑獸焉、狀如虎、名曰羅羅。
*
前者では、白い馬に似るが、角が一本あり、尾は黒く、虎の牙と爪を有し、吠える声は太鼓を叩くようだ、とする。また、武具の難を防ぐ能力を有するともある。
「玄龜〔(げんき)〕」先にも引かさせて戴いた「プロメテウス」の「玄亀(旋亀):山海経に出てくる妖怪怪物は実在する種もあった」に、『日本では亀は万年と言いますように、亀は長寿の象徴となる生き物として扱われる場合があります。中国では長寿の象徴に加えて』、『亀の甲羅は殷の時代以前から亀甲占いに使用されていたため、古くは冥界の使いとみなされていました。火にくべた亀の甲羅の割れ方が神の意志という意味で、亀が神様に合って受けた神託を甲羅の割れ方で知らせた、という訳です』。『亀をモチーフにした有名な神獣に四象の一柱である玄武がいますが、玄武のもともとの名前は玄冥といい、冥界へ行き神託を得ることができる神聖な生き物とされていました。このため、後世では朱雀や青龍などよりも一歩とびぬけて』、『真武大帝として祀られるようになりました』。『ちなみに玄は黒という意味です。五行説では色の属性がありますので』、『赤龍や白龍などのように赤、青、白、黄、黒の五色が割り当てられます。すなわち』、『玄亀は黒い亀という意味になります』。『玄亀はまたの名を旋亀(せんき)、元亀、大亀などと呼ばれます。玄武は亀と蛇とが合わさった形状をしていますが、同じ亀をモチーフとした玄武と異なる点は玄亀は純粋な亀の形状をしている点です』。「太玄宝典」には、「『北方には滄海があり、滄海は玄亀を生み、玄亀は真気を吐き、真気は神水に変わり、神水は腎を生む。』」『とあります。真気とは生命活動を維持する根源のことです』。『玄亀は黒と赤の亀です』「山海経」には、「『怪水出て憲翼の水に注ぐ。その中に玄亀多し、その形状亀の如く鳥の首と毒蛇の尾を持っており、その名を旋亀と言い、その音木が裂ける如く、これを使用すると聾にならず、足のたこを治療するのによい』」『とあります』。『玄亀は神獣や妖怪の類であると思われていましたが』「山海経」の『描写に非常に似た亀が吉林省の松花江及びその上流の支流で見つかり、希少生物となっています』。『また、玄亀の別名である旋亀の名前は』、『有名な禹の治水工事の中にも見られます。この治水工事では応龍が尾で地を掃き』、『水道を作り、洪水で溢れそうになった水を逃がして海へと注がせました。そして旋亀は背中に息壌を乗せて禹の後について回りました。そして、禹は少し歩くと』、『息壌の小さな塊を』摑『んで大地に投げ入れました。息壌とは自分自身で成長して大きくなる神土の事です。地面に投げられた息壌はすぐに大きくなって洪水を埋め尽くしてしまいました。この記述から旋亀は治水工事の際に重要な地位を占めていることが判ります』とある。「山海経」のそれは「南山経」の以下。
*
又東三百七十里、曰杻陽之山、其陽多赤金、其陰多白金。有獸焉、其狀如馬而白首、其文如虎而赤尾、其音如謠、其名曰鹿蜀、佩之宜子孫。怪水出焉、而東流注于憲翼之水。其中多玄龜、其狀如龜而鳥首虺尾、其名曰旋龜、其音如判木、佩之不聾、可以爲底。
*
引用に出た、「山海経」の描写によく似た亀というのは、これか? 何だか、恐ろしくデカい、ゴッツゴツのゾッとしないカメの画像の上に、
*
長春2002年8月12日在吉林省吉林市出現了一個身似龜、嘴似鷹、背似恐龍的不知名怪物。多年從事古文化研究的原長春光機學院宮玉海教授認為,根據《山海經》記載,它應是《山海經》中記載的"旋龜"。但還沒有自然科學家對此怪物做出最後鑑定。
*
とあるわ! 写真の背中の三つのキールや、口刎がタカに似ているというのは、カメ目ワニガメ属ワニガメ Macrochelys temminckii にそっくりだと思うが、しかし……吉林市(ここ(グーグル・マップ・データ)だよね? ワニガメはアメリカ固有種だしなぁ……。ただ、同じような記事が中文報道サイトにもある。でも、やっぱ……この写真のカメは、もう、モロ、ワニガメやろ?……
