和漢三才圖會卷第三十七 畜類 牛(うし) (ウシ或いはウシ亜科の種を含む)
△按牛子出生於
人家者必先行竃
前亦一異也徐長
突通鼻孔隔嵌𣳾
其桊用檉木可也
[やぶちゃん注:以上は底本では挿絵の上に配されてある。]
うし 瞿摩帝【梵書】
牯【牡】 特【同】
犅【同】 㸺【牝】
㹀【同】 犍【去勢】
牛
【和名宇之】
本綱牛字象角頭三封及尾之形有數品南牛曰※1北牛
[やぶちゃん注:「※1」=「牜」+「吳」。]
曰※2純色曰犧黒曰𤚎【和名麻伊】白曰𤛍赤曰𤙡【俗阿女宇之】駁曰
[やぶちゃん注:「※2」=「牜」+「秦」。]
犁牛子無角曰犢【和名古宇之】生二歲曰㸽三歲曰犙四歲曰
牭五歳曰𤘦六歳曰犕凡牛齒有下無上察其齒而知其
[やぶちゃん注:底本では「犕」は(つくり)が「構」の(つくり)であるが、現行の流布本の「本草綱目」に記載に従った。但し、古い「本草綱目」では良安が書いた通りの字である。]
年三歲二齒四歲四齒五歲六齒六歲以後毎年接脊骨
一節也牛耳聾其聽以鼻牛瞳竪而不橫其聲曰牟項垂
曰胡蹄肉曰𤜂百葉曰膍角胎曰䚡鼻木曰牶【和名牛乃波奈岐】
嚼草復出曰齝【和訓仁介加無】腹草未化曰聖虀牛在畜属土在
卦屬坤土緩而和其性順也乾陽爲馬坤陰爲牛故馬蹄
圓牛蹄坼馬病則臥陰勝也牛病則立陽勝也馬起先前
足臥先後足從陽也牛起先後足臥先前足從陰也牛者
稼穡之資不可多殺【今天下日用之食物雖嚴法不能禁】
肉【甘溫】 益氣養脾胃補腰脚【煑之入杏仁盧葉易爛相宜】其補氣與
黃茋同功【黑牛白頭者及自死牛有大毒不可食】惡馬食牛肉卽馴亦物
性也【合韮薤食令人熱病合生薑食損齒】
牛乳【甘微寒番語名保宇止留】 反胃噎膈大便燥結宜牛羊乳時時
嚥之並服四物湯爲上策
牛涎 治反胃嘔吐水服二匙終身不噎或用糯米末以
牛涎拌作小丸煑熟食【取涎法以水洗老牛口用鹽塗之少頃卽出】
牛膽 塗熱釜卽鳴【見淮南子】蛙得牛膽則不鳴此皆有所
制也
信實
新六ことことしことひの牛の角さきにきらある見るも恐しのよや
三才圖會云牛病則耳燥安則潤澤善角虎環其首外觸
虎雖猛不能制
△按牛馬見風則走牛喜順風馬喜逆風牛常食草葉就
中喜鳥蘞草葉蒭人誤苅入毒草則一一擇之不食毒
草其齝也凡四十八而止如病牛則齝數少若不齝者
必死寗戚相牛經甚詳其畧云
○頭欲瘦小○靣欲得長如短則命促○眼圓大而去角近
有白脉貫瞳吉○眼赤者觸人○眼下有旋毛名淚滴
主喪服○鼻欲軟而大易牽鼻如鎊鼻難牽○口欲方
大易餵○齒欲白○角短方大紋浪角形如仰弓吉
向前吉向後㐫兩角間有亂毛起名頭陀坊主○耳去
角要近可容指方好○耳後有旋毛名刺環招盜賊
頸骨欲長大○毛短密硬而黒者奈寒踈長如鼠毛者
怕寒○前脚欲直而闊後脚若曲而開○股瘦小則捷
快○蹄欲得大靑黒紫色吉○乳紅者多子乳踈黒者
無子○尿射前胯者快直下者鈍○尿欲蹲放如繩旋
有力臀欲厚重○尾稍長大吉
黃額牛有額上一花黃者○白胷牛黃牛有胷前一荅白
如手掌大者○牛中王白牛頭黃者○龍門牛角濶相
去一尺是亦牛中王也○蒿脊牛黃黒色當脊背上一
條白者以上五品養之皆大吉利也
鹿斑牛有班如鹿紋者○孝頭牛頭上白者○喪門牛黒
牛頭與尾白者○黃旛牛青牛頭脚俱黃角白者以上
四品養之並㐫也
△大抵關東馬多牛少關西牛多馬少京師牽天子皇后
三公御車市中車牛運送米穀薪木等皆用特牛農牛
耕田助人力關東則以馬代之
牧童使牛則左謂左世伊右謂比夜宇世牛隨其詞行
欲進則謂志伊欲止則謂堂宇【馬之進止與此同】
凡牛角漁人以鈎鰹東海多用之牛皮可爲大皷或旋
於履裏呼曰雪踏民間毎用之其他爲噐者多古皮以
可作阿膠又用角煑軟竪破擴徐踏押窄則再煑擴如
板挽櫛煑染黒文琢僞玳瑇油作蠟燭骨作厘等之衡
*
△按ずるに、牛の子、人家に出生する者、必ず、先づ、竃〔(かまど)〕の前に行くも亦、一異なり。徐〔(おもむろ)に〕長じて鼻の孔の隔〔(へだて)〕を突き通して、桊(はなぎ)を嵌(は)める。其れに〔→の〕𣳾、檉(むろ)の木を用ふるべし。
うし 瞿摩帝〔(くまてい)〕【梵書。】
牯(ことひ)【牡。】 特(ことひ)【同。】
犅(ことひ)【同。】 㸺(めうし)【牝。】
㹀(めうし)【同。】
犍(へのこなしのうし)【去勢。】
牛
【和名、「宇之」。】
[やぶちゃん注:「特(ことひ)」の読みは底本では『同』であるが、かく、した。]
