和漢三才圖會卷第三十七 畜類 豕(ぶた) (ブタ)
和漢三才圖會卷第三十七
攝陽 城醫法橋寺島良安尚順編
畜類
ぶた 豭【牡】 彘【牝】
豶【去勢】 𤜸【大豕】
猪【豕子豬同豚𣫔並同】
豕【音詩】
★ 豕【和訓井俗云布太】
スウ 猪【和訓井乃古】
[やぶちゃん注:★の個所に上図の下の篆書風の文字が入る(これは今まで通り、東洋文庫の挿絵を読み込み、編集権に抵触しないように、印字された大標題の活字「豕」及び左端の「スウ」を消去したものである。即ち、実際には、標題「豕」の右手に、この左★印の「豕」の字が入る、特異点なのである(「スウ」は「★」への左ルビなのではなく、今まで通り、大標題である「豕」への中国語カタカナ音写である)。私の言っている意味が判らない方のために、私が訓点の判読に迷う際や図版を清拭する時の汚れの確認等の参考にしている、国立国会図書館デジタルコレクションの明三四(一九〇二)年中外出版社刊「和漢三才圖會」の当該部分の画像をトリミングして以下に掲げておく。
この画像で、今までの私の標題部の電子化の仕儀が納得いかれることであろう。なお、参考画像の下部が二重罫線になっているのは同書が二段組で、当該画像は、その下部記事であるための大枠の下部罫線であるためである。原典の罫線は下部も並の一本線である。]
本綱豕高大有重百餘斤食物至寡甚易畜養之甚易生
息天下畜之而各有不同或耳有大有小足有長有短皆
從土地異其孕四月而生在畜屬水在卦屬坎應室星其
性趨下喜穢也說文豕字象毛足而後有尾形牡曰豭牝
曰彘【又曰豝曰䝏】去勢曰豶四蹄白曰豥猪高五尺曰𤜸豕之
子曰豬【猪同】一子曰特二子曰師三子曰豵末子曰么生三
月曰豯六月曰䝋凡豬骨細筋多
肉【苦微寒有小毒】 傷寒瘧痢痰痼痔漏諸疾食之必再發【反烏梅桔
梗黃連胡黃連令人潟痢合生薑食生靣㸃合蕎麥食落毛髮】
脂膏【俗云末牟天伊加】 通小便黃疸水腫治皸裂及諸瘡
猪膽 治大便不通【以葦筒灌入膽汁立下】 小兒五疳殺蟲
西戎人用猪膽作藥名底野迦似久壞丸藥赤黑色胡
人甚珍重之主治百病中惡心腹積聚
猪頭 五月戊辰日以之祀竃所求如意以臘猪耳懸梁
上令人豊足此亦厭禳之物也
△按豕以易畜長崎及江戸處處多有之然本朝不好肉
食又非可愛翫者故近年畜之者希也且豕猪共有小
毒不益于人而華人及朝鮮人以雞豕爲常食
字彙云犬者喜雪馬者喜風豕者喜雨天將雨則豕進渉
水
*
ぶた 豭(をいのこ)【牡。】
彘(めいのこ)【牝。】
豶(へのこなしのい)
【勢を去〔れるもの〕。】
𤜸〔(やく)〕【大豕。】
猪(いのこ)
【豕の子なり。「豬」〔も〕同じ。
「豚」「𣫔」、並〔びに〕同じ。】
豕【音、「詩」。】
★ 豕(ぶた)【和訓、「井〔(ゐ)〕」。
俗に云ふ、「布太」。】
スウ 猪(ゐのこ)【和訓、「井乃古」。】
[やぶちゃん注:読み(原典ルビ)の「い」は総てママ。「へのこ」は通常は「陰茎」を指すが、ここは去勢することであるから、睾丸を含む♂の生殖器のこと。食肉を目的として肥育される場合や、元はイノシシであるから、性質は本来は荒く(飼育者が咬み殺された本邦での事件も現実にある)、その矯正や発情を削ぐための仕儀であろう。]
