絕望 國木田獨步
(去年の夢)
さみだれさびし獨りして
ものを思へばはてもなし
あはれとて泣きしは夢の心地して
にくしとも恨むは今のうゝつなる
行末はいかにもとあれ
鬼よ去れ、絕望の鬼
燃えつゝ氷る心地する
今の我身をしばしだに
鬼よ去れ、絕望の鬼
こしかたの夢さめはてぬ
ゆくすえ光だもみず
木枯し吹くとこやみの空
星落ちてゆくえを知らず
あゝわが魂いづこに迷ふ
[やぶちゃん注:初出不明。「ゆくすえ」はママ。「去年」は「こぞ」と読みたい。実は底本には問題があり、第二連と第三連の間は改ページであるが、前後孰れのページも、一行余す、或いは、一行空ける仕儀を版組上で行っていない。しかし、これまでの詩篇やこの後の本詞華集の彼の詩篇で、第一連を四行でブレイクした後、第二連を十行連続とするのに近い詩篇構成を見出せないのである。黙読のリズムからも、朗読上からの観点からも、「行末はいかにもとあれ」/「鬼よ去れ、絕望の鬼」/「燃えつゝ氷る心地する」/「今の我身をしばしだに」/「鬼よ去れ、絕望の鬼」の後に有意にブレイクが入って、以下、第三連へと続くのが自然であると私は思う。詞華集「青葉集」原本を確認出来ないが、私は、暫く上記の通りとする。実は、「抒情詩」の中にも、一篇、同じ疑問を抱いた箇所があったが、これは二本の原典画像で視認し、行空けがあることが確認出来たので、特に注さなかったのである。そういう〈前科〉が底本にはあるので、今回は特にかく注を附してそのような仕儀を行った。大方の御叱正を俟つものではある。]

