君ゆゑに 國木田獨步
君ゆゑに
烏羽玉のやみの命と泣きつるに
君ゆゑに春の月夜となりにけり
うつらうつらと戀ゆゑに
樂しき夢をむすびつゝ
樂しき夢のさめぬ間に
わかき血しほのかれぬ間に
とことはの國に入らましあはれ君
[やぶちゃん注:初出不明。「烏羽玉の」「ぬばたまの」は「闇」・「黒」・「夜」・「夢」などに掛かる枕詞。「うばたまの」「むばたまの」とも言い、「射干玉」「烏羽玉」「野干玉」「夜干玉」などとも漢字表記する。「うばたま」はヒオウギ単子葉植物綱キジカクシ目アヤメ科アヤメ属ヒオウギ(檜扇)Iris
domestica の種子が黒いことに由来する。なお、「ぬばたまの」の読みで確定した理由は、後に出る「聞くや戀人」の中の「烏羽玉の」が、初出では「ぬばたまの」となっていることを根拠とした。]