海人の妻 伊良子清白
海人の妻
うまれて海を家とせば
目路(めぢ)にわきたつ靑き浪
飜り行く魚のごと
潮に滑べる海人(あま)の船
日每日每に別路(わかれぢ)の
海人の妻こそ悲しけれ
晝はしみらに子を抱きて
行方(ゆくへ)もしらぬおもひかな
見よ海原(うなばら)の吹き荒れて
高波白くよせくれば
持佛(ぢぶつ)の前にひざまづき
夫(つま)安かれといのるなり
[やぶちゃん注:前の「鷗」同様、明治三四(一九〇一)年九月発行『文庫』に発表された、既に電子化した八小篇からなる長詩「海の歌」の中の、「其三 女護が島」を独立させた上、改題して一部に手を加えたものである。初出形はリンク先のそれであるので参照されたい。]