「本綱」、豕は高大にして重さ百餘斤有り。物を食ふ〔こと〕至つて寡(すくな)く甚だ畜〔(か)〕ひ易く、之れを養〔ふも〕、甚だ生-息(そだ)ち易し。天下、之れを畜(か)いて、而〔(しか)〕も、各々、不同〔(どう)〕をせざる有り、或いは、耳に、大、有り、小、有り、足に長き有り、短き有り、皆、土地に從〔(より)〕て異なり。其〔れ、〕孕(はら)むこと、四月〔(よつき)〕にして生ず。畜〔(ちく)〕[やぶちゃん注:家畜。]に在りては、「水(すい)」に屬し[やぶちゃん注:五行の「水」。]、卦〔(けい)〕に在りては、「坎(かん)」に屬し[やぶちゃん注:八卦(はっけ)の一つ。以下でも陰陽五行説に基づくこの配分が示されるが、私は信じないし、興味がないので、それぞれの性質や属性を記さない。知りたい方は、ネットのその手の好きな方のところに、腐るほど載っている。]、「室星〔(しつせい/はつゐぼし)〕」に應ず。其の性〔(しやう)〕、趨下(すうげ)[やぶちゃん注:ある存在の下方に向かうことを言う。]にして穢〔(けがれ)〕を喜〔(この)〕む。「說文」、「豕」の字、毛足ありて後ろに尾有る〔ものの〕形に象(かたど)る。牡を「豭〔(か)〕」と曰ひ、牝を「彘〔(てい)〕」と曰ふ【又、「豝〔(は)〕」と曰ひ、「䝏〔(らう)〕」と曰ふ。]】勢(へのこ)を去るを「豶〔(ふん)〕」と曰ひ、四つの蹄〔(ひづめ)〕の白〔き〕を「豥猪〔(がいちよ)〕」と曰ふ。高さ五尺なるを「𤜸〔(やく)〕」と曰ふ。豕の子「豬〔(ちよ)〕」と曰ふ【「猪」に同じ。】。一子を「特」と曰ひ、二子を「師」と曰ひ、三子を「豵〔そう〕」と曰ひ、末子を「么〔(えう)〕」と曰ふ。生じて三月〔(みつき)〕なるを「豯〔(けい)〕」と曰ひ、六月〔(むつき)〕なるを「䝋〔(そう)〕」と曰ふ。凡そ、豬〔(ぶた)〕は、骨、細く、筋〔(すぢ)〕、多し。
肉【苦、微寒。小毒、有り。】 傷寒・瘧痢〔(ぎやくり)〕・痰痼〔(たんこ)〕・痔漏〔などの〕諸疾、之れを食へば、必ず、再發す【烏梅〔(うばい)〕・桔梗・黃連〔(わうれん)〕・胡黃連に反し[やぶちゃん注:以上の特定の薬物と相性が極めて悪いことを言う。]、人をして潟痢〔(しやり)〕[やぶちゃん注:下痢。]せしむ。生薑〔(しやうが)〕と合して食へば、靣㸃[やぶちゃん注:顔に生ずる著しい吹き出物。]、生ず。蕎麥〔(そば)〕と合〔はせ〕食へば、毛髮を落とす。】。
脂膏〔(しかう/あぶら)〕【俗に云ふ、「末牟天伊加〔(マンテイカ)〕」。】 小便・黃疸・水腫を通じ、皸裂〔(ひびわれ)〕及び諸瘡を治す。
猪膽〔(ちよたん)〕 大便〔の〕不通を治す【葦(よし)の筒を以つて、膽汁を灌〔(そそ)〕ぎ入〔るれば〕、立ちどころ〔に〕下〔(くだ)れり〕。】。 小兒の五疳〔の〕蟲を殺す。
西戎〔(せいじゆう)〕の人、猪膽を用ひて、藥を作り、「底野迦〔(テリアカ)〕」と名づく。久-壞(ふる)き丸藥に似て赤黑色〔なり〕。胡人、甚だ之れを珍重す。百病中〔の〕惡心〔(おしん)〕・腹〔の〕積聚〔(せきじゆ)〕[やぶちゃん注:腹の中のしこり。]を治することを主〔(つかさど)〕る。
猪頭〔(ちよとう)〕 五月戊辰〔の〕日、之れを以つて、竈〔(かまど)〕を祀〔(まつ)〕れば、求むる所、意のごとし。臘猪〔(らうちよ)〕[やぶちゃん注:臘月(ろうげつ:旧暦十二月の異名)に屠殺した豚。]の耳(みゝ)を以つて梁(うつばり)の上に懸くれば、人をして豊足〔(はうそく)〕ならしむ[やぶちゃん注:「豊衣足食」の略。衣服も食べ物も満ち足りて、豊かな生活が出来ること。]。此れも亦、厭禳〔(えんじやう)〕[やぶちゃん注:祝祭することで邪気を払う呪(まじない)をなすこと。]の物なり。
