和漢三才圖會卷第三十八 獸類 豰(こく) (仮想妖獣? ジャイアントパンダ?/ベンガルヤマネコ?)
こく 黃腰獸
豰【音斛】
本綱黃腰獸似豹而小腰以上黃以下黒形類犬又云鼬
身貍首長則食母形雖小而能食虎及牛鹿
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こく 黃腰獸
豰【音、「斛〔コク〕」。】
「本綱」、黃腰獸、豹に似て、小なり。腰より以上は黃なり。以下は黒し。形、犬に類す。又、云はく、鼬〔(いたち)〕の身、貍〔(り)〕の首〔と〕。長ずるときは、則ち、母を食ふ。形、小なりと雖も、能く虎及び牛・鹿を食う。
[やぶちゃん注:大修館書店「廣漢和辭典」によれば、「執夷(シツイ)」とも呼び、虎や羆(ひぐま)に似るという、仮想幼獣。現行、この「豰」は他にイノシシ・♂イノシシ・子豚の意があるが、叙述とは一致しない。単色の図(出所不明)は如何にも実在しそうに見えるが、どうもピンとこない。種同定した記載も見当たらない。敢えて言うなら、ネコ目ネコ科ヒョウ属ヒョウ
Panthera pardus の劣性遺伝により突然変異した黒変種(「クロヒョウ」と呼ぶが、そういう種が存在するのではない)を誤認したものかも知れぬと思ったが、中文辞書の「漢語網」のこちらでは、ジャイアントパンダ』(哺乳綱食肉目クマ科ジャイアントパンダ属ジャイアントパンダ Ailuropoda melanoleuca に同定していて、ちょっとびっくりした。しかし、言われてみれば、パンダの白色帯が黄色く汚れるのは見たことがあるし、中文では「大熊猫」でヒグマに似るというのと一致するし、実際、小型哺乳類を食べることもあり、他のクマ類と同様、肉食を含む雑食性の特徴も僅かながら保持しており、気性も実際には荒い。但し、同種は既に「騶虞」で比定候補の有力な一つとして出てはいる。
「貍〔(り)〕」これは「たぬき」とも読める(東洋文庫訳はそう振っている)が、実は、もとは「野猫」を指し、これはベンガルヤマネコ(ネコ科ベンガルヤマネコ属ベンガルヤマネコ Prionailurus bengalensis)等のヤマネコ類をも指す語であり、ここで獰猛さを考えると、タヌキではなく、そうした類と考えた方が腑に落ちる。次注も参照のこと。
「長ずるときは、則ち、母を食ふ」これは不孝の獣で、梟が不当にもそれとされてきた。さても、そこで「和漢三才圖會卷第四十四 山禽類 鴞(ふくろふ)(フクロウ類)」に於いて、
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孟康が云はく、『梟、母を食ふ。破鏡は、父を食ふ』〔と〕、破鏡とは貙〔(ちゆう)〕のごとくにして、虎の眼の獸〔(けもの)〕なり【貙は狸に似たる獸〔なり〕。】。
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と記してあったのを思い出した。この「貙〔(ちゆう)〕」「虎の眼の獸〔(けもの)〕」「狸に似たる獸」現代仮名遣で「チュウ」獣の名で、大きさは狗(く:イヌ・クマ・トラなどの小形種のものの子)ほどで貍(前注通り、ヤマネコ類と採る)のような紋様があるとする、「貙虎(ちゅうこ)」とも。「爾雅注疏」の「釋獸」に「貙獌似貍【疏:字林云貙似貍而大一名獌郭云今山民呼貙虎之大者爲貙豻……」と出、また「説文解字注」の「犬部の「獌」には「郭云今貙虎也大如狗文似貍」とある(以上は「K'sBookshelf 辞典・用語 漢字林」に拠った)のである。私は以上から、前に掲げたベンガルヤマネコのようなヤマネコ類の変異個体をも同定候補の一つとすべきであるように感じているのである(因みに同種は中国にも分布する)。]
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