山の聲 國木田獨步
山 の 聲
峰より峰に風わたり
遠ざかりゆく其聲を
聞きすます間に水のをと
溪より溪へひゞくなり
風聲遠く水近し
水野をとにもあらぬ聲
風の聲にもあらざるは
月にうかれて山かつの
妹がりゆきつ歸るさの
山路こえつゝうたふなり
あはれ其聲たえだえに
風にまじりつ水をとに
絕えつきこけつ遠ざかり
末は嵐となりにけり
風聲遠く月さむし
[やぶちゃん注:初出不明。二箇所の「をと」はママ。死後に出た二篇の詩集を見ると、孰れも「風聲」には「ふううせい」と振る。本篇を以って詞華集「抒情詩」の「獨步吟」パートは終わっている。]