「本綱」、牛の字、角頭三[やぶちゃん注:両角と頭の三つ。]〔と〕封[やぶちゃん注:肩甲骨の隆起。]及び尾の形に象る。數品〔(すひん)〕有り。南〔の〕牛を「※1〔(ご)〕」[やぶちゃん注:「※1」=「牜」+「吳」。]と曰ひ、北〔の〕牛を「※2〔(しん)〕」[やぶちゃん注:「※2」=「牜」+「秦」。]と曰ふ。純色[やぶちゃん注:以下の黒・白以外の明度の高い明るい単一色の牛のことと思われる。]を「犧〔ぎ)〕」と曰ひ、黒を「𤚎〔(ゆ)〕」【和名、「麻伊〔(まい)〕」。】と曰ひ、白を「𤛍〔(さい)〕」と曰ひ、赤を「𤙡」【俗、「阿女宇之〔(あめうし)〕」。】と曰ひ、駁(ぶち)を「犁〔(り)〕」と曰ふ。牛の子〔の〕角無きを「犢(こうし)」【和名、古宇之」。】と曰ふ。生れて二歲なるを「㸽〔(ばい)〕」と曰ひ、三歲なるを「犙〔(さん)〕」と曰ひ、四歲なるを「牭〔(し)〕」と曰ひ、五歳なるを「𤘦〔(かい)〕」と曰ひ、六歳なるを「犕〔(ひ)〕」と曰ふ[やぶちゃん注:底本では「犕」は(つくり)が「構」の(つくり)であるが、現行の流布本の「本草綱目」に記載に従った。但し、古い「本草綱目」では良安が書いた通りの字である。]。凡そ、牛の齒は、下に有りて上に無し。其の齒を察〔(しら)べ〕て其の年を知る。三歲なれば二齒、四歲なれば四齒、五歲なれば六齒、六歲以後、毎年、接脊骨、一節なり[やぶちゃん注:背骨を繋ぐ節骨が一つずつ増える。]。牛は、耳、聾にして、其れ、聽くこと、鼻を以つてす。牛の瞳(ひとみ)は竪(たて)にして橫ならず。其の聲、「牟(もう)」と曰ふ、項〔(うなじ)の〕垂(た)る〔るところ〕を「胡」と曰ひ、蹄〔(ひづめ)〕の肉を「𤜂〔(えい)〕」と曰ひ、百葉〔(いぶくろ)〕を「膍〔(ひ)〕」と曰ひ、角〔の〕胎〔(うちこ)〕を「䚡〔(さい)〕」と曰ふ。鼻の木を「牶(はなぎ)」【和名、「牛乃波奈岐」。】と曰ふ。草を嚼〔(は)み〕て復た出だすを「齝〔(にれかむ)〕【和訓「仁介加無」。】[やぶちゃん注:反芻することを指す動詞。]と曰ひ、腹の草、未だ化せざるを[やぶちゃん注:消化されていないものを。]「聖虀〔(せいせい)〕」と曰ふ。牛、畜[やぶちゃん注:家畜。]に在りては、「土」に属し、卦に在りては「坤土」に屬す。緩にして和、其の性、順なり。乾陽を馬と爲し、坤陰を牛と爲す。故に馬の蹄は圓く、牛の蹄は坼〔(さ)け〕たり。馬、病むときは、則ち、臥す。陰、勝てばなり。牛、病めば、則ち、立つ。陽、勝てばなり。馬、起つときは、前足を先〔(さき)〕にし、臥すときは後足を先す。陽に從ふなり。牛、起つときは、後足を先にし、臥すときは、前足を先す。陰に從ふなり。牛は稼穡〔(のらしごと)〕の資、多殺すべからず【今、天下の、日用の食物〔たり〕。嚴法〔あり〕と雖も、禁ずる能はず。】。
肉【甘、溫。】 氣を益し、脾胃を養ひ、腰脚[やぶちゃん注:足腰の健康。]を補ふ【之れを煑るに、杏仁・盧葉を入〔すれば〕爛〔(やはらか)〕に〔なり〕易く、相ひ宜ろし。】其〔の〕氣を補〔ふこと〕、黃茋〔(わうぎ)〕と功を同じうす。【黑牛の白頭の者及び自死せる牛、大毒有り。食ふべからず。】惡馬、牛肉を食〔はせば〕、卽ち、〔人に〕馴る〔も〕亦、物〔の〕性〔なれば〕なり。【韮薤〔(にら)〕と合はせ食へば、人をして熱病せしむ。生薑〔(しやうが)〕と合はせ食へば、齒を損ず。】。
牛乳【甘、微寒。番語、「保宇止留〔(ボウトル)〕」と名づく。】 反胃〔(ほんい)〕・噎膈〔(いつかく)〕・大便燥結[やぶちゃん注:便秘。]、牛・羊の乳、宜(よろ)し。時時、之れを嚥〔(の)〕む〔→みて、〕並びに、四物湯〔(しもつたう)〕を服さば、上策たり。
牛の涎〔(よだれ)〕 反胃・嘔吐を治す。水にて二匙(〔ふた〕さじ)を服すれば、身を終るまで、噎〔(いつ)〕せず。或いは糯米〔(もちごめ)〕の末を用ひ、牛の涎を以つて拌(かきま)ぜ、小〔さき〕丸〔(ぐわん)〕と作〔(な)〕し[やぶちゃん注:丸薬と成し。]、煑熟〔(しやじゆく)〕[やぶちゃん注:煮詰めること。]して食す【涎を取る法は、水を以つて老牛の口を洗ひ、鹽を用ひて之れに塗り、少-頃〔(しばらく)せば〕、卽ち、出づ。】。