「蟒〔(うはばみ)〕」これは伝説の大蛇でよかろう。
「飛鼠〔(ひそ)〕」これは哺乳綱ローラシア獣上目翼手(コウモリ)目 Chiroptera のオウモリ(蝙蝠)類の別名である。「斷(た)ち」というのを「噛み破る・咬みつく」という意味にとり、例えば、その感染症(狂犬病は有名だが、他にも媒介する)で「猨〔(さる)〕」(=猿)や狼が死ぬ可能性はないとは言えない。吸血性コウモリ(哺乳類の血を吸血するのはコウモリ目陽翼手亜目ウオクイコウモリ下目ウオクイコウモリ上科チスイコウモリ科チスイコウモリ属ナミチスイコウモリDesmodus rotundus一種のみである)を想起する人もいようが、彼らは中南米にしか存在しないし、殆んどのコウモリ類は昆虫や花の蜜を吸うだけである。
「虱〔(しらみ)〕は鶴を喫〔(きつ)〕し」「喫〔(きつ)〕し」は「吸い」の意味でマッチする。《シラミの類い》は全種が血液や体液を吸うからである。但し、ここではツルを出している(これは大型の鳥の代表として劉向が出したものである)が、実は、鳥類に寄生する「羽蝨・羽虱(はじらみ)」は咀顎目目
Psocodea の、ホソツノハジラミ亜目
Ischnocera・ゾウハジラミ亜目 Rhynchophthirina・マルツノハジラミ亜目
Amblycera に属するハジラミ類(Menoponidae:英文で調べてみても亜目レベルの分類が明確でないようなので以下の追加した学名は概ね単独で出す)で、ウィキの「シラミ」によれば、前者の通常のシラミ類(節足動物門昆虫綱咀顎目シラミ亜目 Anoplura )のは、この『ハジラミ類』から『分化したと考えられるが、化石上の証拠はな』く、『シラミはハジラミ類同様』、『外部寄生虫として哺乳類の被毛の中で生活するが、ハジラミ類と異なり鳥類からはまったく知られていない』とあるのである。ウィキの「ハジラミ」によれば、上記の三亜目の『うち、マルツノハジラミ亜目は他の』二『亜目より系統的に離れていて、ハジラミは多系統である。他の』二『亜目はシラミとも近縁である』とあり、『鳥の羽毛や獣の体毛の間で生活し、小型で扁平、眼は退化し翅は退化している。成虫の体長は』〇・五~十ミリメートル『で、雄は雌より少し小さい。体色は白色、黄色、褐色、黒色と種によってさまざまである。大部分が鳥類の外部寄生虫で鳥類のすべての目に寄生し、一部は哺乳類にも寄生する。全世界で』二千八百『種ほどが知られ、うち』、二百五十『種が日本から記録されている』。『ハジラミは全体の形はシラミに似るが、細部では多くの点で異なっている。胸部の各節は完全に癒合することはなく前胸部は明らかに分かれる。肢の転節は』一、二節『で、先端に』一『個または』一『対の爪がある。体表は剛毛に覆われ、多いものと比較的少ないものがある。また口器はシラミと違って吸収型でなく』、『咀嚼型で』、『大顎が発達している。宿主の羽毛、体毛と血液を摂取するが、フクロマルハジラミ』Menacanthus
stramineus『のように血液を成長中の羽毛の軸からとる種もある。ペリカンやカツオドリの咽喉の袋にはペリカンハジラミ属』Pelecanus『やピアージェハジラミ属やピアージェハジラミ属』Piagetiella『が寄生し、大顎で皮膚を刺し、血液や粘液を摂取する』。『不完全変態で、卵→若虫→成虫となる。卵は長卵型でふつう白く、宿主の大きさに対応し』一ミリメートル以下から二ミリメートルに『近いものまである。卵は宿主の羽毛か毛に産みつけられるが、羽軸内に産みこむものもある。若虫は成虫に似ており』、一『齢若虫では小さく色素をもたないが、脱皮ごとにしだいに大きくなり着色し』、三『齢を経て』、『成虫となる』。『ハジラミは温度や宿主のにおいに敏感で、適温は宿主の体表温度である。