蒲原有明 有明集(初版・正規表現版) 蠅 (ウィリアム・ブレイクの訳詩)
蠅
さ蠅(ばへ)よ、あはれ、
わがこころなき手もて、今、
汝(いまし)が夏の戯(たはぶ)れを
うるさきものに打拂(うちはら)ふ。
あらぬか、われや
汝(いまし)に似(に)たるさ蠅(ばへ)の身(み)、
あらぬか、汝(いまし)、さらばまた
われにも似(に)たる人(ひと)のさま。
われも舞(ま)ひ、飮(の)み、
かつは歌(うた)へども、終(つひ)の日(ひ)や、
差別(けぢめ)をおかぬ闇(やみ)の手(て)の
うち拂(はら)ふらむ、わが翼(つばさ)。
思(おも)ひわかつぞ
げにも命(いのち)なる、力(ちから)なる、
思(おも)ひなきこそ文目(あやめ)なき
死(し)にはあるなれ、かくもあらば、
さらばわが身(み)は
世(よ)にも幸(さち)あるさ蠅(ばへ)かな、
生(い)くといひ、將(は)た死(し)ぬといふ、
その孰(いづ)れともあらばあれ。
――ブ レ エ ク
[やぶちゃん注:これはイギリスの詩人で画家のウィリアム・ブレイク(William Blake 一七五七年~一八二七年)が一七九四年に刊行した詩画集の「無垢と経験の歌」(Songs of Innocence and of Experience)の中の「経験の歌」(Songs of Experience:これは一七八九年に彼が詩画集「無垢の歌」(Songs of Innocence)を出した四年後、その続篇として詩画集「経験の歌」の広告が一七九三年に出たが、結局、それは発行されることはなく、この一七九四年に既刊の「無垢の歌」と、その「経験の歌」が合本とされ、一つの詩画集「無垢と経験の歌」として刊行されたものであった)の中の一篇「The Fly」の訳詩である英文ウィキの「The Fly (poem)」から引く。添えられた手書き彩色の絵と詩篇の画像もリンクさせておく。なお、目次の「プレイク」は誤植で、本篇後書きのそれも「プ」のようにも見えるが(ポイントが小さく潰れていてよく判らない)、ここは良心的に「ブレイク」で表記しておいた。
*
The
Fly
Little
Fly
Thy
summer's play,
My
thoughtless hand
Has
brush'd away.
Am
not I
A
fly like thee?
Or
art not thou
A
man like me?
For
I dance
And
drink & sing;
Till
some blind hand
Shall
brush my wing.
If
thought is life
And
strength & breath;
And
the want
Of
thought is death;
Then
am I
A
happy fly,
If
I live,
Or
if I die.
*]
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