牛膽〔(うしのきも)〕 熱〔せる〕釜に塗れば、卽ち、鳴る【「淮南子」を見よ。】。蛙、牛の膽を得ば、則ち、鳴かず。此れ、皆、制する所、有ればなり。
信實
「新六」
ことごとしことひの牛の角さきに
きらある見るも恐ろしのよや
「三才圖會」に云はく、『牛、病むときは、則ち、耳、燥〔(かは)〕く。安〔んずれば〕、則ち潤澤。善く、虎を角(つ)く。其の首を外に環〔(めぐ)ら〕して虎を觸(つ)く。猛(たけ)んと雖も、制すること、能はず』〔と〕。
△按ずるに、牛・馬、風(〔かぜ〕ふ)くを見ては、則ち、走る。牛は順風を喜び、馬は逆風を喜ぶ。牛、常に草葉を食し、中就〔(なかんづく)〕、鳥-蘞(つた)〔の〕草葉を喜ぶ。蒭〔(くさかる)〕人、誤りて毒草に〔→を〕苅り入る〔とも〕、則ち、一つ、一つ、之れを擇びて、毒草を食はず。其れ、齝(にれか)むや、凡そ四十八にして止む。病牛のごときは、則ち、齝むこと、數、少し。若〔(も)し〕、齝まざる者は、必ず死す。寗戚〔(ねいせき)〕が「相牛經〔(さうぎうけい)〕」に甚だ詳かなり。其の畧に云はく、
○頭、瘦せ小さきを欲(ほつ)す[やぶちゃん注:よしとする。]。○靣(おもて)、長〔きを〕得を欲す。如〔(も)〕し短きときは、則ち、命、促〔(はや)し〕。○眼は圓〔く〕大にして角を去ること、近く、白き脉(すぢ)有りて瞳を貫くは吉(よ)し。○眼の赤き者は人を觸(つ)く。○眼の下に旋-毛(つむじ)有るを「淚滴」と名して、喪服[やぶちゃん注:人の死の凶兆。]を主〔(つかさど)〕る。○鼻は軟くして大なるを欲す。牽き易し。鼻、鎊鼻〔(はうび)〕のごときは牽き難し。○口は方大[やぶちゃん注:角ばって大きいこと。]なるを欲す。餵〔(えさや)〕り易し。○齒は白きを欲す。○角は短く、方大にして、、紋に浪(みだり)に〔→(みだれ)ありて〕、角の形(なり)、仰〔げる〕弓のごとくなるは、吉し。 前に向くは吉し。後ろに向くは㐫[やぶちゃん注:「凶」の異体字]にして、兩角の間、亂毛有りて起くるを「頭陀坊主〔(づたばうず)〕」と名づく。○耳は角を去る〔こと〕、近きを要す。指を容〔(い)〕るゝばかりなるは、方〔(まさ)〕に好し。○耳の後に旋-毛〔(つむじ)〕有るを「刺環」と名づく。盜賊を招く。 頸の骨は長大を欲す。○毛は短く密硬にして[やぶちゃん注:密生していて、しかも硬く。]黒き者、寒に奈(た)ふ[やぶちゃん注:耐寒力がある。]。踈長〔(そちやう)〕にして[やぶちゃん注:疎らで長く。]鼠の毛のごとき者、寒を怕〔(おそ)〕る。○前脚は直にして闊〔(ひろ)〕く、後(うしろ)脚、曲るごとくにして開くを欲す。○股は瘦せて小さきは、則ち、捷快〔(せふくわい)なり〕[やぶちゃん注:すばしっこい。]。○蹄は、大を得〔て〕、靑・黒・紫色、吉し。○乳の紅なる者は多〔く〕子を乳〔(う)む〕。踈〔(まばら)に〕黒き者は、子、無し。○尿〔(いばりする)〕は、前の胯(またぐら)を射〔(い)〕る者、快く、直下なるは、鈍(にぶ)し。○尿〔(いばりする)〕は蹲〔(うづくま)り〕放〔つを〕欲し、繩の旋〔(めぐ)〕るがごとくなるは、力、有り。臀〔(しり)〕は厚重〔なる〕を欲す。○尾は、稍〔(やや)〕長大なるを吉とす。
黃額牛〔(わうがくぎう)〕は額の上に、一花、黃なる者有り。○白胷牛〔はくきようぎう〕[やぶちゃん注:「胷」は「胸」の異体字。]黃牛(あめうし)にして胷〔(むね)〕の前〔に〕一〔つの〕荅〔(あづき)のやうなる〕白き、手掌〔(てのひら)〕の大いさのごとくなる〔もの〕有る者〔なり〕。○牛〔の〕中〔の〕王は白牛にして、頭、黃なり。○龍門牛は角の濶〔(ひろ)く〕、相ひ去〔ること〕一尺。是〔れも〕亦、牛〔の〕中の王なり。○蒿脊牛〔(こうはいぎう)〕は、黃黒色、脊背〔(せきはい)〕の上に當〔(あた)り〕て一條、白き者〔なり〕。以上の五品は、之れを養ひて、皆、大〔いに〕吉〔(よ)く〕利〔あるもの〕なり。
鹿斑牛〔(ろくはんぎう)〕[やぶちゃん注:「班」は以下ともに「斑」の誤字であろう。]班〔(まだら)〕有り、鹿〔の〕紋のごとくなる者〔なり〕。○孝頭牛は、頭の上、白き者〔なり。〕○喪門牛は、黒牛にて、頭と尾と、白き者〔なり〕。○黃旛牛〔(わうばんぎう)〕は、青牛にして、頭・脚俱に黃にして、角、白き者〔なり〕。以上四品〔は〕之れを養ふこと、並びに[やぶちゃん注:総て。]㐫なり。
