蒲原有明 有明集(初版・正規表現版) 草びら
草びら
向日葵(ひぐるま)の蘂(ずゐ)の粉(こ)の黃金(こがね)にまみれ、
あな、夕(ゆう)まぐれ、
朽(く)ちはつる草(くさ)びらや、
草(くさ)びらは唯(ただ)わびしらに。
この夕(ゆふべ)、雲(くも)明(あか)き空(そら)には夏(なつ)の
あな、榮(はえ)もあれ、
薄(うす)ぐらき物(もの)かげを
草(くさ)びらは終(をは)りの寢所(ふしど)。
誓願(せいぐわん)は向日葵(ひぐるま)に――菩提(ぼだい)の東(ひがし)、
あな、涅槃(ねはん)の西(にし)、
宿緣(しゆくえん)は草(くさ)びらに、
草(くさ)びらは靜(しづ)かに默(もだ)す。
向日葵(ひぐるま)は蘂(ずゐ)の粉(こ)の黃金(こがね)の雨(あめ)の
あな、淚(なみだ)もて
朽(く)ちはてて壞(くづ)れゆく
草(くさ)びらの胸(むね)を掩(おほ)ひぬ。
[やぶちゃん注:第一連二行目「夕(ゆう)まぐれ」のルビ「ゆう」はママ。
「草びら」「草(くさ)びら」「草片」「蔬」「茸」「菌」等と漢字表記し、古くは「くさひら」で清音。一般に一義的には「茸」「菌」で「きのこ」の類を指す。二義的には「草片」「蔬」で野菜や青物の意も示し、「草びら」の表記的には後者風ではあるけれど、全体に配された「草びら」の表現からは、「きのこ」としか私には思われない。]

