秋の夜 國木田獨步
秋 の 夜
たゞよふ白雲を、如何せん、
とゞめてこと問はん、由もなし。
月さやかに照りて、影さむく。
秋風身にしみて、淚落つ。
悠々の天地に、身を置けば、
哀々のこゝろの、なからずや。
いづこより來りし、あゝ此身、
かの吾友いま、いかにせし。
仰ぐ大空、とこしへに、
天のはるばる、見よ、雲たゞよふ、
淚あり、をのづから落つ。
[やぶちゃん注:「をのづから」はママ。「はるばる」の後半は底本では踊り字「〲」。初出は『國民之友』明治三〇(一八九七)年十月。
これには特異的に底本全集編者による大きな操作が加わっている。
一つは二行目で、詞華集「靑葉集」では
「とゞめごと問はん、由もなし。」
であるが、底本は初出を採っている。私もこれでよいと思う。
二つ目は終りから二行目で、「靑葉集」では
「天のはるばる見よ、雲たゞよふ。」(「はるはる」の後半は踊り字「〲」)
であり、初出は
「天のはるはる、見よ、雲たゞよふ、」(「はるはる」の後半は踊り字「〱」)
となっている。全集編者はここれをカップリングしたわけであるが、諸条件から見て、この仕儀も私は最善の選択と心得るものである。]