△大抵、關東には、馬、多く、牛、少なし。關西には、牛、多く、馬、少なし。京師には、天子・皇后・三公の御車を牽き、市中の車は、牛、米穀・薪木等を運送す。皆、特牛(ことひ)を用ひ、農牛は田を耕して人力を助く〔も〕、關東、則ち、馬を以つて之れに代〔(か)〕ふ。
牧童、牛を使ふに、則ち、左〔(ひだりす)る〕を「左世伊〔(させい)〕」と謂ひ、右〔(みぎす)る〕を「比夜宇世〔(ひやうせ)〕」と謂ふ。牛、其の詞に隨ひて行く。進(すゝ)めんと欲すれば、則ち、「志伊〔(しい)〕」と謂ひ、止(とゞ)めんと欲せば、則ち、「堂宇〔(どう)〕」と謂ふ【馬の進止、此れと同じ。】。
凡そ、牛の角、漁人、以つて鰹〔(かつを)〕を鈎〔(つ)〕るに、東海、多く、之れを用ふ。牛の皮、大皷〔(たいこ)〕に爲すべく、或いは履(くつ)の裏に旋らせ、呼んで「雪踏(せつた)」と曰ふ。民間、毎〔(つね)〕に之れを用ふ。其の他、噐〔(うつわ)〕と爲す者、多し。古〔き〕皮〔は〕以つて阿-膠(にかは)に作る。又、角を用ひて、煑〔(に)〕、軟(やはら)げ竪(た)つに、破〔り〕擴(ひろ)げ、徐(そろそろ)〔と〕踏み押(をさ)へ、窄(すぼ)まれば、則ち、再たび、煑、擴げ、板のごとくにし、櫛を挽き、黒き文〔(もん)〕を煑染(にそ)めて、琢(みが)きて、玳瑇(たいまい)に僞〔(いつは)〕る。油は蠟燭に作る。骨は厘等(れてぐ)の衡(さほ)に作る[やぶちゃん注:「厘等(れてぐ)」は「釐等具」で「れいてんぐ」とも読み(「等」の「テン」は唐音)、金銀などの重さを釐(り=厘(りん))などのわずかな量まで精密に量る竿秤(さおばかり)のことを指す。明治初年まで用いられ、竿は高級品では変質変形の少ない象牙・黒檀・紫檀などを用いた。「りんばかり」「りんだめ」とも呼ぶ。]。
[やぶちゃん注:その記載主体は、
鯨偶蹄目反芻(ウシ)亜目ウシ科ウシ亜科ウシ族ウシ属オーロックス Bos primigenius亜種ウシ Bos primigenius taurus
であるが、ウシ属には、
ガウル(Gaur)Bos gaurus(インド・カンボジア・タイ・中国雲南省・ネパール・ミャンマーに自然分布。以下同じ)
バンテン(Banteng)Bos javanicus(インドネシア(ジャワ島・ボルネオ島)・カンボジア・タイ・マレーシア・ミャンマー・ラオス)
ヤク(Yak)Bos mutus(インド北西部・中国甘粛省及びチベット自治区・パキスタン北東部)
コープレイ(Kouprey)Bos sauveli(嘗てはカンボジア北部・ラオス南部・ベトナム西部・タイ東部に分布していたが、現在はカンボジアに約二百五十頭が棲息するのみとされる)
がおり、分布域から考えて、以上の四種総て、或いは少なくともガウルとヤクは「本草綱目」の記載の範疇に含まれる可能性を考えるべきであろう。但し、前掲の種群の他にも、ウシ亜科 Bovinae に属する種群が別におり、「水牛」類は言うまでもなく、これら他の種群も記載可能性の射程に入れておく必要があると私は思う。同亜科には、
ニルガイ族ニルガイ属ニルガイ Boselaphus tragocamelus(インド:(グーグル画像検索「Boselaphus tragocamelus」を見ると、胴体はウシであるが、首から上はやや馬に似ており、巨大な鹿のようにも見える。実際、「ウマシカ」「ウマカモシカ」などの異名がある)
ニルガイ族ヨツヅノレイヨウ(四角羚羊)属ヨツヅノレイヨウ Tetracerus quadricornis(インド・ネパール:ウシ亜科の中でも原始的な種と考えられており、これに限っては画像を見る限り、牛ではなく如何にも鹿っぽい。ウィキの「ヨツヅノレイヨウ」のヨツヅノレイヨウの画像をリンクさせておく)
ウシ族アフリカスイギュウ属 Syncerus(タイプ種はアフリカスイギュウ Syncerus caffer)
ウシ族アジアスイギュウ属 Bubalus(アジアスイギュウ Bubalus arnee)
ウシ族バイソン属 Bison