宿主が死に』、『体温が下がると』、『ハジラミは宿主から脱出しようとする。そのままでいれば、宿主が死ぬと』、『ハジラミも数日内に死ぬ』。『ハジラミの感染は交尾、巣づくり、雛の養育』、砂浴びなど、『宿主間の接触で起こる。もう一つの方法は翅のある昆虫に便乗することで、吸血性のシラミバエ』(双翅(ハエ)目短角(ハエ)亜目ハエ下目シラミバエ上科シラミバエ科 Hippoboscidae)『の体に大顎でしがみつき』、『他の鳥に運ばれる。自然の集団では雌が多く、ある種では雄がほとんど見つからない。ウシハジラミ』(ホソツノハジラミ亜目ケモノハジラミ科ウシハジラミ Bovicola bovis)『では処女生殖が知られている。前胃にハジラミの断片が見つかることがあるが、この共食いの現象は個体数の調節に役だつと考えられている』。『ハジラミの最大の天敵は宿主であって、ついばみ、毛づくろい』砂浴びに『よって殺される。また鳥の蟻浴も同様の効果がある。くちばしを痛めた鳥は十分毛づくろいができないので、非常に多数のハジラミの寄生をうけ弱る。哺乳類のハジラミは有袋類、霊長類、齧歯類、食肉類、イワダヌキ類』(哺乳綱イワダヌキ目 Hyracoidea であるが、同目の現生種はハイラックス科 Procaviidae のみである。アフリカ大陸と中東にのみ棲息し、耳を小さくしたウサギのような感じの動物だが、驚くべきことに、ゾウ目 Proboscidea や海牛(ジュゴン)目 Sirenia と類縁関係にあり、足に蹄に似た扁爪(ひらづめ)がある、原始的な有蹄類の仲間らしい。ウィキの「ハイラックス」を見られたい)『および有蹄類に寄生し』、『皮膚の分泌物や垢を食べているが、トリハジラミほど多くはない』。『ハジラミの祖先はチャタテムシのコナチャタテ亜目Nanopsocetae下目であると見られる』(引用元のネコハジラミ Felicola subrostratus の拡大画像を見た瞬間に確かに「チャタテムシだ!」と叫んだ私がいた)。『自然の中で地衣類やカビを食べ』、『自由生活をしていたチャタテムシが、三畳紀、ジュラ紀といった中生代初期から新生代の初期である古第三紀の間に羽毛を持つ動物の巣に寄生する生活を経て、生きた鳥の羽毛にとりつき寄生するようになったと考えられるが、化石は発見されていない。ちなみに、近年では羽毛は鳥の祖先の恐竜の一部の系統で既に発達していたことが知られるようになってきているので、初期のハジラミは鳥の出現以前に恐竜に寄生していた可能性もある』。『系統学的解析により、ハジラミは』二『つの系統が別々に進化したことがわかっている。哺乳類・鳥類に外部寄生するという特徴的な生態により、収斂進化が進んだ。うち』、一『つの系統は、咀嚼性から吸収性へと進化したシラミを生み出した』。『ある種のハジラミは』二『種以上の鳥に寄生することがあるが、それは鳥の進化の速さがハジラミのそれを上まわったためと考えられている。つまり、宿主が環境に適応して変化しても、ハジラミにとっての生活環境である鳥体表面の条件、つまり食物の栄養や、温度条件などはあまり変化しないからだ』、『というのである。これをV・L・ケロッグは遅滞進化と名付けた。例えばアフリカのダチョウ』(ダチョウ目ダチョウ科ダチョウ属ダチョウ Struthio camelus)『と南アメリカのレア』(レア目レア科レア属レア Rhea americana)『には共通のハジラミが寄生しており、今日では形態も分布も異なっているとしても、これらのダチョウは共通の祖先から分化したことを物語っている。ミズナギドリ』(ミズナギドリ目ミズナギドリ科 Procellariidae:現生種は十四属八十六種)『の仲間には』十六『属』百二十四『種のハジラミが知られているが、ハジラミの知見は大筋において』、『ミズナギドリの分類系と一致するといわれている』。