蒲原有明 有明集(初版・正規表現版) 眞晝 (ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティの訳詩)
眞 晝
眞晝時(まひるどき)とぞなりにける、あるかなきかの
軟風(なよかぜ)もいぶき絕(た)えぬる日盛(ひざかり)や、
野(の)のかたを見(み)やればひとつ鐘(かね)のかげ、
うねりつづける生垣(いけがき)の圍(かこ)ひの隙(ひま)を
軒低(のきひく)き鄙(ひな)の家(や)白(しろ)くかつ照(て)りつ、
壁(かべ)を背(せ)に盲(めしひ)の漢子(をのこ)凭(よ)りかかり、
その面(おもて)をば振(ふり)りかへし日(ひ)にぞあてたる。
停(とどま)り足搔(あが)く旅(やび)の馬(うま)、土蹴(つちけ)る音(おと)は
緩(ゆる)やかに堅(かた)し、輝(かゞや)く光(ひかり)こそ
歌(うた)ふらめ、歌(うた)あひのしじま長(なが)きかな、
眞晝(まひる)は脚(あし)を休(やす)めつつ、ひとつところに、
かにかくに過(すが)ひ去(い)ぬべきさまもなく、
濃(こ)き空(そら)の色(いろ)はかなたにうち澱(よど)み、
暑(あつ)さはたゆき夢(ゆめ)載(の)せて重(おも)げに蒸(む)しぬ。
ロセチ白耳義旅中の吟
[やぶちゃん注:蒲原有明が傾倒していたイギリスの詩人で画家のダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ(Dante Gabriel Rossetti 一八二八年~一八八二年)の訳詩。後書きは底本ではもっと下方にある。その「白耳義」は「ベルギー」(België)と読む。この旅は一八四九年九月から十月にかけてのもの。原詩は「Near Brussels」と添書きする「A Half-way Pause」。
*
A
Half-way Pause
The
turn of noontide has begun.
In
the weak breeze the sunshine yields.
There
is a bell upon the fields.
On
the long hedgerow's tangled run
A
low white cottage intervenes:
Against
the wall a blind man leans,
And
sways his face to have the sun.
Our
horses' hoofs stir in the road,
Quiet
and sharp. Light hath a song
Whose
silence, being heard, seems long.
The
point of noon maketh abode,
And
will not be at once gone through.
The
sky's deep colour saddens you,
And
the heat weighs a dreamy load.
*]
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