森に入る 國木田獨步
森に入る
遠山雪をわれのぞみ
若き血しほぞわきにける
自由にこがれわれはしも
深き森にぞ入りにける
あはれ乙女のこまねきて
戀しき君よと呼びてければ
わかき心のうきたちて
何時しか森をわれ出でぬ
森をば慕ふわれなれば
都のちまたに生ひたちし
乙女がこゝろあきたらで
戀が黃金に見かへしぬ
あはれはかなきわが戀よ
若きこゝろもくだかれて
わかき血しほも氷りはて
をぐらき森にわけ入りぬ
[やぶちゃん注:初出は『國民之友』明治三〇(一八九七)年二月。「抒情詩」原本では、第三連が右頁で終わり、左には山麓の森の挿絵が描かれている(作者は和田英作)。国文学研究資料館の「近代書誌・近代画像データベース」の「抒情詩」(高知市民図書館近森文庫所蔵)の当該頁画像で示しておく。]