などが含まれる。ウィキの「ウシ」によれば、上記の広義のウシ属の種群は、『一般の人々も牛と認めるような共通の体形と特徴を持っている。大きな胴体、短い首と一対の角、胴体と比べて短めの脚、軽快さがなく鈍重な動きである』。『ウシと比較的近縁の動物としては、同じウシ亜目(反芻亜目)にキリン類やシカ類、また、同じウシ科の仲間としてヤギ、ヒツジ、レイヨウなどがあるが、これらが牛と混同されることはまずない』とする。今までも「豚」「狗」「羊」で去勢されたそれらを指す漢字が示されてきたが、既に述べてきた通り、家畜として食用に供される群がいる種であることから考えても、その第一の目的は『食肉を目的として肥育される場合』で、牛の場合は、『雌雄とも去勢されることが多い』とし、ウシ肉の別記載では、『雄牛を去勢しないで肥育した場合、キメが粗くて硬い、消費者に好まれない牛肉に』なってしまう。『また』、『去勢しない雄牛を群』れで飼育『すると、牛同士の闘争が激しくなり、ケガが発生しやすく肉質の低下にもつながる。このため、日本の肉牛の雄は』、実に七十七%が去勢されている。去勢は三ヶ月齢『以上で行われることが多く、基本的に麻酔なしで実施される。去勢手術の失敗による傷口の化膿と肉芽腫の形成等が見られることがある』とある。話を去勢目的に戻すと、『飼育荷車牽引などの用務牛用途を目的として』♂『牛を用いる場合にも、精神的な荒さや発情を削ぐために去勢されるケースがよく見られる』とある。「生態・形態上の特徴」の項。『ウシは』四『つの胃をもち、一度飲み込んだ食べ物を』、『胃から口中に戻して再び噛む「反芻(はんすう)」をする反芻動物の』一『つである。実際には第』四『胃のみが本来の胃で胃液が分泌される。第』一『胃から第』三『胃までは食道が変化したものであるが、草の繊維を分解する細菌類、原虫類が常在し、繊維の消化を助ける。動物性タンパク質として細菌類、原虫類も消化される。ウシの歯は、雄牛の場合は上顎に』十二『本、下顎に』二十『本で、上顎の切歯(前歯)は無い』(「本草綱目」の謂いは切歯の観察しかしていないトンデモ誤認である)。『そのため、草を食べる時には長い舌で巻き取って口に運ぶ。鼻には、個体ごとに異なる鼻紋があり、個体の識別に利用される』。『農耕を助ける貴重な労働力であるウシを殺して神への犠牲とし、そこから転じてウシそのものを神聖な生き物として崇敬することは、古代より非常に広い地域と時代にわたって行われた信仰である。現在の例として、インドの特にヒンドゥー教徒の間で、ウシが神聖な生き物として敬われ、食のタブーとして肉食されることがないことは、よく知られている』。『牛が釘などを食べた場合に胃を保護するため、磁石を飲み込ませておく事もあるという』。「除角」の項。『牛は、飼料の確保や社会的順位の確立等のため、他の牛に対し、角突きを行うことがある。そのため』、『牛舎内での高密度の群飼い(狭い時で』一『頭当たり』五平方メートル前後)『ではケガが発生しやすく、肉質の低下に繋がることもある。また』、『管理者が死傷することを防止するためにも有効な手段と考えられており、日本の農家の約半数が除角を実施している。除角は』三ヶ月齢『以上でおこなう農家が多く(日本の農家の約』八十八%『)、断角器や焼きごてで実施され、そのうち』八十三%『は麻酔なしで除角される』。『除角は激痛を伴い』、『腐食性軟膏や焼きごて、のこぎり、頭蓋骨から角をえぐり取る除角スプーンを使う』とある。但し、『国産畜産物安心確保等支援事業「アニマルウェルフェア(動物福祉)の考え方に対応した肉用牛の飼養管理指針」では「除角によるストレスが少ないと言われている焼きごてでの実施が可能な生後』二『か月以内に実施すること」が推奨されている』とある』。「鼻環」(はなかん:「はなわ」とも読み、「はなぐり」とも呼ぶ)の項。本文の「桊(はなぎ)」のこと。読むと、可哀相なんだな、これって、痛いんだよな)。『鼻環による痛みを利用することで、牛の移動をスムーズにするなど、牛を調教しやすくすることができる。日本の農家では約』八十四%『で鼻環の装着が行われている。鼻環通しは麻酔なしで行われる』とある。