彼君 國木田獨步
彼 君
絕えて久しき彼の君を
夢に見ざりき、はからずも
昨夜の夢はさちなりき。
林の奥に小路ありて
かの君思ふ夕ごとに
あゝ幾度かさすらひし。
今朝起きいでゝ訪ひ來れば、
木の間をもるゝ日の光、
秋は梢に來たりけり。
仰ぐ日影のうつくしさ、
さそふ淚の怪しさよ。
秋の光の身にしむか、
はた君思ふゆゑなるか。
[やぶちゃん注:初出は『國民之友』明治三〇(一八九七)年十月。本篇が詞華集「靑葉集」に載る最終詩篇である。]
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