△按ずるに、豕は、畜ひ易きを以つて、長崎及び江戶、處處に、多く之れ有り。然れども、本朝、肉食を好まず、愛翫すべき者に非ず。故に、近年、之れを畜ふ者、希なり。且つ、豕〔(ぶた)〕・猪(ゐのこ)共に小毒有りて、人に益〔(えき)〕あらず。而か〔れど〕も、華人及び朝鮮人、雞・豕を以つて常食と爲す。
「字彙」に云はく、『犬は、雪を喜び、馬は風を喜び、豕は雨を喜ぶ。天、將に雨〔(あめふ)〕らんとするに、則ち、豕、進みて水を渉〔(わた)〕る』〔と〕。
[やぶちゃん注:動物界
Animalia 脊索動物門
Chordata 脊椎動物亜門
Vertebrata 哺乳綱
Mammalia 鯨偶蹄目
Cetartiodactyla イノシシ亜目 Suina イノシシ科 Suidae
イノシシ属 Susイノシシ亜種ブタ Sus scrofa domesticus。イノシシ(Sus
scrofa)を家畜化したもの。なお、イノシシの方は次の巻第三十八の「獸類」に「野豬(ゐのしし)」として出るから、この条の字には「猪」「豬」などあり、「いのこ」などとも読んでいるが、一部(最後の方の良安の「猪(ゐのこ)」は原種であるイノシシのことであろう)を除き、総て「イノシシ」ではなく、「ブタ」を指している点を注意して読まれたい。余りに馴染みのある動物であるので(因みに、私は物心ついた頃から、生きているブタが大好きな人間で、出来れば、飼いたいと思ったことさえある)、ウィキの「ブタ」からは、「ブタの飼育史」の「東アジア」の項のみを引く。『東アジアでは中国の新石器時代からブタは家畜化されていた。中国南部を発祥地とするオーストロネシア語族は南太平洋にまでブタを連れて行った。満州民族の先祖である挹婁人、勿吉人、靺鞨人は寒冷な満州の森林地帯に住んでいるので、ブタを盛んに飼育し、極寒時にはブタの脂肪を体に塗って寒さを防いでいた』。『豚は現代中国や台湾でもよく食べられ、中華料理で重要な食材となっている。中国語で単に「肉」といえば豚肉を指すほどで、飼育量も世界最大である。これに対して、中国で牛肉は農耕用に使われた廃牛や水牛を利用する程度で、食用としては硬すぎたり』、『筋張ったりし、それほど好まれなかった』。『朝鮮半島(特に韓国)では、縁起の良い動物とされている。漢字の「豚」を朝鮮語読みした「トン』『」が、「お金」を意味する朝鮮語(固有語)と綴りが同じためである。ブタ型の貯金箱に人気があり、「ブタの夢を見るとお金が貯まる」と言われ、宝くじを買ったりする。なお、朝鮮語の固有語では「豚」は「テジ』『」といい、イノシシは「メッテジ』『」という』。『ベトナム料理でも祝い事や廟への供物などに子豚の丸焼きを用意したり、ティット・コー(豚の角煮』『)や、焼豚を載せたライスヌードルであるブン・ティット・ヌオン』『が日常的に食べられたりするなど、中国文化を受けて』、『ブタは食材として重要である。中国語同様、ベトナム語でも単に「肉』『」といえば豚肉』『を指す』。『現代中国語では、「ブタ」は「豬(=繁体字)/猪(=簡体字)」と表記され、チュー(zhū)と呼ぶ。古語では「豕」(シー shǐ)が使われた』。「西遊記」に『登場する猪八戒は』、『ブタに天蓬元帥の魂が宿った神仙で、「猪(豬)」は「朱」(zhū、中国ではよくある姓)と音が通じるために姓は「朱」にされていた。しかし明代に皇帝の姓が「朱」であったため、これを憚って』、『もとの意の通り「猪(豬)」を用い、猪八戒となった』。『韓国やベトナムを含め、日本を除く東アジア漢字文化圏では、原則として亥年は「豚年」である』。