「ウシの病気」の項。「舌遊び」の条。『舌を口の外へ長く出したり左右に動かしたり、丸めたり、さらには柵や空の飼槽などを舐める動作を持続的に行うこと。舌遊び行動中は心拍数が低下することが認められている。粗飼料の不足、繋留、単飼(』一『頭のみで飼育する)などの行動抑制、また生まれてすぐに母牛から離されることが舌遊びの原因となっている。「子牛は自然哺乳の場合』一『時間に』六千『回母牛の乳頭を吸うといわれている。その半分は単なるおしゃぶりにすぎないが、子牛の精神の安定に大きな意味をもつ。子牛は母牛の乳頭に吸い付きたいという強い欲求を持っているが、それが満たされないため、子牛は乳頭に似たものに向かっていく。成牛になっても満たされなかった欲求が葛藤行動として「舌遊び」にあらわれる」』。『実態調査では、種付け用黒毛和牛の雄牛の』百%、『同ホルスタイン種の雄牛の』六%、『食肉用に肥育されている去勢黒毛和牛の雄牛の』七十六%、『黒毛和牛の雌牛の』八十九%、『ホルスタイン種の』十七%『で舌遊び行動が認められた』(この病気、何か非常な哀感を覚えた)。「失明」の条。『霜降り肉を作るためには、筋肉繊維の中へ脂肪を交雑させる、という通常ではない状態を作り出さなければならない。そのため、肥育中期から高カロリーの濃厚飼料が与えられる一方で、脂肪細胞の増殖を抑える働きのあるビタミンAの給与制限が行われる。ビタミンAが欠乏すると、牛に様々な病気を引き起こす。 肥育農家がこのビタミンAコントロールに失敗し、ビタミンA欠乏が慢性的に続くと、光の情報を視神経に伝えるロドプシンという物質が機能しなくなり、重度になると、瞳孔が開いていき、失明に至る』。他に、『稀なケースであるが、牧場内に広葉樹があり』、『ドングリ』(ブナ目ブナ科
Fagaceae に属する種群、特に小楢(ブナ科コナラ属コナラ Quercus serrata)や水楢(コナラ属ミズナラ Quercus crispula)などの果実の一般通称総称でドングリという種は存在しない)『が採餌できる環境にあると、ドングリの成分であるポリフェノール』(polyphenol:分子内に複数のフェノール性ヒドロキシ基(hydroxyl group:ベンゼン環・ナフタレン環などの芳香環に結合したヒドロキシ基)を持つ植物成分の総称。その数は五千種以上に及び、植物細胞の生成・活性化などを助ける働きを持つ。赤ワインのそれが健康によいなどと言われるが、科学的な肯定的データは実は殆んどない。ポリフェノールの過剰摂取については、ヒトでも便秘や女性ホルモンの乱れを生じさせる恐れがあるとウィキの「ポリフェノール」にはある)『を過剰摂取してしまい』、『中毒死することがある』。最後に。二〇一三年の「国際連合食糧農業機関」の『統計によると、世界全体では』現在、約十四億七千万頭の『ウシが飼育されていると見積もられている』とある。因みに「米国勢調査局」と国連のデータからの推計で現在の地球上のヒトの個体数は七十五億である。
「桊(はなぎ)」前記注を参照。東洋文庫は誤って全くの別字の「𣳾」と誤判読してしまっている。
「檉(むろ)の木」漢名「杜松」で生薬として知られる、裸子植物門マツ綱マツ目ヒノキ科ビャクシン属ネズ Juniperus rigida の木の古名。他に別名を「ネズミサシ」「モロノキ」とも呼ぶ。ウィキの「ネズ」によれば、『和名はネズの硬い針葉をネズミ除けに使っていたこと』『から、ネズミを刺すという意でネズミサシとなり、それが縮まったことに由来する』。『日本では東北以南の日当たりの良い丘陵地帯や花崗岩地に自生している』。『ネズなどビャクシン属の雌の花序は、受粉後に多くの針葉樹と同様に球果となるが、通常の針葉樹のように乾燥した松ぼっくり状に熟すのではなく、受粉の』一~二『年後の』十『月頃に』なって、『黒紫色漿果状の肉質に熟し、果実食の鳥に食われて内部の種子が散布される』。『庭木、生垣として利用され、盆栽では音読みのトショウの名で親しまれている』。『球果は杜松子(トショウシ)と呼ばれ、中国では古くから』、『漢方の生薬として利用されている』とあり、効能は発汗促剤や利尿薬の他、膀胱炎・尿道炎・浮腫・痛風・風邪などに用いるという。