『アジアゾウ』(哺乳綱長鼻目ゾウ科アジアゾウ属アジアゾウ Elephas maximus)や『アフリカゾウ』(ゾウ科アフリカゾウ属アフリカゾウ Loxodonta africana)『などに寄生するゾウハジラミ』(ゾウハジラミ亜目ゾウハジラミ科ゾウハジラミ属 Haematomyzus)『は体長』三ミリメートル『足らずの小さなシラミで、長い吻をもち吸血するが、その先端に大顎をもち』、『完全にハジラミの形態をそなえており、ハジラミとシラミの間を結ぶ中間型とされる』。『人間に直接に加害するものはいないが、家畜や家禽につくものがある。ハジラミが多数寄生すると、鳥や獣はいらだち、体をかきむしり体を痛め、食欲不振や不眠をきたす。家禽は産卵数が減り太らなくなり、ヒツジは良質の羊毛をつくらなくなる。ニワトリハジラミはニワトリに寄生するハジラミ類の総称で、畜産上はニワトリナガハジラミ』Lipeurus
caponis・『ハバビロナガハジラミ』Cuclotogaster
heterographus・『ニワトリマルハジラミ』(この和名では見当たらない)・『ヒメニワトリハジラミ』Goniocotes
hologaster『の』四『種が重要である。そのほか、ニワトリハジラミ』Menopon
gallinae『やニワトリオオハジラミ』Menacanthus
stramineus『も寄生する。これらはいずれも世界共通種である。キジ目の中には家禽となるものが多いが、同目のニワトリと近縁であるからいっしょに飼えば』、『ハジラミの混入が生ずる。シチメンチョウオオハジラミ』(この和名では見当たらない)『はその一例である。多数寄生すれば』、『ニワトリは羽毛がたべられかゆみのため』、『体力が弱まり、成長が遅れ』、『産卵率の低下をみる。防除には殺虫剤を使い、鶏舎内を清潔に保つことが必要である』。『また』、『イヌハジラミ』Trichodectes
canis や『ネコハジラミはウリザネジョウチュウ』(要するに、「サナダムシ」の一種。扁形動物門条虫綱多節条虫(真正条虫)亜綱円葉目ディフィリディウム科 Dipylidiidae ウリザネジョウチュウ(瓜実条虫=犬条虫)Dipylidium
caninum で、イヌやネコの小腸に普通に見られ、体長五十センチメートルに達する。頭節に近い片節は短くて幅広いが、後方になるにつれ幅より長さを増し、所謂、「瓜の実」(種(たね))型になる。各片節には二組の生殖器を備えている。老熟片節は排出された後、しばらく、動きながら、卵を放出する。このため、人の目にとまりやすい。卵は中間宿主のノミの幼虫に食べられ、ノミの体内で発育して、ノミが成虫に変態した後、擬嚢尾虫(ぎのうびちゅう)という幼虫になる。このような幼虫を宿したノミは運動が不活発になり、イヌやネコに食べられやすくなる。感染しても殆、んど無症状のことが多い。成虫の駆除とともに、中間宿主となるノミの駆除も必要となる。ヒト(とくに幼児)に寄生することもある。ここは小学館「日本大百科全書」に拠った。すんまへんなぁ、寄生虫は私のフリーク対象の最たるものなんですねん。「生物學講話 丘淺次郎 四 寄生と共棲 四 成功の近道~(2)」とか、「生物學講話 丘淺次郎 第十七章 親子(7) 四 命を捨てる親」にも、この子、登場しますによって、見とおくれやす)『の中間宿主となる』とある。
「黃腰獸〔(こうようじう)〕」豹とか羆(ひぐま)に似た獣らしいが、どうもよく判らぬ。「本草綱目」の「虎」に、
*
黃腰、「蜀志」、名黃腰獸。鼬身貍、首長則食母。形雖小而能食虎及牛鹿也。又孫愐云、豰音斛似豹而小腰以上黃、以下黑、形類犬食獼猴名黃腰。
*
等とあるのが、それらしい。この後の「卷三十八 獸類」の「𣫔」(音「コク・カク」)があるので、そこで再度、考証する。