「百餘斤」明代の一斤は五百九十六・八二グラムであるから、六十キログラム弱。
「室星〔(しつせい/はつゐぼし)〕」二十八宿(中国古代の星座の区分。黄道(こうどう)を二十八に分けて、星座の所在を示した)の一つ。現在のペガスス座のα・β星に相当する。
「彘(めいのこ)【牝。】」なるほど。「鴻門の会」で樊噲(はんかい)が出されて食った生の豚肉の硬い肩の肉は♀の豚のそれだったのだな。漢の高祖の死後に呂后(りょこう)が高祖の愛妾戚(せき)夫人の手足を切って、目を抉り、耳を焼き、厠に入れて「人彘(じんてい)」と名づけたのも、これでしっくりくるというものか。なお、そこで便所に入れたのは、古くから、豚が便所の下で飼われており、人糞を有効にリサイクルして餌としていたからであって、その部分は異常な仕儀なのではないので、念のため。「圂」があり、これは字を見れば一目瞭然で、元は「豚小屋」の意であるが、その上には概ね、人が便所あったわけで、後に「圂」は厠の意ともなったのである。
「豶(へのこなしのい)」陰茎去勢した牡豚普通に牡の豚の意もある。
「𣫔」は前に出た「黃腰獸」という異獣の別名でもあるので注意されたい。
「說文」「説文解字」。既出既注。
『牡を「豭〔(か)〕」と曰ひ、牝を「彘〔(てい)〕」と曰ふ【又、「豝〔(は)〕」と曰ひ、「䝏〔(らう)〕」と曰ふ』「本草綱目」(「巻五十上」の「獸之一畜類二十八種 附七種」の巻頭の「豕」)の釈名では、単に「牡曰豭曰牙牝曰彘曰豝曰䝏」と並べるだけであるので、これらの「豝」と「䝏」をどのような豚(性別・形状)に当たるかを述べていない。ところが、調べてみると、「豝」は二歳の豚を指すともあり(「漢字林」)、中文サイトの辞書では「䝏」は「母猪」とある。よく判らぬ。
『一子を「特」と曰ひ、二子を「師」と曰ひ、三子を「豵〔そう〕」と曰ひ、末子を「么〔(えう)〕」と曰ふ』これは中国の人間の長幼の序の呼称の比定呼称だろうから(載道派の文人は好んで人に比喩するものである)、そうなると、「一子」は「いつし」で第一子で、以下、順に「二子」は「にし」、「三子」は「さんし」、「末子」(「ばつし・まつし」)は末っ子ということになると私は読んだ。ところが、東洋文庫訳は原文の「一子」を『ひとつ子』と訳し、「二子」に『ふたご』とルビする。とすれば、ルビはないが、「三子」は「みつご」だ。それはそれで文句はないが、だとすると、最後の「末子」だけが呼称がおかしいことになる。こういう文章で最後だけが属性が異なるというのは、漢文学の表現では稀ではないかと思う。しかし、現行の豚(改良されいるから何とも言えないが)は一度に十匹以上は産むのが普通だ。明代(ここはやはり「本草綱目」の「釈名」に出ている)のブタが、産頭数が少なかったのかも知れぬ(この叙述をそのように読むなら、四頭生むのが普通だったとも読める)。以上、私には不審なので特に言い添えておく。なお、最後の「么」は現代仮名遣で音「ヨウ」「小さな・幼い」の意で腑に落ちる。「豵」は「漢字林」には一歳の豚とする。【2019年2月9日追記】いろいろな記事で小生の疑問に答えて下さるT氏より、メールを戴いた。以下、整理させて貰うと、まず、この記載の最も古いものは「爾雅」の「釋獸」で、