「ことひ」は「特牛」で「ことひうし」(古くは「ことひうじ」とも)で、頭が大きく、強健で、重荷を負うことの出来る特に(だから「特」という訳ではないようであるが)優れた牡牛を指す古語で、現代仮名遣では「ことい」。「こってい」とも。平安以降に出現している。
『牛の字、角頭三[やぶちゃん注:両角と頭の三つ。]〔と〕封[やぶちゃん注:肩甲骨の隆起。]及び尾の形に象る』正しい。因みに、音(「ギウ(ギュウ)」)形上は、「丘(キュウ)」に通じ、牛の背中が丘のように盛り上がっていることに拠るという。
「黒を「𤚎〔(ゆ)〕」【和名、「麻伊〔(まい)〕」。】」小学館「日本国語大辞典」によれば、漢字表記は「烏牛」で「まい」と読み、『黒い毛の牛』とする。例は十巻本「倭名類聚鈔」の巻七で、『烏牛 弁色立成云売牛<漢語抄云麻伊>黒牛也』をまず引き、後に観智院本「名義抄」から『烏牛 マイ クルマヒ』とする。
『赤を「𤙡」【俗、「阿女宇之〔(あめうし)〕」。】』「あめうじ」とも。飴色、黄色の毛色の牛で、古くは神聖にして立派な牛として貴ばれたというのが辞書的解説であるが、飴色の「あめ」とは「雨」で、大陸では雨乞の際に天空の神に神聖な黄色の牛を生贄として捧げたことに由来するようである。
「聖虀〔(せいせい)〕」「虀」はニラ・ショウガ・ニンニク等を細かく刻んだもの・それを使った料理・漬物・膾(なます)で、細切りにした和え物や「細かく刻む」の意である。
「杏仁」「狗」で既出既注。
「盧葉」単子葉植物綱イネ目イネ科ダンチク(暖竹)亜科ヨシ属ヨシ
Phragmites australis の葉。漢方の生薬でもあるようだ。
「黃茋〔(わうぎ)〕」は「黄耆」「黄蓍」とも書く、双子葉植物綱マメ目マメ科ゲンゲ属キバナオウギAstragalus
membranaceusの根から精製される漢方薬。同種は本邦の本州中部以北・北海道・中国・朝鮮半島の亜高山帯から高山帯にかけての草地・砂礫地に分布する。花期は七~八月頃に淡黄色の蝶形花を咲かせ、その根茎から製剤され、「日本薬局方」にも載る。有効成分はフラボノイド・サポニン・γ-アミノ酪酸(ギャバ・GABA)などで、利尿・血圧下降・血管拡張・発汗抑制作用を示し、強壮剤とされる。
「自死せる牛」原因不明で頓死した牛のことであろう。
「惡馬、牛肉を食〔はせば〕、卽ち、〔人に〕馴る〔も〕亦、物〔の〕性〔なれば〕なり」これは科学的観察などではない。「馬」は五行では「乾」で、牛の「坤」に対するものだからである。
「韮薤〔(にら)〕」単子葉植物綱キジカクシ目ヒガンバナ科ネギ属ニラ Allium tuberosum。
「生薑」と合はせ食へば、齒を損ず。】。
「保宇止留〔(ボウトル)〕」本「蓄類」の冒頭の注で述べた通り、この「ボウトル」とは英語の乳製品の「butter」のカタカナ音写に酷似することが判然とする(後の開国後の横浜で「バター」は「ボウトル」と呼ばれた)。「牛乳」にそれを振るのは誤りではあるが、誤認としては判らんではない。「日本乳業協会」公式サイト内の第八十四回「牛乳・乳製品から食と健康を考える会」によれば、享保九(一七二四)年に、『当時の通訳であり蘭学者であった今村市兵衛英生が「和蘭問答(わらんもんどう)」を著しております。その中に西洋人の食事マナーについて説明した部分があり、「西洋人は食べながら手を洗います。そしてただひたすら食べるのではなく、同席者の顔を見たり』、『話をしながら食べるのです。出された物を全部食べてしまうのではなく』、『一盛り残すことがマナーです。パン(原文では「ハム」と表記)を食べます。これにバター(原文ではボウトル)を塗って食べます。」と記しています』とあり、また、小野蘭山述の「本草綱目啓蒙」(享和三(一八〇三)年刊)には『「酪」の作り方や形状・食べ方が書かれていますが、江戸時代も後期になると「酪」は発酵乳のことではなく、バターとして使われています。この時代の「酪」は発酵乳なのかバターなのか牛乳なのか文献をしっかり読まなければ判別がつきにくくなっています』。『「「酪」は馬・羊及び馬の乳で作られて、その味は甘い。バター(原文ボウトル)と言う。その形は蝋のようで柔らかい。西洋人は蒸し餅に付けて食べる。悪臭がある。蒸餅は蒸饅頭の餡を抜いたものと言える。長崎ではパンと言っている。」と記しています』とある。良安の記述は正徳二(一七一二)年であるから、まんず、許し得る原料と加工品の名称の誤認と採ってよかろう。