「說文〔(せつもん)〕」現存する中国最古の部首別漢字字典「説文解字」。後漢の許慎の作で、西暦一〇〇年)に成立、一二一年に許慎の子許沖が安帝に奉納した。本文十四篇・叙(序)一篇の十五篇からなり、叙によれば、小篆の見出し字九千三百五十三字、重文(古文字及び篆書体や他の異体字等)千百六十三字を収録する(現行本では、これより少し字数が多い)。漢字を五百四十の部首に分けて体系づけ、その成立を解説し、字の本義を記してある。
「埤雅〔(ひが)〕」北宋の陸佃(りくでん)によって編集された辞典。全二十巻。主に動植物について記す。
「抱朴子」東晋の葛洪(かつこう)の著で、内篇二十巻、外篇五十巻。内篇は神仙・方薬・鬼怪・変化・養生・長生・悪魔払い・厄除け等、道教乃至神仙道の理論と実践(道術)を説く。理論面では嵆康(けいこう)からの影響が顕著であり、道術の中では左慈(さじ)に由来する錬金・練丹術が最も重視されている。外篇は政治・社会・文明の批判の書であって、当時の世相を窺う好材料である(以上は平凡社「世界大百科事典」に拠った)。ただ、以下に引かれる部分は、ある中文サイトで、晉朝葛洪「抱朴子」の「對俗篇」に「玉策記」を引いて「狐狸豺狼皆壽八百歲、滿五百歲則善變爲人形」とし、さらに「玉策記」には佚文が有り、そこでは「千歲之狐、豫知將來、千歲之狸、變爲好女」とある、とある。即ち、「好-友(ともだち)と爲〔(な)〕る」というのは「好女」の誤りで、「婀娜っぽい女」の謂いである。東洋文庫訳も修正注で「友」を「女」としてある。その方が確かにしっくりくることは、くる。]
卷之三十七
畜類
[やぶちゃん注:以下は原典では三段組。ここではルビも一緒に示し、句句読点は振らなかった。本章は、家畜動物の間に、当該家畜動物の臓器や生成物・当該動物を原料にした製品物、及び、疾患によって発生した体内異物等がやたらに混在している。なお、それらは各項で考証するので、ここでは一部の不審を持たれるであろう箇所を除いて、注をしてない。]
豕(ぶた) 【猪】
狗(いぬ)
狗寳(いぬのたま)
鮓荅(へいさらばさら)
羊(ひつじ) 【羊乳(ケイジ)】
[やぶちゃん注:「羊乳」のルビ「けいじ」はママ。「羊」の項に「羊乳」の条はあるが、このようなルビは振られていない。「羊」の音に「ケイ」はなく(「乳」には「ジユ」はあるが「ジ」はない)、また、中国音でも「yáng rǔ」(イァン・ルゥー)で全く合わない。一つのヒントは、この目録ページのルビは本文と異なり(本文は標題和名のみがひらがなでルビは総てカタカナである)、「ひらがな」と「カタカナ」が判然と区別されて振られている(標題は総てひらがな)ことと、後の「牛乳(ボウトル)」である。後者の「ボウトル」とは英語の「butter」のカタカナ音写に酷似することが判然とする(後の開国後の横浜で「バター」は「ボウトル」と呼ばれた。ただ「牛乳」にそれを振るのは誤りではあるが)。従って、この「羊乳(ケイジ)」も外来語である可能性が高いと考え、調べてみると、「チーズ」(cheese)のことを、ポルトガル語で「ケイジョ」(Queijo)と呼ぶことが判った。半可通な部分はあるが、羊の乳で作ったチーズの意を、羊の乳の意と誤認したのではあるまいか? せめて「酪」があるんだから、そっちに割注してほしかったなぁ、良安先生! とまあ、確定ではないので、識者の御教授を乞う。]
黃羊(きひつじ)
牛(うし) 【牛乳(ボウトル)】
牛黃 【いしのたま】
阿膠(あきやう) 【にかは】
黃明膠(すきにかは)
酪(にゆうのかゆ) 【酥 醍醐 乳腐】
馬(むま)
驢(むらさきむま)
騾(ら)
[やぶちゃん注:、雄のロバと雌のウマの交雑種である騾馬(らば)(哺乳綱奇蹄目ウマ科ウマ属ラバ Equus asinus × Equus caballus)のこと。]
駱駝(らくだ)
« 南方熊楠より柳田国男宛(明治四四(一九一一)年九月二十二日書簡) | トップページ | 和漢三才圖會卷第三十七 畜類 豕(ぶた) (ブタ) »