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豕、子豬。䝐、豶。幺幼。奏者豱。豕生三豵、二師、一特。所寢、檜。
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とある。この「爾雅」にはいろいろな注釈があるが、知られた郭璞の「爾雅注疏」の「巻十」「釋獸第十八」の中に、
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豕子、豬。[やぶちゃん注:中略。]么、幼【最後生者、俗呼爲么豚。么、音腰。】。[やぶちゃん注:中略。]豕生三豵、二、師、一、特。豬生子常多、故別其少者之名。
*
とあり、また、宋の羅願撰の「爾雅翼」の「巻二十三」の「豵」の釈文に、
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豕、生三子謂之「豵」、生二則謂之「師」、生一則謂之「特」。郭氏以爲、豕生子、常多故、別其少者之名「豵」。從「從」義、猶「從」也。
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とあることをお教え下さり、この『一子を「特」と曰ひ、二子を「師」と曰ひ、三子を「豵〔そう〕」と曰ひ、末子を「么〔(えう)〕」と曰ふ』のは、中国で『昔から多産の豚が』、『少子しか生まなかった時に』、『特別に名づけ』た名『との事』で、『「末子曰么」は』先の『「爾雅」の「 幺幼。」の変奏と思います』とお伝え下さった。私は返信で、『少ない産児に対する呼称でしたか。少ないからこそ名を付けて大事にしたのでしょうか。或いは、その呼称に呪的な意味があり、ちゃんと成豚となり、子を増やすような呪的意味があったのかも知れませんね』と記した。因みに、T氏はこの「么」の字を良安が使用していることに着目され、『この「末子曰么」ですが、日本で刊行された国会図書館で公開の「本草綱目」を見ると、寛文九(一六三二)年刊「本草綱目」(以下、総て当該頁リンクといた)が「么」、寛永一四(一六三七)年刊が「公」、承應二(一六五三)年刊も「公」、正徳四 (一七一四)年刊も「公」、刊期不明の江戸版の「本草綱目」でも「公」と、寛永十四年以降のものは「末子曰公」となっています(爾雅から言って校正ミスか?)。良庵先生は中国舶載版「本草綱目」をもっていたか、寛文九年またはそれ以前の日本版(?)を持っていたと推定されます。ちなみに、貝原益軒の「大和本草」以降は、中国でしか役に立たない知識として、この手の記述は完全無視となります』とあった。これも、良安の記載と「本草綱目」を比較する際の重要な指標となるものと思うので、特にここに追記させて戴き、T氏に心より御礼申し上げるものである。しかし、ということは、前の三つはやはり、東洋文庫の「ひとつ子」「ふたご」「みつご」の訳が正しいということになり、和訓するなら「ひとりご」「ふたご」「みつご」で、最後の「末子」のみが、それまでの並びとは別に、最後に生まれた子の意の「すゑつこ」ということになる(そこが、若干、やはり気にはなるが)。
「筋〔(すぢ)〕、多し」困ったもんや! 前のところで、「五雑組」では『豚(ゐのこ)には筋〔(すぢ)〕は無』し、と言っとったやん!