「反胃〔(ほんい)〕」食べたものをすぐ吐いてしまうような状態或いはそうした慢性的症状を指す。
「噎膈〔(いつかく)〕」「膈噎」(かくいつ)が普通。「噎」は食物がすぐ喉の附近でつかえて吐く病気を、「膈」は食物が少し下の胸の附近でつかえて吐く病気を指すが、現在では現行の胃癌又は食道癌の類を指していたとされる。しかし、ここは進行したそれではあり得ないから、広義の咽喉や気道附近での「痞(つか)え」でよい。
「四物湯〔(しもつたう)〕」東洋文庫訳注では『当帰(とうき)(薬草の名)三、芍薬(しゃくやく)三、川芎(せんきゅう)(薬草の名)三、熱地黃(じおう)(多年生薬草)三、の割合で入れ、これを煎じてつくった薬湯』とする。「武田薬品」公式サイト内の「京都薬用植物園」の「四物湯(しもつとう)」に、『体力虚弱で、冷え症で皮膚が乾燥、色つやの悪い体質で胃腸障害のないものの、月経不順、更年期障害、貧血などに適用されます。本処方は顔色や皮膚につやがないなどの「血虚」という症状に用いる基本的な処方と言われています。血を補う作用は主に地黄と芍薬が担い、川芎や当帰には血のめぐりを良くする作用があります』とある。薬草の原材料はご自分でお調べあれ。ちょっと疲れました。
「牛の涎〔(よだれ)〕」考えてみると、何らかの消化酵素が期待出来るから、確かに薬効ありそうだなぁ。
「身を終るまで」生涯。そりゃ、言い過ぎでショウ!?!
「噎〔(いつ)〕」前で既注。
「牛膽〔(うしのきも)〕」「熱〔せる〕釜に塗れば、卽ち、鳴る【「淮南子」を見よ。】」釜鳴り成りの占術に用いるということか。しかし、「淮南子」にこの記載を見出せなかった。
「信實」「新六」「ことごとしことひの牛の角さきにきらある見るも恐ろしのよや」藤原信実(安元二(一一七六)年?~文永三(一二六六)年以降)の「新撰六帖題和歌集」(「新撰和歌六帖」とも呼ぶ。六巻。藤原家良(衣笠家良:いえよし。新三十六歌仙の一人)・為家(定家の子)・知家・信実・光俊の五人が、仁治四・寛元元(一二四三)年から翌年頃にかけて詠まれた和歌二千六百三十五首を収めた、類題和歌集。奇矯で特異な歌風を特徴とする)の「第二 人」の載る。「日文研」の「和歌データベース」で校合済み。
『「三才圖會」に云はく、『牛、病むときは、則ち、耳、燥〔(かは)〕く。安〔んずれば〕、則ち潤澤。善く、虎を角(つ)く。其の首を外に環〔(めぐ)ら〕して虎を觸(つ)く。猛(たけ)んと雖も、制すること、能はず』〔と〕』ここ(国立国会図書館デジタルコレクションの画像。図は前のコマ)。
『寗戚〔(ねいせき)〕が「相牛經〔(さうぎうけい)〕」』春秋時期の衛の出身で、後に斉の桓公に迎えられて宰相となった人物が書いたもので、以下を見るに、牛の良否や病気等について詳述した牛の古えのフリーキーな専門書であることが判る。こういうの、好き!
「鎊鼻〔(はうび)〕」「鎊」は「削る」の意であるから、尖った細い鼻の意であろう。
「一尺」春秋時代の一尺は二十二・五とちょっと短い。
「又、角を用ひて、煑〔(に)〕、軟(やはら)げ竪(た)つに、破〔り〕擴(ひろ)げ、徐(そろそろ)〔と〕踏み押(をさ)へ、窄(すぼ)まれば、則ち、再たび、煑、擴げ、板のごとくにし、櫛を挽き、黒き文〔(もん)〕を煑染(にそ)めて、琢(みが)きて、玳瑇(たいまい)に僞〔(いつは)〕る。油は蠟燭に作る。骨は厘等(れてぐ)の衡(さほ)に作る」この箇所、東洋文庫版訳には全くない。同訳書は凡例で、『異同のあるものでは、その都度』、『注記して異同を示した』とあるが、それも、ない。杜撰の極みである。なお、「玳瑇」は爬虫綱カメ目潜頸亜目ウミガメ上科ウミガメ科タイマイ属タイマイ Eretmochelys imbricata から加工した鼈甲のことである。これは嘗て、妻のために三味線の撥をを買う時、業者から聴いたことがある。]