「傷寒」漢方では高熱を伴う急性疾患を指し、腸チフスなどとされる。
「瘧痢〔(ぎやくり)〕」「おこり」(概ね現在のマラリア)による高熱に起因する消化器不全による下痢症状を指す。
「痰痼〔(たんこ)〕」東洋文庫訳の割注は『慢性の喘息』とする。
「烏梅〔うばい)〕」梅の未熟な実を干して燻製(くんせい)にしたもので、漢方で下痢止めや駆虫などの薬とする。
「桔梗」正双子葉植物綱キク目キキョウ科キキョウ属キキョウ Platycodon grandifloras は根根にサポニン(saponin)を多く含むことから生薬「桔梗根(キキョウコン)」として利用される。去痰・鎮咳・鎮痛・鎮静・解熱作用があるとされ、消炎排膿薬・鎮咳去痰薬などに使われる。
「黃連〔(わうれん)〕」小型の多年生草本である、キンポウゲ目キンポウゲ科オウレン属オウレン Coptis japonica 及び同属のトウオウレン Coptis chinensis・Coptis
deltoidea の根茎を乾燥させたもの。『体のほてり(熱)を抑える性質が』ある『とされ、胃や腸を健やかに整えたり、腹痛や腹下りを止めたり、心のイライラを鎮めたりする働き』を持つ。『この生薬には抗菌作用、抗炎症作用等があるベルベリン(berberine)というアルカロイドが含まれている』とウィキの「オウレン」にあった。
「胡黃連」上記のオウレンとは全く異なる、高山性多年草の、シソ目ゴマノハグサ科コオウレン属コオウレン Picrorhiza kurrooa(ヒマラヤ西部からカシミールに分布)及びPicrorhiza
scrophulariiflora(ネパール・チベット・雲南省・四川省に分布)の根茎を乾かしたもの。古代インドからの生薬で、健胃・解熱薬として用い、正倉院の薬物中にも見いだされる。根茎に苦味があり、配糖体ピクロリジン(picrorhizin)を含むものの、薬理効果は不明である。
「脂膏〔(しかう/あぶら)〕」「末牟天伊加〔(マンテイカ)〕」スペイン語「manteca」。猪・豚などの脂肪。江戸時代、膏薬に加えたり、器機の錆止めに用いたりした。
「猪膽〔(ちよたん)〕」豚の胆嚢。まあ、イノシシでもいいだろう。
「葦(よし)」単子葉植物綱イネ目イネ科ダンチク(暖竹)亜科ヨシ属ヨシ
Phragmites australis。「アシ」は同一植物の異名。漢字の「葦」「芦」「蘆」「葭」も生物学的には総て同一種。
「小兒の五疳〔の〕蟲」、小児の身体の中にいて「心疳」・「肺疳」・「脾疳」・「腎疳」・「肝疳」の「五疳」の症状(時代や学派によって解釈が異なるが、症状としては夜泣き・乳吐き・ひきつけなどの現在の小児性の神経症的疾患を多く含んだ)を引き起こすと信じられていました「蟲」、所謂、「疳の虫」のことで、実際のヒト感染性の寄生虫を特に指すものではない(但し、極端に多数の寄生虫が寄生している場合には、小児の場合、嘔吐(古くは虫体を吐き出す「逆虫」という症状が記録されている)や腹痛を訴える症状は出たであろうが、通常では無症状である)。
「西戎〔(せいじゆう)〕」古代中国人がトルコ族・チベット族など西方の異民族を言った蔑称。
「底野迦〔(テリアカ)〕」「theriaca」でオランダ伝来の薬。色の赤い練り薬で毒蛇などの有毒動物の咬傷に効くとされた解毒剤。テリアギア(以上は小学館「日本国語大辞典」)。次に「ブリタニカ国際大百科事典」の記載。解毒薬。紀元五〇年から紀元六〇年頃、ローマ皇帝ネロの侍医アンドロマクスが発明したとされ、当初は毒蛇咬傷の解毒薬で、約七十種もの薬物からなる薬方であった。東洋には七世紀に伝わり、中国の「新修本草」(六五九年成立中国の本草書。唐の高宗が蘇敬らに書かせた中国最古の勅撰本草書)に外国渡来の薬方として記載されている。中世には黒死病(ペスト)など感染症の特効薬として使われ、以来、十九世紀まで、洋の東西で万能薬として珍重された。材料の薬種や数は国・時代によって多種多様であったが、蛇は必ず入っていた。次に平凡社「マイペディア」の解説がらの引用。『中国や日本にも底野迦の名で伝わったが』、『これは特に獣類にかまれたときの解毒に用いられたという』。
「長崎及び江戸」長崎は出島があり、西洋人が食すから判るが、何故、江戸なのだろう? 識者の御教授を乞う。
「豕〔(ぶた)〕・猪(ゐのこ)共に」この後者はイノシシである。
「字彙」明の梅膺祚(ばいようそ)の撰になる字書。一六一五年刊。三万三千百七十九字の漢字を二百十四の部首に分け、部首の配列及び部首内部の漢字配列は、孰れも筆画の数により、各字の下には古典や古字書を引用して字義を記す。検索し易く、便利な字書として広く用いられた。この字書で一つの完成を見た筆画順漢字配列法は、清の「康煕字典」以後、本邦の漢和字典にも受け継がれ、字書史上、大きな意味を持つ字書である(ここは主に小学館の「日本大百科全書」を参考にした)。]
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